老い生いの詩

老いを生きて往く。老いの行く先は哀しみであり、それは生きる物の運命である。蜉蝣の如く静に死を受け容れて行く。

時間がない

2023-06-17 18:45:21 | 沁みる砂時計
1962 呼鈴


呼鈴を鳴らすと息子が飛んで来る

96歳の文乃婆さん
昨日ヘルパーに「(私は)時間がない」、と話しかけた。
文乃さん自身 そう長くは生きられない、と感じているようだ。

つねに傍に誰かが居ないと寂しくて、呼鈴を何度も打ち続ける。
口から食べなくなってきた。

毎日のようにヘルパーがサービスに訪れる時間に
自分も「おじゃま虫」をしている。
何もできないのだが、文乃さんの躰の向きを変えるとき
反対側に居て頭や躰を支える。

「水が飲みたい」、と訴えた。
長男嫁は気をきかして「ぬるめの水」を吸い飲みに入れてきた。
一口、二口飲んだあと「冷たい水」、と催促した。
長男嫁は笑いながら「冷たい水」に入れ直し、
口元に吸い飲みの先を入れ、冷たい水は喉元を通った。

文乃さんにとり 冷たい水が飲めたこと
それは生きようとする彼女の姿を感じてしまう。

文乃さんは「これが年寄りの冷や水」、だと笑いながら話す。
言葉の意味が違うことは勿論知っている。

今日は肩呼吸をされていた。
食べていなくても、卵の黄身を混ぜたような粘着質のウンチが多量に出た。
にんげん、最期が近づくと出すものは出して躰の中をきれいにする。
水も飲まなくなり、オシッコもでなくると・・・・・。

それだけに文乃さんにとり1時間10分1分1秒の時間
母屋で息子ら家族と過ごしたい、とそう思い
呼鈴を鳴らし続ける。


                 今日 早朝に出会ったハルジョン