1964 石のぬくもり
路傍の石は動くことはできず
ジッと地面と空を見つめている
小石を手のひらにのせ
小石を握ってみた
小石にもぬくもりを感じた
左手は握り拳(こぶし)の如く曲がったまま拘縮
両膝は「く」の字に曲がり脚を伸ばせない
ひとりで寝返りることもできない躰
染みついた天井を一日中眺めている
老いた妻は野良に出かけ
ねたきりの夫はベッド上で留守番
黒電話は鳴ることもなく
ヘルパーが来るのを待っている
ジッと寝ている
老人の躰と心は寂しく
石のように冷たくなった躰
還暦を過ぎたヘルパーは
拘縮した左手の指をゆっくり解(ほど)き解(ほぐ)し
手のひらを握り 言葉のかわりに握り返す
老人のぬくもりが微かに伝わってくる
温かいタオルで躰を拭くと
老人の肌は薄ピンク色に染まってきた
路傍に咲いていた名も知らぬ花を
小さな花瓶に飾り
「また来るね」、と手のひらを握る
路傍の石は動くことはできず
ジッと地面と空を見つめている
小石を手のひらにのせ
小石を握ってみた
小石にもぬくもりを感じた
左手は握り拳(こぶし)の如く曲がったまま拘縮
両膝は「く」の字に曲がり脚を伸ばせない
ひとりで寝返りることもできない躰
染みついた天井を一日中眺めている
老いた妻は野良に出かけ
ねたきりの夫はベッド上で留守番
黒電話は鳴ることもなく
ヘルパーが来るのを待っている
ジッと寝ている
老人の躰と心は寂しく
石のように冷たくなった躰
還暦を過ぎたヘルパーは
拘縮した左手の指をゆっくり解(ほど)き解(ほぐ)し
手のひらを握り 言葉のかわりに握り返す
老人のぬくもりが微かに伝わってくる
温かいタオルで躰を拭くと
老人の肌は薄ピンク色に染まってきた
路傍に咲いていた名も知らぬ花を
小さな花瓶に飾り
「また来るね」、と手のひらを握る
{加筆修正)