ルリタテハの蛹が二つ,コップに挿したホトトギスの茎・葉に付いています。それらが前蛹になる直前の話,よくよく観察していて「ほほーっ!」と納得できたことがあります。
タテハチョウの蛹は腹端を固定面にくっ付けてぶら下がります。いわゆる“垂蛹型”をするのが特徴です。からだが垂れ下がったときに,ほかの障害物,たとえば他の葉や茎に触れるのは安全上よくないことです。蛹がそうなので,前蛹もまたその態勢に円滑に入れるようにしておかなくてはなりません。つまり,予め蛹化する位置をきちんと決めておかなくてはならないということなのです。
そのつもりで,前蛹に入ろうとしている終齢幼虫の動きを観察してみました。
脱皮とか,前蛹化とかといった大変化に移行する前,幼虫の動きはピタリと止まります。ふつう一日,二日は当たり前といった感じです。そして前蛹に移行する直前,終齢幼虫は少なくとも数時間じっとしています。それで,「ははーん,間もなく前蛹になるな」と直感できます。
やがて動き始めて,葉や茎やらを移動します。場合によっては葉の裏側で逆さまになってぶら下がります。きっとこれは,距離感を確かめているのでしょう。頭部が下にある障害物につかえないとなると,「ここは蛹になるのに適している」と本能がはたらくにちがいありません。すると,そこを前蛹になる位置と心得て,遠くに移動せずしばらくじっとしています。
そのうちに,腹端をくっ付ける絹糸を吐き出します。頭が左右に移動するので,よくわかります。この作業を終えると,逆さ向きになって腹端を付けてぶら下がるのです。
下の個体は別のものですが,やはり同じ動きを見せました。
体内に組み込まれた,こうした巧妙なしくみに脱帽です。ヒトの歴史よりずっとずっと長い生命史の中でかたちづくられた習性には,すっかり感動してしまいます。