アゲハの庭園にて。
手入れをしていると,なんだか嗅いだことのある甘酸っぱい匂いが漂ってきました。 「あれはアゲハが臭角を出したときの匂いだな」と,瞬間思いました。「はて,レモンか,キンカンの木にでもいるのか」と思い,頭を上げて脇のキンカンの木を見た途端,ドキッとするシーンが目に飛び込んできました。
ハラビロカマキリがクロアゲハの幼虫を捕まえて食している最中でした。幼虫は真紅の臭角を出して,もがいている様子です。突然襲われたのですから,びっくり以外の何ものでもないでしょう。すでにからだが引き裂かれ,惨めな姿に成り果てていました。
道理で匂いがしたはずです。
見ると,カマキリは堂々たるものです。風格があります。それに比べて,幼虫のこ姿は! ただ,ここで哀れみの感情を抱いて幼虫を助けようとしても,無駄です。生きとし生けるものの摂理にしたがって,カマキリは淡々と食餌行動をしているに過ぎませんし,幼虫は「食べられるもの」として身を委ねるほかないのですから。観察者としてはただじっと推移を見つめるだけ。
そんなわけで,観察を続けることにしました。
ときどき姿勢や位置を変えました。わたしを意識しているのかもしれません。それでも,食べることはやめません。ときには,食いちぎるといった食べ方をしました。
すこし場所を変えながら,どんどん食べていきました。
短時間なのに食べることに集中しているせいか,幼虫のからだはどんどん小さくなっていきました。幼虫の筋肉がむき出しになっています。
6本の脚がそれぞれに機能して,姿勢を保ち続けます。どんな格好であろうと,へっちゃらという感じ。肉食性昆虫カマキリを支えるつくりが見事にできあがっているのです。
こんなふうに鎌状の前脚で抱え込まれたら,ひとたまりもありません。
このあと,頭部は落下していきました。カマキリが意識的にそうしたのかどうか,それはわかりません。
それにしても,「食べる」「食べられる」という食物連鎖の世界は,身近なところにおいてさえスゴイの一言に尽きます。昆虫は食べられる宿命を背負って生きているのです。