●今日の一枚 202●
The Bill Evans Album
カーテーンの隙間から入り込む風が気持ちよく、さわやかな朝だと思ってベッドを抜け出し、カーテンをあけたら、ギラギラした原色の太陽の光が飛び込んできて、目が痛い。天気予報では今日も暑くなると報じている。軽めの曲を聴いて穏やかな気持ちになりたいと、取り出したのが大袈裟なタイトルをもったこのアルバムである。
『ザ・ビル・エヴァンス・アルバム』。ビル・エヴァンスの1971年録音作品だ。CBSへの移籍第一弾であり、前作?『フロム・レフト・トゥ・ライト』に続いて、エレクトリック・ピアノを使用した珍しい作品である。珍しいとはいっても、この時期のエヴァンスはかなり本気でエレクトリックサウンドを取り入れようとしていたふしがある。でなければ、二作も続けて電気ピアノを導入したりはしないであろう。巷のフュージョン・ブームの中でエヴァンスもそれに影響を受けたのであろうか。あるいは、煮詰まった自分の音楽からの突破口として、電気ピアノで表現の幅を広げようとしたのだろうか。いずれにしても、新しい表現を模索しようとするこのエヴァンスの態度は好ましいものだ。評論家筋では、エレクトリック・エヴァンスは概して評判が悪く、まともな論評もしてもらえないのが現状であるが、よく聴けば、これはこれで面白いのではないか。
スタインウェイ・ピアノとフェンダー・ローズを使い分けるエヴァンスのプレイについては、エレクトリック・サウンドに飛び込みきれず、古い自分のスタイルにしがみついているという評価もあるのだろうが、この使い分けがかなりいい効果をもたらしていることは事実である。私は好きである。電気ピアノのみの演奏だたったら、恐らくもっと飽きのきやすい単調でつまらない作品になっていたような気がする。ある意味深遠で趣のあるアコースティック・ピアノに、フェンダー・ローズの響きが爽やかで軽いテイストを付け加えている。歴史に残る名演ではないかもしれないが、十分に聴くに値する作品であり、生活の中に潤いをもたらす一枚であると考える。
しかし、それにしても何という醜悪なジャケットだろう。エレクトリック・ピアノの揺れる雰囲気をかもしだろうとしたのだろうが、はっきりいって失敗であろう。気持ち悪い。エヴァンスのディフォルメされた肖像も、私にはうだつのあがらない酔っ払いオヤジか、助平な変質者にしか見えない。ジャケットがその爽やかな内容を完全に裏切っている。私がこのアルバムを手に取ることの少ない理由の多くは、この気持ち悪いジャケットにある。爽やかな演奏だと知りつつも、ジャケットの気持ち悪さに、それを手に取ることさえ憚られるのだ。