◎今日の一枚 234◎
Stanley turrentine
Straight Ahead
なぜ、これがCD化されていないのだろうか。
私の所有する音楽媒体にはLPやCDのほかに大量のカセットテープがあり、その中にはかつてよく聴いたお気に入り盤も多く含まれている。カセットテープの多くは、若い頃お金がなくてLPレコードを思うように買えなかった時代のものであり、友人から借りたものやレンタルしたものをダビングしたものだ。もちろん、その後改めてCDやLPを購入したものも多いが、中には今日までそのままのものも少なからず存在する。CD機器をを導入し、経済的に以前より多くのCDを購入できるようになるにつれて、それらのカセットテープを聴く頻度は減り、いつしかかえりみられなくなってしまった。
午後の暖かい日差しの中、次男とともにリビングでうたた寝をし、物音に目覚めてまどろみの中にいると、頭のずっと奥の方でメロディーが流れていた。すぐには曲名は思い出せなかったが、そのメロディーを口ずさみながらしばらく考えてみると、どうもスタンリー・タレンタインのもののような気がして、もっているLP、CD、カセットテープを片っ端からあたってみた。
スタンリー・タレンタインの1984年録音盤『ストレート・アヘッド』、新生Blue Noteの最初期の作品である。まどろみの中で聞こえてきたメロディーは、このアルバムの中の一曲だ。若い頃、ウォーキング・ステレオで何度も何度も聴いたアルバムである。ほとんどリアルタイムで聴いたのだ。恐らくは発表されて比較的早い時期に、レンタルしたLPをダビングしたものだと思う。何度も何度も繰り返し聴いた作品なのに、CDを買わなかったばかりに、カセットテープのままラックの片隅に置き去りにされてしまったわけだ。何年ぶりだろうか、カセットデッキのトレイにのせてみると、次から次へと本当に懐かしい印象的なサウンドがよみがえってきた。懐かしいだけではない、演奏自体が大変優れた作品だ。評論家筋の意見はよくわからないのだが、少なくとも私の持っているスタンリー・タレンタインの作品の中では最高傑作だと考えている。新生ブルーノート時代のスタンリー・タレンタインは、よりフュージョン色の強いサウンドに変化していったが、「ボステナー」といわれた彼の流麗なメロディラインは、フュージョンでも十二分にその真価を発揮している。また、純正ジャズでならしたその流れるようなアドリブ展開は、ブルージーでファンキーなフィーリングとあいまって、退屈で刺激の少ない、他の凡百のフュージョンサウンドとは明らかに一線を画すものとなっている。カセットテープケースに記されたメモを見ると、サイドメンもすごい。George Benson(g)、Ron Carter(b)、Jimmy Madison(ds)、Jimmy Smith(or)という編成だ。特にGeorge Benson のギターがいい味をだしている。写真でよく見る、ちょび髭のスケベそうな George Benson の顔は気持ち悪いが、このようなギターを弾く George Benson は本当に凄いと思う。豪華なサイドメンたちをバックに、スタンリー・タレンタインは、スリリングで刺激的で情感溢れるプレイを展開する。最高傑作と考える所以である。
そんなわけで、これはCDを買っておかなくっちゃと思い、webで注文しようとしたのだがどういうわけかCD化されていないようだ。一体どうなっているのだろう。まったく、失望だ。何かの権利の問題があるのだろうか、あるいは批評家筋の評価が低いのだろうか。しかし、私としてはこのアルバムがCD化されていないことについては理解しがたい。この現実には承服しかねる。ただ、誰が何と言おうともいっておこう。これは本当にすぐれたアルバムである。
まどろみの中で浮かんだ曲とは、B-② The Longer You Wait だ。まどろみの中で聴くサウンドとしてはまったくふさわしい。