webのフリー百科事典『Wikipedia』は、松下治夫『芸能王国渡辺プロの真実』を参照して、太田裕美が当初はキャンディーズの一員としてデビューする予定だったが、田中好子と交代したという話を掲載している。本当だろうか。多分本当なのだろう。しかし、キャンディーズの一員としての太田裕美などどうしてもイメージできない。キャンディーズは十二分に素敵だが、太田裕美がその一員としてあの超ミニスカートをはいているなどどうしても想像できないし、したくもない。太田裕美のパンチラ超ミニスカートも興味はあるが、やはり彼女には長めのスカートが似合う。その意味で、太田裕美はある種の偶像であり、記号なのだ。
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「たんぽぽ」 (作詞:松本隆 作曲:筒美京平)
あなたの声が聞きたくて
街の電話をかけたのに
話し中の相手はだれだれですか
雲のようにひろがる
胸の中のさびしさ
どうぞ あなたのはずむ声で
涙消してください
いつかあなたに後ろから
目隠しされた公園よ
振り向いてもだれもいない風の音
灰色した歩道の
すみに咲いた たんぽぽ
そんな小さな花のように
そばにおいてください
そんな小さな花のように
そばにおいてください
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さて、太田裕美の2ndシングル「たんぽぽ」である。1975年にリリースされたセカンドアルバム『短編集』に収録された楽曲だ。いかにも70年代歌謡曲然としたサウンドであり、その意味では凡庸な曲ということもできるが、今聴くと、この歌詞は何だ。考えようによっては、凄い歌詞である。「たんぽぽ」などというかわいらしい表題とは裏腹に、陰にこもるじめじめと湿った感じの、古めかしい言葉で言えば、女の情念あるいは怨念を感じさせるような、演歌チックな歌詞である。今日的にいえば、ストーカーになるすれすれの歌詞だといえるかもしれない。ぎりぎりのところで、「雲のように広がる 胸の中のさびしさ」という部分に救われる。限りなく広がる悲しみを表現しようとしたのであろうが、その穏やかなメロディーとあいまって、結果的には開放的な感覚を表出している。
この「青春の太田裕美」シリーズでなんども繰り返してきたが、内向の時代である70年代であるからこそ可能であった歌詞の展開なのだと思う。「そんな小さな花のように そばにおいてください」などというところに表出される、女の子の切羽詰った感じや、その《かわいらしさ》は、やはり70年代特有のフィーリングなのであり、現在的な文脈では、女性蔑視ともとられかねないであろう。本来どろどろした女の子の情念や怨念を《かわいらしさ》に変換し、それらを隠蔽する装置が1970年代には確かに存在したのだと思う。