WATERCOLORS ~非哲学的断章~

ジャズ・ロック・時評・追憶

これがあれだったのか

2013年11月02日 | 今日の一枚(G-H)

◎今日の一枚 356◎

Grover Washington Jr.

Come Morning

 

 これこれ、これがあれだったのか。グローヴァー・ワシントン・ジュニアの1981年録音盤、『カム・モーニング』だ。リアルタイムで聴いていたアルバムなのだけれど、カセットテープでいくつかのアルバムを並列的に聴いていたせいか、グローヴァー・ワシントン・ジュニアの作品はアルバム名と内容が一致しない。どの曲がどのアルバムに入っているのかも曖昧だ。カセットデッキが故障したこともあり、1000円の「完全限定盤」を購入してみた。1000円といっても、一応24bit盤だ。

 一聴、これこれ、これがあれだったのか、とつぶやいてしまった。安物のカセット・ヘッドホーンステレオで、本当によく聴いたアルバムだったのだ。渋谷の街を闊歩する私の耳元でいつも鳴っていた曲たちだ。どの曲も耳にこびりついている。聴きながら鼻歌を歌ってしまう始末だ。③ Be Mine のボーカルはあの歌うドラマー、グラディ・テイトだ。といっても、当時はグラディ・テイトの名前など知らなかったが・・・・。

 グローヴァー・ワシントン・ジュニアの作品は、いつも「都会的に洗練されたサウンド」とか、「メローでソフトでロマンチック」とか形容される。もしかしたら、当時の私もそう感じていたのかもしれない。でも、今はちょっと違う。何というか、サックスの音色が好きなのだ。音に人間的な暖かみを感じる。特に、都会的とは感じない。時代が変わって、都会的なもののイメージが変化したということもあるのだと思うが、都会的なイメージよりむしろ人間的な優しさや暖かさを感じる。

 ここ1年程、ときどきグローヴァー・ワシントン・ジュニアを聴く。考えてみると、約30年ぶりだ。カーステレオのHDDにも何枚か入れてある。単なる懐古趣味ではない。その優しく暖かな音が、何か無性に恋しくなるのだ。


なるほど・・・・

2013年11月02日 | 今日の一枚(A-B)

◎今日の一枚 355◎

Art pepper

Art Pepper Meets The Rhythm Section

Photo

 楽天イーグルスが日本一に王手。すごい・・・・。信じられない。金満球団、王者ジャイアンツを相手にこれまでの全試合が緊迫する接戦だ。パリーグを制したのはまぐれじゃなかったのですね。特に、一昨日のゲームは感動した。辛島の好投、則本の熱投、藤田の涙・・・・。今日からが本当の勝負。本拠地仙台で本当の勝負だ。星野監督が「仙台で宙に舞いたい」とか浮ついているのが気にかかるが・・・・。 

     ※     ※     ※     ※     ※ 

 アート・ペッパーの1957年録音作、『ミーツ・ザ・リズム・セクション』。マイルス・ディヴィス・コンボのリズム・セクションと共に吹き込んだ、ワンホーン・セッションである。名盤の誉れ高い作品だ。

 この作品に熱狂的にはまっり、聴きこんだ記憶はない。私の中では、普通のいい作品という評価だった。冒頭の、①You'd Be So Nice To Come Home To の印象が強すぎたせいだろうか。何となく哀愁の旋律というイメージが頭の中にあった。何気なくページをめくった村上春樹さんの文章に出合ってもう一度聴いてみようかという気になった。随分違った印象を受けた。コペルニクス転回というやつか。村上さんは、「チャーリー・パーカーを奇跡の翼を持った天使とするなら、アート・ペッパーはおそらくは変形した片翼を持った天使だ。彼は羽ばたく術を知っている。自分が行くべき場所を承知している。しかし、その羽ばたきは、彼を約束された場所へとは連れて行かない。」(和田誠・村上春樹『ポートレイト・インジャズ』新潮文庫)といい、次のように続ける。

彼の残した数多くのレコードを聴いていると、そこには一貫して、ほとんど自傷的と言ってもいいほどの苛立ちがある。「俺はこんな音をだしているけれど、俺が本当に出したいのは、これじゃないんだ」と、彼は我々に向かって切々と訴えかけている。

 なるほど・・・・。さすが作家、かつてジャズ喫茶を経営し、ジャズと長く付き合ってきた人物だ。鋭敏な感性だ。そう思って、彼の推奨する⑤Straight Life を聴いてみると、まったくその通りに思えてしまう。アルバム全体もまったく違った印象になってしまうから不思議だ。昨日からもう3回も繰り返して聴いている。

 私は感化されやすいのだろうか。