WATERCOLORS ~非哲学的断章~

ジャズ・ロック・時評・追憶

立原正秋箴言集(11)

2013年11月11日 | 立原正秋箴言集

ものがいっぱいあり、それを思うままに使いはたしてしまう敏江の内面が、彼にはこわかった。ものがなくなったらどうするのか・・・・・。いや、ものはなくならなくとも、それを使う精神が疲れてきたらどうするか・・・・・。(『春のいそぎ』)

 思うところがあり、数十年ぶりに『春のいそぎ』を読み返しています。上の文章にハッとさせられました。数十年間、ずっと頭の隅にあった言葉です。宮本憲一『昭和の歴史⑩経済大国』(小学館)は、経済大国の光と影が投影された文学として、司馬遼太郎とともに立原正秋を取り上げています。すなわち、「司馬文学は、日本文化のもつ進歩への希求をえがくことによって、経済成長のもつ英雄的な躍動感と共鳴する。他方、立原文学は日本文化のもつ滅びへの共感をえがくことによって、経済大国の影の部分と共鳴しているのである。」上記の文章などはよくそれを表しているのではないでしょうか。