WATERCOLORS ~非哲学的断章~

ジャズ・ロック・時評・追憶

宮城オルレを全コースを歩いた

2020年12月06日 | 今日の一枚(M-N)
◎今日の一枚 444◎
Miles Davis
Walkin'
 実は最近サボり気味なのだが、ここ2年ほどウォーキング&トレッキングにはまっていた。いろいろなコースを歩いたが、その中心となるのは《みちのく潮風トレイル》と《宮城オルレ》である。《みちのく潮風トレイル》の方は日本を代表するロングトレイルコースなのでまだまだとても踏破とはいかないが、《宮城オルレ》の方は現在オープンしている全コースを数か月前に踏破することができた。宮城オルレは現在のところ4コース。私が歩いた順に簡単に紹介したい。
①奥松島コース
海あり山ありで、なかなか雰囲気のあるいいコースだ。ただ、最後の「歴史を紡ぐ林道」から「大高森」までは、歩いたのが雨上がりだったこともあり、足場が悪く、本当に難儀な歩きだった。
②気仙沼・唐桑コース
宮城オルレの中では、一番の難コースだろう。アップダウンが激しく、起伏に富んだコースは、歩き人の体力を奪うに十分である。ただ自然豊かで、御崎付近でカモシカに遭遇することもしばしばであり、美しい海の眺望は本当に素晴らしい。最後の笹浜漁港からの登坂はハードであり、オプションコースの半造~巨釜~半造は、疲れた身体にはちょっと厳しい。達成感があるので、私は4度歩いた。
③大崎・鳴子温泉コース
前半の、古の出羽街道を巡るコースは、自然豊かで雰囲気があり本当に楽しく歩ける。ただ、熊が出没するらしく、多くのハイカーが熊鈴をつけて歩いていた。後半は舗装された道が多く、膝にはやや厳しい。大した距離ではないが、最後の温泉街への坂道は疲れた身体にはちょっときついかもしれない。妻と一緒に休憩しながら歩いたこともあり、5時間近くを要した。
④登米コース
私にはちょっと不満の残るコースだった。全体的に平板であり、舗装された道が多く、足には優しくない。楽しみにしていた北上川沿いに歩く道も、そんなに長くはなく、木々のためにほとんど川は見えなかった。最後の平筒沼いこいの森は疲れた身体にはややハードだが、自然豊かで、暗い森の雰囲気を味わうことができ、なかなか良かった。
 Walkin'=歩く、ということで今日の一枚は、マイルス・ディヴィスの1954年録音盤「ウォーキン」である。ハード・パップ台頭のきっかけとなったといわれるアルバムである。ファンキーな色合いはやはりホレス・シルヴァーの参加によるものだろうか。
 web上のいくつかのブログに、村上春樹氏が「いちばんかっこいいジャズのLPは、なんといってもMiles DavisのWALKINです。頭から尻尾までかっこいいです」とか、 「いろいろ聴くよりウォーキンを100回聴いたほうがいい」 とか、「好きなジャズのアルバムを一枚だけ選ぶとすれば、マイルスの『ウォーキン』を選ぶ 」とか言って絶賛したという話が載っているが、どのエッセイにあるのかわからない。もしかしたら、『フォア・アンド・モア』収録の「ウォーキン」のことなのではなかろうか。和田誠・村上春樹『ポートレイト・イン・ジャズ』(新潮文庫)のマイルス・ディヴィスの項目では『フォア・アンド・モア』が取り上げられており、その中で次のような文章が記されている。
「ウォーキン」を聴きながら(それはマイルズが録音した中ではいちばんハードで攻撃的な「ウォーキン」だ)、自分がいま、身体の中に何の痛みも感じていないことを知った。少なくともしばらくのあいだ、マイルズがとり憑かれたようにそこで何かを切り裂いているあいだ、僕は虚無感覚でいられるのだ。
 また、CD『ポートレイト・イン・ジャズ~和田誠・村上春樹セレクション』に収められた「ウォーキン」もやはり『フォア・アンド・モア』収録の「ウォーキン」である。
 いずれにせよ、そのことがこのアルバムの価値を貶めるわけではなく、十分素晴らしい作品である。今日的にはややスローテンポでどん臭い感じのするビートも、歩きながら聴くと意外にマッチするようだ。今度は「みちのく潮風トレイル」コースをこのアルバムを聴きながら歩いてみたいものだ。

ゲッツのルースト盤

2020年12月06日 | 今日の一枚(S-T)
◎今日の一枚 443◎
Stan Getz
Split Kick
 雑誌『文學界』11月号(2020)は、「JAZZと文学」の特集だった。結構売れたのではないだろうか。何かでこのことを知り、書店に急いだ時にはすでに売り切れだった。隣町の書店にも足を延ばしたが、やはり売り切れだった。たまたまたAmazonで手に入れることができ、ほっとしている次第である。
 その巻頭の「村上春樹さんにスタンゲッツとジャズについて聞く」(聞き手:村井康司)で、次のような発言があった。
あと、ホーレス・シルヴァーが入っている時代も好きです。「スプリット・キック」とか入っているやつ(スタン・ゲッツ・オン・ルーストVol.2)。ドライブが利いているホーレス・シルヴァーのピアノにスタン・ゲッツもお尻から追いまくられるみたいで、かっこいいんですよね。( 中略 )ホーレス・シルヴァーはゲッツが発見したから。それに比べると、アル・ヘイグ、デューク・ジョーダンといったピアニストはちょっとボルテージがひくいんです。その分、ゲッツは落ち着いてプレイしているんだけど、ホーレス・シルヴァーのあのドライブ感は捨てがたい。やっぱり刺激を受けないと燃えないところがあるから。
 ???。オン・ルーストVol.2??。調べてみると、例の「ディア・オールド・ストックホルム」が入った"The Sound"がオン・ルーストVol.1なのですね。確かに、"Split Kick" のジャケットの下の方には、"STAN GETZ ON LOOST VOL.2"と印刷されている。レーベルに興味がないわけではないが、ちょっと上の世代の、ジャズ喫茶のマスターのような人たちみたいに、レーベル名を冠してレコードを呼ぶ習慣がないので、ピンとこなかったのだ。そういえば、20年ほど前、このルースト盤がCDで復刻された際、"The Sound" だけ買って、"Split Kick" はそのうち購入しようと思っていたのだった。
 「ホーレス・シルヴァーのピアノにお尻から追いまくられるみたい」というのもうなずけるほどに、小気味よくスウィングする感覚が何とも言えずいい。1950年代的な録音とサウンドにも関わらずだ。それにしても、スタン・ゲッツは相変わらず元気だ。というか、若かったのだから、当たり前か。そう思わせるほどに、ゲッツの演奏はいつの時代でも流麗で淀みがない。
 音が伸びやかなところが何とも言えずいいのだ、ゲッツは。


エヴァンスとゲッツの共演

2020年12月06日 | 今日の一枚(A-B)
◎今日の一枚 442◎
Bill Evans Trio featuring Stan Getz
 But Beautiful 
 こんなCDがあったのですね。Bill Evans Trio featuring Stan Getz の But Beautiful である。1974年のオランダ,ベルギーでのライブ録音盤らしい。出たのは1996年とのこと。知らなかった。ビル・エヴァンスとスタン・ゲッツの共演アルバムは1964年のライブ盤(今日の一枚344)のみと思っていたのだが、こんなアルバムが出ていたのですね。
 1964年のライブ盤も私は嫌いではないのだが、エルヴィン・ジョーンズのドラムスがややワイルドすぎる印象で、ピアノはビル・エヴァンスでなくてもいいんじゃないかなどと思ったりもしたものだ。どちらかというと、ゲッツ主体のアルバムのような感じがする。
 ところが、この1974年録音のアルバムはビル・エヴァンスのピアノのリリカルなところがよく出ており、ゲッツのテナーも情感たっぷりだ。何より、エヴァンスとゲッツの音がよく絡んでいる。いいアルバムだ。とてもいい。2週間ほど前に手に入れて以来、随分聴いている気がする。エヴァンストリオは、エディ・ゴメス(b)、マーティ・モレル(ds)である。
 ところで、このアルバムを知ったのはビル・エヴァンスの伝記映画 Time Remembered を見たのがきっかけだ。劇場公開を見逃し後悔していたこの映画だったが、DVDを手に入れ視聴することができた。感激である。「時間をかけた自殺」とも評されるエヴァンスの生涯を描いたこのドキュメンタリー映画については,いつか改めて記すことになろうが、その中で挿入された  The Peacocks の、その静謐さを湛えたサウンドに耳が釘付けにされた。ホーンはまるでゲッツ、そんな演奏があるのかと思っていたら、最後のクレジットでゲッツの名前がでてきた。心はドキドキワクワク、尋常ならざる興奮を覚えた。還暦を数年後に控え、しばらくぶりに心のときめきを覚えた瞬間だった。こういうことがあるから、ジャズはやめられない。
 今も、私の書斎ではこのアルバムが鳴り響いている。⑦The Peacocks が始まった。いい。卒倒しそうだ。