◎今日の一枚 457◎
Rickie Lee Jones
Pirates
デビューアルバム『浪漫』の成功でスターダムにのし上がったリッキー・リー・ジョーンズは、トム・ウェイツと暮らしたロスを離れ、ニューヨークへと旅立つことになる。2016年に書かれた矢口清治氏の『パイレーツ』のライナーノーツには次のように記されている。
『浪漫』が彼女にもたらしたものは、おそらく予想を超えた富と名声、いわゆる商業的成功であり、代わりに失ったのはそれまでの日常、たとえば重要な存在であったトム・ウェイツとの関係だった。
今日の一枚は、リッキー・リー・ジョーンズの1981年作品『パイレーツ』である。彼女の2ndアルバムである。トム・ウェイツとの別離後の作品ということで、彼にまつわる曲がいくつか収録されている。ジャケットに用いられた、ハンガリー出身の写真家ブラッサイの"LOVES"と題された作品は、どこかトム・ウェイツとの日々を連想させる。①We Belong Together(心のきずな)や、⑥ A Lucky Guy(ラッキー・ガイ)は、トム・ウェイツとの別離を背景として書かれた曲だ。印象的な曲である。⑤ Pirates(パイレーツ)も印象的な曲だ。ゴージャスなサウンドをハックに、ファンキーに、またしっとりと歌われるこの曲には、So Long Lonely Avenue というサブタイトルがつけられている。トム・ウェイツたちと暮らした街への別れを告げているわけだ。歌詞の中にSo I'm holding on to your rainbow sleeves(あたし、つかんで放さない。虹色のあなたの袖を。)とあるが、"rainbow sleeves"とは下積み時代のリッキー・リー・ジョーンズのために、トム・ウェイツが書いた曲のタイトルなのだ。トム・ウェイツへの思いが表出された一節である。rainbow sleeves は、のちにリッキー・リー・ジョーンズの3枚目のアルバム『 Girl At Her Volcano 』(→こちら) に収録されることになる。
音楽は音楽として評価されるべきものであろうが、トム・ウェイツとの関係を考えながらこのアルバムを聴くと、じつに興味深い。ずっと以前に聴いた音楽が、生き生きと蘇ってくるようだ。