WATERCOLORS ~非哲学的断章~

ジャズ・ロック・時評・追憶

中大兄皇子の禁断の恋?

2021年04月03日 | 今日の一枚(O-P)
◎今日の一枚 486◎
Paul Bley
Open, To Love
 「中大兄はなぜすぐに天皇になれなかったのか?」に関する俗説である。
 中大兄が、孝徳天皇の后だった間人皇女(はしひとのひめみこ)と密通していたという話だ。しかも、間人皇女の父は舒明天皇、母は皇極(斉明)天皇である。つまり、中大兄の同母の妹、実の妹ということになる。古代社会では、異母兄妹の結婚や恋愛はごく当たり前だった。しかし、同母の妹ではまったく話が別である。のちの律令も「国津罪」として禁じており、実際その禁忌を犯して追放された皇子・皇女も存在するのだ。この話が本当だったとすれば、禁忌を犯した中大兄に天皇になる資格がないと考えられても不思議はない。反対勢力が結束して、そのことを理由に中大兄の即位を阻止した可能性も考えられる。昨日、孝徳天皇と対立した中大兄が群臣を引き連れて飛鳥に帰り、残された孝徳天皇が難波宮で失意のうちに亡くなったという話を記した(→こちら)。この時も間人皇女は中大兄に同行していたようなのだ。夫を捨てて兄を選んだ、ということになる。下世話な話になるが、孝徳天皇と中大兄の対立は、間人皇女と中大兄の関係に真実味を与えてしまう。
 ただ、この中大兄の禁断の恋の話は、史料的な裏付けに欠けるという意味で、十分な説得力はない。俗説のひとつというべきであろう。先に述べた難波から飛鳥に帰るとき2人は一緒だった話とか、間人皇女の夫である孝徳天皇の歌に2人の仲を疑わせる言葉があるといった程度の根拠であり、真相は闇である。

 今日の一枚は、ポール・ブレイの『オープン, トゥ・ラブ』である。1972年録音作品のピアノ・ソロ作品だ。これはジャズなのだろうかと思ってしまう。まったくスウィングしないのだ。魅惑的なメロディーもない。現代前衛音楽的である。けれども、クラッシック的ではない。弾き方はジャズの話法である。キース・ジャレットのリスナーだった私は、比較的抵抗なく受け入れることができたが、ハード・パップが大好きなジャズファンは抵抗があるかもしれない。事実、今はCDもあまり売れないらしく、過去の作品を探すのも難しいことがある。硬質で静寂なピアノの響きを聴く作品である。音と無音の織りなす冷たい世界を聴く作品である。冷たい世界の中で時折現れる、熱くピアノに没入するように音数が多くなる瞬間に、ハッとさせられる。


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