WATERCOLORS ~非哲学的断章~

ジャズ・ロック・時評・追憶

偽書『東日流外三郡誌』

2021年04月03日 | 今日の一枚(G-H)
◎今日の一枚 487◎
Herbie Hancock & Wayne Shorter
1+1
 『東日流外三郡誌』、「つがるそとさんぐんし」と読む。偽書である。学界の定説である。青森県五所川原市在住の和田喜八郎という人が、自宅の改築中に屋根裏の長持ちの中から出てきたとして紹介した書物である。1975年に刊行された『市浦村史資料編』にその一部が収録されたことから、広く知られるようになった。
 そこには、紀元前7世紀の日本列島で、津軽を拠点に大和政権と敵対し続けた荒覇吐(アラハバキ)族の歴史が綴られていた。『古事記』『日本書紀』にも記されていない、ヤマト政権によって抹殺された幻の東北王朝の歴史である。
 在野の歴史研究者と名のる人たちによって、その真贋論争が展開されたが、アカデミズム的にも、史料中に登場する用語が新しすぎる点、発見状況の不自然さ、考古学的調査結果との矛盾などから、偽書であるとの評価が確定している。そもそも、和田の自宅は昭和16年の建築であり、古文書類が伝存して偶然発見される可能性は極めて低い。偽書の作成者は、筆跡から和田喜八郎その人だと考えられている。筆跡について指摘されると、公開したのは底本でなく自分が書写したものであり、底本は別に存在すると主張し、のち底本は紛失したと主張を変えた。和田は、『東日流外三郡誌』以外の「古文書」も次々と自宅から「発見」して「和田家文書」と呼ばれたが、それらの筆跡も同じであったという。和田の死後、自宅が調査されたが底本(原本)は発見されず、屋根裏にも膨大な「和田家文書」を収納できるスペースは存在しなかったという。
 和田は亡くなる1999年まで、約50年にわたって史料を「発見」し続けたことになる。すごい情熱とバイタリティーである。

 今日の一枚は、ハービー・ハンコックとウェイン・ショーターの1997年録音作品、『1+1』だ。デュオ作品である。この作品が発売されてすぐに購入した。確かに封を切った記憶はあるが、なぜか一度も聴かずに退蔵されていた。
 なかなかいい。もう少し聴き込んでみないと評価はできないが、悪くない。ハービー・ハンコックのセンシティヴな音遣いの中で、ウェイン・ショーターが時にデリケートに時に激しく、縦横無尽に吹きまくる、という感じだ。それぞれの個性がはっきりと表れている。両者の掛け合いもはっきり見えてなかなか興味深い。ショーターの宇宙的で神秘的なサックスの響きには、ピアノとのデュオが意外にマッチする気がする。
 



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