学芸員のちょっと?した日記

美術館学芸員の本当に他愛もない日記・・・だったのですが、今は自分の趣味をなんでも書いています

伊藤若冲《雪中錦鶏図》

2009-08-30 07:54:53 | その他
今日は伊藤若冲《雪中錦鶏図》を紹介します。このブログでも以前書いた記憶がありますが、大学時代のゼミで初めてテーマを持って学んだのが、この作品。この絵から、私と美術の関わりが始まったのでした。

粘液のような雪、ドラマチックな枝の流れ、華麗に咲く淡い花々、そして繊細で美しい錦鶏。とても不思議な空間が作られており、言い知れぬ魅力があります。画集を見ていて、ここまで引き寄せられた経験はそうありません。

この絵を長く見ていると、絵自体が生きているような感覚にとらわれます。粘液状の雪がだらりと下に垂れ下がってくるようですし、よく見ると、ところどころに点々と雪を散らしたような表現箇所もあります。そして、やはり枝の流れですね。手前側からドラマチック、あるいはダイナミックといったほうがいいかもしれない。かなり勢いよく描かれています。錦鶏腹部の赤も見事です。全体的に暗い背景ですから、この赤は特に目を惹きますね。これがくすんだ赤でないからこそ、錦鶏に生命力を感じるのかもしれません。

作者の伊藤若冲(1716~1800)は、京都で青物問屋を営む家に生まれましたが、本人は商売に関心がなく、弟にさっさと店を譲って、ひたすら絵を描きました。いわばアマチュアの画家です。彼は自宅に鶏を飼い、飽きるまで眺め、その姿や動きを徹底的に観察したそうです。そのせいか、彼の描く鳥(殊にやはり鶏)は非常に繊細で美しい。なかでも動植綵絵と呼ばれる三十幅のシリーズが圧巻です。《雪中錦鶏図》もその1つ。鶏、鶴、孔雀のほか、昆虫や魚、貝類などがモチーフとして描かれた作品です。

私の夢は《雪中錦鶏図》を一目見ること。実は数年前に京都で公開されていたのですが、機を逸してしまい、見られず…。滅多に公開されないようですが、次の機会は逃さず、自分の目にしっかりと焼き付けて来たいです。

●伊藤若冲《雪中錦鶏図》 1765年頃