学芸員のちょっと?した日記

美術館学芸員の本当に他愛もない日記・・・だったのですが、今は自分の趣味をなんでも書いています

国立西洋美術館「オノレ・ドーミエ版画展」

2010-08-14 20:47:42 | 展覧会感想
現在、東京・上野にある国立西洋美術館で開催されている「オノレ・ドーミエ版画展」を見てきました。オノレ・ドーミエ(1808~1879)はフランスの画家です。一般的にドーミエの名は、19世紀の風刺画家として名高いものがあります。ドーミエの目は市民の目。風刺新聞『ラ・カリカチュール』などでフランス国王ルイ・フィリップや側近たちを痛烈に皮肉る一方、19世紀初頭のパリ風俗を生き生きと描きました。作品はリトグラフで制作され、複数性という版画の特長が活きて、ドーミエの絵は多くの人々の目にふれました。

「風刺」の視点で、フランスのドーミエと江戸の浮世絵を比較してみると面白い。ドーミエの風刺は個人名を打ち出しての攻撃です。その対象は、前述したように国王から側近たちにまで及びます。人物たちはギャグ漫画の一場面のように描かれて、見るものに笑いをもたらします。これは相当強い風刺といえるでしょう。一方、浮世絵の場合は、ある特定の人物を差していること明らかなのですが、とにかくぼかしてあります。例えば、歌川国芳(1797~1861)の《源頼光公館土蜘作妖怪図》は一見すると、武士源頼光とその家来たちが妖怪土蜘蛛を退治するという歴史的な画題が描かれています。ところが、より深く見ていくと、源頼光は徳川家慶、卜部李武は水野忠邦…と要するに天保の改革に対する民衆の恨みを歴史的な画題に見立てて描いた作品と考えることができるのです(直接描くと幕府の取り締まり対象になるため、どうしてもぼかして描かざるえなかった事情もあります)ドーミエの直接的な風刺と浮世絵の間接的な風刺といったところでしょうか。それぞれの視点の違いを見るようで興味深いですね。

ドーミエの風刺を見ていきますと、今日の、しかも日本人である我々には当時の政治事情がよくわからず、何を風刺しているのかはっきりわからない作品もありますが、相当痛烈な風刺であることだけはよく伝わってきます。ブログでは浮世絵との比較で感じたことを書いて見ました。観覧のご参考にいただけたら、と思います。