学芸員のちょっと?した日記

美術館学芸員の本当に他愛もない日記・・・だったのですが、今は自分の趣味をなんでも書いています

『ブルース・パーティントン型設計書』を読む

2012-03-05 15:17:24 | 読書感想
昨夜から雨です。ここ数日はどうも天気が思わしくありません。雨ですと散歩に行く気も出ませんので、休日の今日は読書をして過ごしています。

今日は再度シャーロック・ホームズシリーズの『ブルース・パーティントン型設計書』です。物々しいタイトルですが、「ブルース・パーティントン」とはイギリスが新たに開発したとされる潜水艦の名前。その新型潜水艦の設計図にまつわる話。電車の線路上で、ある男性が死体で発見されます。彼のポケットから見つかったのはイギリスが開発した新型潜水艦の設計書7枚。残り3枚は行方不明になっているのがわかりました。むろん、この設計書は国家機密です。当初、この死んだ男性は兵器工場の職員であることから、彼がこの設計書をイギリスのライバル国に売ろうとして逆に殺されたのではないかと推察されました。しかし、シャーロック・ホームズの兄マイクロフトは解せず、弟シャーロックに残りの設計書を取り戻すように依頼したのでした。

この事件は汽車を使ったトリックを解決していくのが魅力です。ホームズが推理したあまりにも奇抜すぎるアイディアに、助手のワトソンもありえないとたじろぐほどでした。私たちはミステリー小説を読んでいるとき、どうしても意外な犯人像を期待してしまいがちです。意外な犯人像とは、たとえば完璧なアリバイのあった人物や自分は死んだかのように見せかけてフリーで動き回る犯人だったり、あるいは犯人を捕らえる側の警察官が真犯人だった…など、これまで小説ではありとあらゆる犯人が登場してきました。ただ、シャーロック・ホームズシリーズにおいては、犯人を捜し出すことを主とするよりも、不思議な事件を解決していく手段に主が置かれているように思えます。『ブルース・パーティントン型設計書』で言えば、意外な犯人が登場する場面よりも、かえって汽車を使ったトリックを解決していく過程や手段のほうがずっと面白い。

そういう意味では、シャーロック・ホームズの根幹に流れているのは「Adventure」といえるでしょう。現にこの小説の原題は『The Adventure of the Bruce-Partington Plans』です。(シャーロック・ホームズの短編の原題には「Adventure」がよく用いられます)「Adventure」というと、人間が踏み込まないジャングルや海底、地底の奥深くを探検するイメージがあります。しかし、シャーロック・ホームズの「Adventure」はロンドンという大都市の中を探検するものです。そこから「Adeventure」は何も特別なところへ行くことではなく、私たちの身近なところでも十分に「Adventure」の要素はあることを示唆しているように考えられます。また、あるいは大都会に住む人間の複雑な心理のなかを「Adventure」していくという意味合いもあるのかもしれません。

『ブルース・パーティントン型設計書』、短編小説ですが息をつかせぬ展開があります。改めてシャーロック・ホームズシリーズの面白さを味わいました。