夢の中で、私は床の間に布団を敷いて仰向けに眠っている。すると、右腕に腕を絡ませてきたものがある。皮膚と皮膚が触れ合った感触は、シワだらけでやわらかいものだった。私は心臓が飛び出るほど驚いて布団から飛び上がる。すると、目の前に包丁を持った骸骨が立っていた。私の右腕に腕を絡ませてきた相手は、この骸骨であったらしい。私がドタバタしたものだから、後ろのふすまから誰かが出てきて、なぜか骸骨を懐中電灯で照らし出した。すると、部屋のなかは稲妻が落ちたかのようにぴかりと光って、次の瞬間、骸骨は女性の姿に変わっていた。
彼女は若くて綺麗な着物姿の女性だった。髪の結い方や着物の着こなし、そして佇まいから、どうも現代の女性ではなく、明治か大正時代の古い写真に出てくる女性のような感じがした。手には相変わらず包丁を握っている。どうも私を刺す目的で持っているようなのだが、刺すことにためらいもあるようで、私が彼女の細い腕を掴んで包丁を取り上げると「いやだ、いやだ」と騒ぐ。
騒ぐ彼女を落ち着かせ、なぜ私を刺そうとするのかを尋ねてみた。すると、彼女はこんなことを言うのである。
「私はあの世の人間で、15歳のときに死んだ。このあいだ、久し振りにこの世へ来てみたら、あなたを観て好きになってしまい、あなたが死んでしまえば一緒になれると思った」
彼女はどうも幽霊だったらしい。好かれるのは嬉しいが、私はまだ生きている人間である。
「私はまだ生きている人間だからダメだ。あなたの住む世界には、私よりもずっといい男がいるだろう。私はあなたよりも年を重ねているし、あなたにふさわしい年齢の男性がきっといるはずだ」
夢の中とはいえ、説得力に欠ける言葉であるのは否めない…が、彼女は首を縦に振って納得してくれた。私は、せっかく私の夢に出てきてくれたのだから、お茶でもごちそうするよ、と言って、彼女を茶の間へ通したとき、彼女の体が再び光出して、一羽の小鳥に変わった。そして青い空に飛んでいったのである。私は広い空を自由に舞う小鳥をずっと見つめていた…。
…ここで、私は目が覚めました。目が覚めてから、布団のなかで夏目漱石の小説『夢十夜』の第一夜を思い出していました。寂しげなるロマンチック。夢か真か。
彼女は若くて綺麗な着物姿の女性だった。髪の結い方や着物の着こなし、そして佇まいから、どうも現代の女性ではなく、明治か大正時代の古い写真に出てくる女性のような感じがした。手には相変わらず包丁を握っている。どうも私を刺す目的で持っているようなのだが、刺すことにためらいもあるようで、私が彼女の細い腕を掴んで包丁を取り上げると「いやだ、いやだ」と騒ぐ。
騒ぐ彼女を落ち着かせ、なぜ私を刺そうとするのかを尋ねてみた。すると、彼女はこんなことを言うのである。
「私はあの世の人間で、15歳のときに死んだ。このあいだ、久し振りにこの世へ来てみたら、あなたを観て好きになってしまい、あなたが死んでしまえば一緒になれると思った」
彼女はどうも幽霊だったらしい。好かれるのは嬉しいが、私はまだ生きている人間である。
「私はまだ生きている人間だからダメだ。あなたの住む世界には、私よりもずっといい男がいるだろう。私はあなたよりも年を重ねているし、あなたにふさわしい年齢の男性がきっといるはずだ」
夢の中とはいえ、説得力に欠ける言葉であるのは否めない…が、彼女は首を縦に振って納得してくれた。私は、せっかく私の夢に出てきてくれたのだから、お茶でもごちそうするよ、と言って、彼女を茶の間へ通したとき、彼女の体が再び光出して、一羽の小鳥に変わった。そして青い空に飛んでいったのである。私は広い空を自由に舞う小鳥をずっと見つめていた…。
…ここで、私は目が覚めました。目が覚めてから、布団のなかで夏目漱石の小説『夢十夜』の第一夜を思い出していました。寂しげなるロマンチック。夢か真か。