学芸員のちょっと?した日記

美術館学芸員の本当に他愛もない日記・・・だったのですが、今は自分の趣味をなんでも書いています

川越市立美術館「小村雪岱展」

2018-03-10 20:30:46 | 展覧会感想
川越市立美術館で開催されている「小村雪岱展」を観て来ました。小村雪岱(こむらせったい)(1887~1940)は、大正から昭和にかけての作家で、主に新聞、小説の挿絵や本の装釘などの分野で活躍しました。展覧会では、豊富な作品と資料で、その全容を紹介しています。

小村雪岱の仕事は、新聞や小説などの挿絵という性格上、原画を版(印刷)に通したものがほとんどです。ここで問題というか、意識しなければならないことが、原画を版に通すと、原画の魅力が損なわれる可能性があるということ。雪岱がどれだけ意識していたのかはわかりませんが、展示されている原画と雑誌の表紙(4色刷)を比較した場合、やっぱり原画のほうが断然いい。けれど、これが白黒の新聞や小説の挿絵となると、色の問題がなくなり、原画の魅力が活きてくる。江戸時代の浮世絵師、鈴木春信の描く人物描写を、ビアズリーばりの細い線を使って、特徴ある雪岱ならではの人物像に作り上げていきます。展覧会では、その背景や過程をとてもわかりやすく読み取ることができます。さらに深く知りたい方は、雪岱の周辺に関わる石井鶴三や木村荘八のことも調べると面白いのではないでしょうか。

こうして雪岱の作品を見ていくと、彼の作品のいくつかに出てくる、月の出る美しい夜空。そこからなぜか新宿のビルが見えるような気がする。それだけ、彼の作品が今も生き続けているような気がしました。