学芸員のちょっと?した日記

美術館学芸員の本当に他愛もない日記・・・だったのですが、今は自分の趣味をなんでも書いています

志賀直哉『襖』 ~襖を開けた犯人は誰?~

2009-10-22 17:50:12 | 読書感想
「志賀直哉は小説の神様。絶対に読んでおいたほうがいい」と言ったのは、高校時代の我が恩師。絶対に読んだほうがいいと言われると、逆に絶対に読みたくなくなるのが私の性分なのですが、このときばかりはなぜか試しに読んでみました(笑)私の薄い財布から、これまた薄い短篇集を1冊買ってきて読み始めたのです。正直あまり期待していなかったのですが、予想に反して、面白くてたまらない。あっという間に読み終えてしまいました。

それから、私は志賀直哉の小説に夢中になり、大学2年生くらいまで、電車通学の途中や講義と講義の合間にちょこちょこと読んでいました。その後、ぱったりと読まなくなりましたが、昨日本棚を整理していましたら、奥からひょっこり出てきましたから、再読してみました。

志賀直哉の短編での代表作と言えば、『城の崎にて』や『清兵衛と瓢箪』あたりですが、ちょっと『襖』に興味を感じたので、あらすじと感想を書いてみます。「僕」が祖父母、妹、お守の5人で、旅館へ泊まりに出かけるんですね。部屋は2階。襖一枚を隔て、隣部屋には若夫婦と娘、夫の母、お守の5人が泊まっている。「僕」は、しだいに隣のお守、鈴をぼんやり見るようになります。鈴がお気に入りの歌舞伎俳優の顔に似ていたから、という何だかへんてこな理由。ところが視線を感じる鈴、相手は私に気があると思うわけです。「僕」は鈴に俳優の顔を重ね、鈴は「僕」に恋愛感情を持ちます。ある夜、「僕」は、お互いを隔てている襖がすっと開くのを見ます。相手の顔は見えない。次の日、隣家族が夜中に襖が開いたと騒ぐ。隣家族は「僕」が開けたのだろうとわざと隣に聞こえるようにいう。「僕」は「僕」で隣家族の鈴が開けたのだろうと思っている。結局、誰が襖を開けたのかわからないまま、隣家族は旅館を発ってしまう。襖を開けた犯人は最後まではっきりせず、おそらく鈴なのだろう…というぼかした「僕」の調子で小説は終わります。

襖を開けた本当の犯人は誰か。小説の流れに沿うと、確かに鈴の可能性が高いのです。けれども、もっと違った読み方ができないでしょうか。私は若夫婦の妻の可能性について考えてみました。この妻は、弁護士である夫と義母の露骨な言動や行動が大嫌いのよう。旅館を発つときには、彼女だけが「僕」の家族に挨拶へ来たのは好意?後日、歌舞伎座で再会した時、「僕」に挨拶をしなかったのは照れ?妻が「僕」に惚れていたとしたら、襖を開けたのはもしかして鈴ではなく…。

私なりの勝手な読み方です。失礼いたしました(笑)でも、このように想像を膨らませて読むとまた違った読み方ができそうです。久しぶりに再会した志賀直哉の小説で楽しませていただきました。短い小説ですので、よろしかったら、ぜひ!


●『清兵衛と瓢箪・網走まで』 志賀直哉 新潮文庫 1968年

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