みそかの晩とついたちは
砂漠に黒い月が立つ。
西と南の風の夜は
月は冬でもまっ赤だよ。
雁が高みを飛ぶときは
敵が遠くへ遁げるのだ。
追はうと馬にまたがれば
にはかに雪がどしゃぶりだ。
雪の降る日はひるまでも
そらはいちめんまっくらで
わづかに雁の行くみちが
ぼんやり白く見えるのだ。
砂がこごえて飛んできて
枯れたよもぎをひっこぬく。
抜けたよもぎは次々と
都の方へ飛んで行く。
□宮沢賢治『北守将軍と三人兄弟の医者』(『新修宮沢賢治全集 第13巻』、筑摩書房、1980、所収)
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