(1)サービス市場開放のネガティブリスト
サービス市場を全面的に開放し、例外的に禁止する品目だけを明記する。
(2)ラチェット条項
「逆進防止装置」。一度規制を緩和するとどんなことがあっても元に戻せない。
(3)未来最恵国待遇
今後韓国が他の国とFTAを締結した場合、その条件が米国に対する条件よりも有利な場合は、米国にも同じような条件を適用する。
(4)ISDS条項
国家と投資家の間の紛争解決手続き条項は、韓国に投資した企業が、韓国の政策によって損害を被った場合、世界銀行傘下の国債投資紛争解決センターに提訴できる。韓国で裁判は行わない。
●韓国外交通商部の公式の反論 ~総論~
<世間で広まっている毒素条項について、実際の発生可能性が極めて低い状況を仮定して、その危険性を「針小棒大」としている>。
しかし、可能性が全くゼロでないのであれば、たとえ低いリスクであっても、当然ながら政府には国民に対する説明する責任がある。また、低い確率であろうと、それが国民生活の脅威として作用する可能性が少しでもあれば、情報を公開し、議論すべきだ。
●韓国政府の反論 ~各論~
次のような様々な問題があるが、各々について政府は公式見解を示していない。また、協定文には書かれていないためにそれ自体は米韓FTAに帰属しないが、国内法の改正によって結果的に米国に有利な貿易環境を整備している様々な問題がある。
(1-2)サービス市場開放のネガティブリスト
ネガティブリスト方式は、一般的には自由化の進展度合いを急速に早めてしまうリスクが高い、と指摘されている。EUとのFTAではポジティブリスト方式を採択しているにもかかわらず、米韓FTAがネガティブリスト方式であることについて、政府は<ネガティブリスト方式とポジティブリスト方式は大差ない>としているが、根拠を全く示さず、説明責任を果たしていない。
(2-2)ラチェット条項
政府は、問題提起されている主要分野(教育・文化・公共部門など)が別途付属Ⅱの未来留保に該当するため、実質的には当てはまらない、と主張している。
なお、最近になって国民から大きな反発が起きていることを意識してか、米国とBSE発生時の牛肉輸入の例を挙げながら、ラチェット条項はサービスと投資に係る条項であり、検疫問題と関係ない、としている。・・・・しかし、本当にそうか。
(a)牛肉輸入そのものは、米韓FTAにおいて国債獣疫事務局勧告通りに運用するように盛り込まれているので、勧告より厳しい基準を設けている国(とくに日本)もあるにせよ、米国は自国の牛肉を他国より韓国に輸出しやすくしている。
(b)食の安全性などの規制緩和は著しい。遺伝子組み換え作物(GMO)は、米韓FTAにおいて、WTOの「衛生と植物防疫のための措置」に準用されるよう定めている。韓国の「遺伝子組み換え生物法」(2008年施行)の趣旨とは齟齬するにもかかわらず、米国の安全検査の結果に基づいてGMOおよびこれとの交配種は韓国の安全検査から除外することとなっている。・・・・米国のGMOに関する事前検査は企業の書類審査のみで、米国食品医薬品局(FDA)の検査は行われていない。客観的な安全性は確保されない可能性が高い。ちなみに、輸入が承認されたGMOの場合、別途の承認および検査を必要としないことになっている。
(3-2)未来最恵国待遇
政府は、最恵国待遇は韓国にも権利がある、としている。
したがって、実質的に日米FTAであるTPP交渉では、米韓FTAの交渉内容が下敷きになる、と予想される。
(4-2)ISDS条項
韓国の与野党の間で一番の争点となった。この条項は、他のあらゆる条項とも深く関係しているからだ。今後投資をめぐる諸問題が発生するつど、国際機関である第三者の判断が必要になる。
政府の公式見解によれば、<世界の2,500余の投資協定にISDS条項は入っており、すでに締結したFTAおよび81ヵ国との投資協定にも反映されている普遍的な制度である>。何よりも韓国の投資家の保護のための措置である、云々。
キム・ジョンフン通商交渉本部長によれば、<公共部門に対する私たち(韓国)の政策裁量権は幅広く、また具体的に規定されており、一部で主張するようにISDSで私たちの公共政策が毀損されることはないだろう。私たちの政策を透明で被差別的に執行するならISDSを恐れる必要がない>。
キム部長の発言は開き直り/言い逃れだ。ISDSは、ある一国が自国の公共性を確保するために制定した政策によって海外の投資家が不利益を被った場合には「国際投資紛争解決センター」に提訴できる制度だ。ある国の公共性とは、それぞれの国が自らの裁量で決めることであり、投資家が被害を受けるから訴訟ができるとされること自体に大きな問題がある。キム部長のいわゆる「透明で被差別的に執行する」のは、誰にとって透明で非差別的なのか。誰がその判断をするのか、それ自体あいまいだ。ちなみに、いつも透明で非差別的であるためには、米国との協議を前提とするしかない。
(a)医療制度・・・・米韓FTAにおいて保健医療サービスを<今後開放を留保する>という未来留保として認めてはいる。しかし、経済自由区域特別法と済州特別自治道法による関連特例は例外にしている。要するに、米韓FTAでは交渉していないとしながら、特区において米国の進出を認めているのだ。特区で営利病院(投資開放型病院)が設立されれば、医療および薬剤(製薬)関連の米国企業は何の制約もなく有利な立場に立つことは明らかだ。これは国民皆保険を誇る日本にとっても他人事ではない。
(b)医薬品分野においては他にも、米国に対して制約につき「特許と許可」を同時に認める、といった条項や、「独立した共同委員会で医薬品価格などについて話し合う」などの条項が入っている。韓国内の専門家も問題視しはじめた。
以上、柳京煕「強行された涙の不平等条約 米韓FTAの実態」(「世界」2012年1月号)に拠る。
【参考】「【経済】TPPは寿命を縮める ~医療と食の安全~」
「【経済】中野剛志の、経産省は「経済安全保障省」たるべし ~TPP~」
「【経済】中野剛志『TPP亡国論』」
「【震災】原発>TPP亡者たちよ、今の日本に必要なのは放射能対策だ」
「【経済】TPPをめぐる構図は「輸出産業」対「広い分野の損失」」
「【経済】TPPで崩壊するのは製造業 ~政府の情報隠蔽~」
「【経済】中国がTPPに参加しない理由 ~ISD条項~」
「【社会保障】TPP参加で確実に生じる医療格差」
「【社会保障】「貧困大国アメリカ」の医療 ~自己破産原因の5割強が医療費~」
「【経済】TPPとウォール街デモとの関係 ~『貧困大国アメリカ』の著者は語る~」
「【経済】TPP賛成論vs.反対論 ~恐るべきISD条項~」
「【経済】米国は一方的に要求 ~TPP/FTA~」
「【経済】伊東光晴の、日本の選択 ~TPP批判~」
「【経済】伊東光晴の、TPP参加論批判」
「【経済】TPPはいまや時代遅れの輸出促進策 ~中国の動き方~」
「【震災】復興利権を狙う米国」
「【読書余滴】谷口誠の、米国のTPP戦略 ~その対抗策としての「東アジア共同体」構築~」
「【読書余滴】野口悠紀雄の、日本経済再生の方向づけ」
「【読書余滴】野口悠紀雄の、中国抜きのTPPは輸出産業にも問題」
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サービス市場を全面的に開放し、例外的に禁止する品目だけを明記する。
(2)ラチェット条項
「逆進防止装置」。一度規制を緩和するとどんなことがあっても元に戻せない。
(3)未来最恵国待遇
今後韓国が他の国とFTAを締結した場合、その条件が米国に対する条件よりも有利な場合は、米国にも同じような条件を適用する。
(4)ISDS条項
国家と投資家の間の紛争解決手続き条項は、韓国に投資した企業が、韓国の政策によって損害を被った場合、世界銀行傘下の国債投資紛争解決センターに提訴できる。韓国で裁判は行わない。
●韓国外交通商部の公式の反論 ~総論~
<世間で広まっている毒素条項について、実際の発生可能性が極めて低い状況を仮定して、その危険性を「針小棒大」としている>。
しかし、可能性が全くゼロでないのであれば、たとえ低いリスクであっても、当然ながら政府には国民に対する説明する責任がある。また、低い確率であろうと、それが国民生活の脅威として作用する可能性が少しでもあれば、情報を公開し、議論すべきだ。
●韓国政府の反論 ~各論~
次のような様々な問題があるが、各々について政府は公式見解を示していない。また、協定文には書かれていないためにそれ自体は米韓FTAに帰属しないが、国内法の改正によって結果的に米国に有利な貿易環境を整備している様々な問題がある。
(1-2)サービス市場開放のネガティブリスト
ネガティブリスト方式は、一般的には自由化の進展度合いを急速に早めてしまうリスクが高い、と指摘されている。EUとのFTAではポジティブリスト方式を採択しているにもかかわらず、米韓FTAがネガティブリスト方式であることについて、政府は<ネガティブリスト方式とポジティブリスト方式は大差ない>としているが、根拠を全く示さず、説明責任を果たしていない。
(2-2)ラチェット条項
政府は、問題提起されている主要分野(教育・文化・公共部門など)が別途付属Ⅱの未来留保に該当するため、実質的には当てはまらない、と主張している。
なお、最近になって国民から大きな反発が起きていることを意識してか、米国とBSE発生時の牛肉輸入の例を挙げながら、ラチェット条項はサービスと投資に係る条項であり、検疫問題と関係ない、としている。・・・・しかし、本当にそうか。
(a)牛肉輸入そのものは、米韓FTAにおいて国債獣疫事務局勧告通りに運用するように盛り込まれているので、勧告より厳しい基準を設けている国(とくに日本)もあるにせよ、米国は自国の牛肉を他国より韓国に輸出しやすくしている。
(b)食の安全性などの規制緩和は著しい。遺伝子組み換え作物(GMO)は、米韓FTAにおいて、WTOの「衛生と植物防疫のための措置」に準用されるよう定めている。韓国の「遺伝子組み換え生物法」(2008年施行)の趣旨とは齟齬するにもかかわらず、米国の安全検査の結果に基づいてGMOおよびこれとの交配種は韓国の安全検査から除外することとなっている。・・・・米国のGMOに関する事前検査は企業の書類審査のみで、米国食品医薬品局(FDA)の検査は行われていない。客観的な安全性は確保されない可能性が高い。ちなみに、輸入が承認されたGMOの場合、別途の承認および検査を必要としないことになっている。
(3-2)未来最恵国待遇
政府は、最恵国待遇は韓国にも権利がある、としている。
したがって、実質的に日米FTAであるTPP交渉では、米韓FTAの交渉内容が下敷きになる、と予想される。
(4-2)ISDS条項
韓国の与野党の間で一番の争点となった。この条項は、他のあらゆる条項とも深く関係しているからだ。今後投資をめぐる諸問題が発生するつど、国際機関である第三者の判断が必要になる。
政府の公式見解によれば、<世界の2,500余の投資協定にISDS条項は入っており、すでに締結したFTAおよび81ヵ国との投資協定にも反映されている普遍的な制度である>。何よりも韓国の投資家の保護のための措置である、云々。
キム・ジョンフン通商交渉本部長によれば、<公共部門に対する私たち(韓国)の政策裁量権は幅広く、また具体的に規定されており、一部で主張するようにISDSで私たちの公共政策が毀損されることはないだろう。私たちの政策を透明で被差別的に執行するならISDSを恐れる必要がない>。
キム部長の発言は開き直り/言い逃れだ。ISDSは、ある一国が自国の公共性を確保するために制定した政策によって海外の投資家が不利益を被った場合には「国際投資紛争解決センター」に提訴できる制度だ。ある国の公共性とは、それぞれの国が自らの裁量で決めることであり、投資家が被害を受けるから訴訟ができるとされること自体に大きな問題がある。キム部長のいわゆる「透明で被差別的に執行する」のは、誰にとって透明で非差別的なのか。誰がその判断をするのか、それ自体あいまいだ。ちなみに、いつも透明で非差別的であるためには、米国との協議を前提とするしかない。
(a)医療制度・・・・米韓FTAにおいて保健医療サービスを<今後開放を留保する>という未来留保として認めてはいる。しかし、経済自由区域特別法と済州特別自治道法による関連特例は例外にしている。要するに、米韓FTAでは交渉していないとしながら、特区において米国の進出を認めているのだ。特区で営利病院(投資開放型病院)が設立されれば、医療および薬剤(製薬)関連の米国企業は何の制約もなく有利な立場に立つことは明らかだ。これは国民皆保険を誇る日本にとっても他人事ではない。
(b)医薬品分野においては他にも、米国に対して制約につき「特許と許可」を同時に認める、といった条項や、「独立した共同委員会で医薬品価格などについて話し合う」などの条項が入っている。韓国内の専門家も問題視しはじめた。
以上、柳京煕「強行された涙の不平等条約 米韓FTAの実態」(「世界」2012年1月号)に拠る。
【参考】「【経済】TPPは寿命を縮める ~医療と食の安全~」
「【経済】中野剛志の、経産省は「経済安全保障省」たるべし ~TPP~」
「【経済】中野剛志『TPP亡国論』」
「【震災】原発>TPP亡者たちよ、今の日本に必要なのは放射能対策だ」
「【経済】TPPをめぐる構図は「輸出産業」対「広い分野の損失」」
「【経済】TPPで崩壊するのは製造業 ~政府の情報隠蔽~」
「【経済】中国がTPPに参加しない理由 ~ISD条項~」
「【社会保障】TPP参加で確実に生じる医療格差」
「【社会保障】「貧困大国アメリカ」の医療 ~自己破産原因の5割強が医療費~」
「【経済】TPPとウォール街デモとの関係 ~『貧困大国アメリカ』の著者は語る~」
「【経済】TPP賛成論vs.反対論 ~恐るべきISD条項~」
「【経済】米国は一方的に要求 ~TPP/FTA~」
「【経済】伊東光晴の、日本の選択 ~TPP批判~」
「【経済】伊東光晴の、TPP参加論批判」
「【経済】TPPはいまや時代遅れの輸出促進策 ~中国の動き方~」
「【震災】復興利権を狙う米国」
「【読書余滴】谷口誠の、米国のTPP戦略 ~その対抗策としての「東アジア共同体」構築~」
「【読書余滴】野口悠紀雄の、日本経済再生の方向づけ」
「【読書余滴】野口悠紀雄の、中国抜きのTPPは輸出産業にも問題」
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