増税するためには、国民を納得させることだ。そのためには、説明にウソや誤魔化しがあってはならない。ところが、これまで増税の必要性に係る理由として挙げられてきたものの中には、ウソや誤魔化しがきわめて多い。
その一例が、「消費税の税率引き上げによる増収分は、社会保障に充てる」だ。「素案」(2012年1月)では「消費税収を全額社会保障4経費(年金・医療・介護・少子化)に充てる」としている。
税率を当面10%に引き上げる理由について、「成案」(2011年6月)は次のように説明している。
基礎年金、高齢者医療、介護の3分野の支出は2015年度で合計26.3兆円だが、消費税収入は13.5兆円であり、12.8兆円不足する。よって、それを埋めるために増税が必要で、消費税率でいうとほぼ5%だ。
この説明は、品のない言い方をすると、ペテンだ。経済学の問題ではなく、論理学の問題だ。
消費税増税を2015年度までに行わないと仮定すれば、「成案」のいわゆる不足分12.8兆円は他の財源(国債発行収入を含む)によって手当される。
2015年度に5%増税し、12.8兆円の追加収入を得たとすれば、それまで3経費に充てられていた財源のうち12.8兆円が余る。それは自由に使える収入だ。例えば国債減額に使えるし、そうなるだろう。
実は、これが増税がもたらす唯一の実質的な効果だ。増税は、国債減額のために行うのだ。しかし、この場合においても、「消費税増税分は3経費に充てた」という説明は間違いではない。消費税収が3経費の範囲内に収まっているからだ。
しかし、浮いた12.8兆円は、国債減額に充てず、ムダな経費を増やすことにも使うことができる。その場合においても、「消費税増税分はは3経費に充てた」という説明と矛盾しない。要するに、消費税収が3経費を超えないかぎり、どんな財政運営をしたところで、「消費税増税分はは3経費に充てた」という説明が可能なのだ。
言っても言わなくても結果に差をもたらさないルールは、無意味だ。
ちなみに、使途の限定化や目的税化は、可能なことは可能だ。例えば、このたび新たに需要ができた復興に係る支出だ。社会保障3経費は、すでに存在し、しかも消費税以外の財源によって手当されている経費だから、以上述べたようなペテンになるのだ。
ただし、「消費税収を社会保障に限定する」という主張は、一つだけ実質的な効果をもつ。増税分を地方交付税に充てない、という点で。
それならば、そうとハッキリ言うべきだ。これを実現するためには、地方交付税法や予算総則を変える必要がある。なぜ変えるか、の説明に「使途を社会保障に限定するため」では答にならない。トートロジーだからだ。
勘ぐれば、「増税分を社会保障に充てる」のは、「社会保障費が今後増えれば、それに応じて増税する」意図かもしれない。実際、「成案」は、将来的には社会保障給付費に係る公費の全額を消費税で賄うことを意図しているらしい。これは、大変危険なことだ。社会保障費の増大に伴って、際限のない増税が許容されてしまうからだ。のみならず、社会保障費抑制の努力がなくなる。
社会保障について、本来必要なのは、制度を見直して支出を抑制することなのだ。
赤字削減のための増税、地方交付税にまわさない増税・・・・本音を言わないから、トリック/ペテンなのだ。
以上、野口悠紀雄『消費増税では財政再建できない ~「国債破綻」回避へのシナリオ~』(ダイヤモンド社、2011)の第1章第3節に拠る。
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その一例が、「消費税の税率引き上げによる増収分は、社会保障に充てる」だ。「素案」(2012年1月)では「消費税収を全額社会保障4経費(年金・医療・介護・少子化)に充てる」としている。
税率を当面10%に引き上げる理由について、「成案」(2011年6月)は次のように説明している。
基礎年金、高齢者医療、介護の3分野の支出は2015年度で合計26.3兆円だが、消費税収入は13.5兆円であり、12.8兆円不足する。よって、それを埋めるために増税が必要で、消費税率でいうとほぼ5%だ。
この説明は、品のない言い方をすると、ペテンだ。経済学の問題ではなく、論理学の問題だ。
消費税増税を2015年度までに行わないと仮定すれば、「成案」のいわゆる不足分12.8兆円は他の財源(国債発行収入を含む)によって手当される。
2015年度に5%増税し、12.8兆円の追加収入を得たとすれば、それまで3経費に充てられていた財源のうち12.8兆円が余る。それは自由に使える収入だ。例えば国債減額に使えるし、そうなるだろう。
実は、これが増税がもたらす唯一の実質的な効果だ。増税は、国債減額のために行うのだ。しかし、この場合においても、「消費税増税分は3経費に充てた」という説明は間違いではない。消費税収が3経費の範囲内に収まっているからだ。
しかし、浮いた12.8兆円は、国債減額に充てず、ムダな経費を増やすことにも使うことができる。その場合においても、「消費税増税分はは3経費に充てた」という説明と矛盾しない。要するに、消費税収が3経費を超えないかぎり、どんな財政運営をしたところで、「消費税増税分はは3経費に充てた」という説明が可能なのだ。
言っても言わなくても結果に差をもたらさないルールは、無意味だ。
ちなみに、使途の限定化や目的税化は、可能なことは可能だ。例えば、このたび新たに需要ができた復興に係る支出だ。社会保障3経費は、すでに存在し、しかも消費税以外の財源によって手当されている経費だから、以上述べたようなペテンになるのだ。
ただし、「消費税収を社会保障に限定する」という主張は、一つだけ実質的な効果をもつ。増税分を地方交付税に充てない、という点で。
それならば、そうとハッキリ言うべきだ。これを実現するためには、地方交付税法や予算総則を変える必要がある。なぜ変えるか、の説明に「使途を社会保障に限定するため」では答にならない。トートロジーだからだ。
勘ぐれば、「増税分を社会保障に充てる」のは、「社会保障費が今後増えれば、それに応じて増税する」意図かもしれない。実際、「成案」は、将来的には社会保障給付費に係る公費の全額を消費税で賄うことを意図しているらしい。これは、大変危険なことだ。社会保障費の増大に伴って、際限のない増税が許容されてしまうからだ。のみならず、社会保障費抑制の努力がなくなる。
社会保障について、本来必要なのは、制度を見直して支出を抑制することなのだ。
赤字削減のための増税、地方交付税にまわさない増税・・・・本音を言わないから、トリック/ペテンなのだ。
以上、野口悠紀雄『消費増税では財政再建できない ~「国債破綻」回避へのシナリオ~』(ダイヤモンド社、2011)の第1章第3節に拠る。
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