音楽家にして作家の著者は、福島県福島市に生まれた。終の棲家とすべく越後の豪雪地帯に買った古い家を十数年かけて手を入れ、本格的な引っ越しに取りかかる直前、2004年10月23日、中越地震に被災した。同年末、福島県双葉郡川内村の新居に移った。
本書は、いろいろな読み方をすることができる。
(1)マスコミで報道され、インターネットで明らかにされた原発事故の真実の概観。本書を拾い読みすると、この1年間足らずの間に何度となく驚かされたニュースが記憶の底から甦る。著者は、普通に暮らす生活者が知り得たことを整理している。この点、識者のように上段に構えず、全国の大多数の普通の生活人と同じ立場に立つ。著者が何度となく受けたに違いないショックや苦々しい思いは、大多数の読者のそれと同じだと思う。
(2)副題のとおり原発30km圏内の現場で暮らし続けている点で、他の地域の人々には見えないものを見ている。例えば、一時帰宅は「ショー」だ、と喝破する。
(3)川内村の「面白い人たち」だ。隣近所の普通の老人たちから、ユニークな暮らしを実践する貘原人村の人たち。隣の田村市でシイタケ農業を営んでいた秋山豊寛・元宇宙飛行士も登場する。被曝後、彼らが失ったもの、あるいは被曝しつつ暮らす覚悟は傷ましい。
(1)は例えば、日本気象学会理事長(新野宏)による日本気象学会会員に対する圧力。余計なことを言うな・・・・【注2】。
これを著者は「噴飯もの」と評する。
<飯舘村の人たちは、今中チーム【注1】がこの調査を行うまで、国からも県からもこうした深刻な状況に自分たちいることを知らされていなかったのだ。/一方で、国民に情報を知らせるのが仕事であるはずの気象庁や環境省などはまったく動かなかった。放射性物質はうちの管轄ではない、の一点張り。/中でも噴飯ものなのは、日本気象学会理事長・新野宏氏が気象学会員である学者たちに発した通達だ。>
こう書いて、著者は日本気象学会理事長名の通達【注2】を引用し、評する。
<関与しないどころか、学者たちに「勝手に調査するな。発表するな」と圧力をかけたのだ。/日本のアカデミズムはとっくに死んでいたということか。>と著者は詠嘆する。
当時、日本気象学会理事長による露骨な隠蔽がネットで評判になったが、いま改めて政治に従属する科学者の胡乱さを痛感する人は多いはずだ。
(1)は、また例えば、事故収束のめどもまったく立たない時期に登場した「地下原発議連」がある。このブログでも昨年6月9日に取り上げた【注3】が、著者は「さすがに驚き呆れ果てた」。
<さすがに驚き呆れ果てたのは5月松に突然出てきた「地下式原子力発電所政策推進議員連盟」(地下原発議連)なるグループだ。/地上に作ると危ないから、原発は地下に作ればいいんだね、という趣旨の会らしい。>
<最初にこの話を聞いたときは、与太話だろうと思った。(中略)/ところが、ジョークではなかった。>
<会長は平沼赳夫(たちあがれ日本)。顧問には、谷垣禎一、安倍晋三、山本有二、森喜朗(以上、自民党)、鳩山由起夫、渡部恒三、羽田孜、石井一(以上、民主党)、亀井静香(国民新党)。事務局長に、山本拓(自民党)・・・・という顔ぶれ。>
<この会の立ち上げを歓迎しよう。政界をリードしてきた人たちはことごとく頭がおかしいということを日本国中に知らしめることになったからだ。/彼らは本気でこんなとんでもないことを考えているのだろうか。(中略)/要するに、原発そのものより、日本の政治のほうがはるかに危険だったのだ。>
これまた、自分が「地下原発議連」の懲りない面々と同じ日本人であることを恥じた人は多いはずだ。
【注1】今中哲二・京大原子炉実験所助教が率いるチーム。
【注2】2011年3月18日付け日本気象学会理事長(新野宏)通知、日本気象学会会員各位あて。
【注3】「【震災】原発>非常時冷却システムを撤去していた勝俣恒久・東京電力会長」
□たくき よしみつ(鐸木能光)『裸のフクシマ ~原発30km圏内で暮らす~』(講談社、2011)
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本書は、いろいろな読み方をすることができる。
(1)マスコミで報道され、インターネットで明らかにされた原発事故の真実の概観。本書を拾い読みすると、この1年間足らずの間に何度となく驚かされたニュースが記憶の底から甦る。著者は、普通に暮らす生活者が知り得たことを整理している。この点、識者のように上段に構えず、全国の大多数の普通の生活人と同じ立場に立つ。著者が何度となく受けたに違いないショックや苦々しい思いは、大多数の読者のそれと同じだと思う。
(2)副題のとおり原発30km圏内の現場で暮らし続けている点で、他の地域の人々には見えないものを見ている。例えば、一時帰宅は「ショー」だ、と喝破する。
(3)川内村の「面白い人たち」だ。隣近所の普通の老人たちから、ユニークな暮らしを実践する貘原人村の人たち。隣の田村市でシイタケ農業を営んでいた秋山豊寛・元宇宙飛行士も登場する。被曝後、彼らが失ったもの、あるいは被曝しつつ暮らす覚悟は傷ましい。
(1)は例えば、日本気象学会理事長(新野宏)による日本気象学会会員に対する圧力。余計なことを言うな・・・・【注2】。
これを著者は「噴飯もの」と評する。
<飯舘村の人たちは、今中チーム【注1】がこの調査を行うまで、国からも県からもこうした深刻な状況に自分たちいることを知らされていなかったのだ。/一方で、国民に情報を知らせるのが仕事であるはずの気象庁や環境省などはまったく動かなかった。放射性物質はうちの管轄ではない、の一点張り。/中でも噴飯ものなのは、日本気象学会理事長・新野宏氏が気象学会員である学者たちに発した通達だ。>
こう書いて、著者は日本気象学会理事長名の通達【注2】を引用し、評する。
<関与しないどころか、学者たちに「勝手に調査するな。発表するな」と圧力をかけたのだ。/日本のアカデミズムはとっくに死んでいたということか。>と著者は詠嘆する。
当時、日本気象学会理事長による露骨な隠蔽がネットで評判になったが、いま改めて政治に従属する科学者の胡乱さを痛感する人は多いはずだ。
(1)は、また例えば、事故収束のめどもまったく立たない時期に登場した「地下原発議連」がある。このブログでも昨年6月9日に取り上げた【注3】が、著者は「さすがに驚き呆れ果てた」。
<さすがに驚き呆れ果てたのは5月松に突然出てきた「地下式原子力発電所政策推進議員連盟」(地下原発議連)なるグループだ。/地上に作ると危ないから、原発は地下に作ればいいんだね、という趣旨の会らしい。>
<最初にこの話を聞いたときは、与太話だろうと思った。(中略)/ところが、ジョークではなかった。>
<会長は平沼赳夫(たちあがれ日本)。顧問には、谷垣禎一、安倍晋三、山本有二、森喜朗(以上、自民党)、鳩山由起夫、渡部恒三、羽田孜、石井一(以上、民主党)、亀井静香(国民新党)。事務局長に、山本拓(自民党)・・・・という顔ぶれ。>
<この会の立ち上げを歓迎しよう。政界をリードしてきた人たちはことごとく頭がおかしいということを日本国中に知らしめることになったからだ。/彼らは本気でこんなとんでもないことを考えているのだろうか。(中略)/要するに、原発そのものより、日本の政治のほうがはるかに危険だったのだ。>
これまた、自分が「地下原発議連」の懲りない面々と同じ日本人であることを恥じた人は多いはずだ。
【注1】今中哲二・京大原子炉実験所助教が率いるチーム。
【注2】2011年3月18日付け日本気象学会理事長(新野宏)通知、日本気象学会会員各位あて。
【注3】「【震災】原発>非常時冷却システムを撤去していた勝俣恒久・東京電力会長」
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