原発30km圏内で暮らし続けるということは、(a)必然的に福島第一原発(1F)で働いているか、過去働いたことのある人と触れ合うことになる。また、(b)低線量被曝の脅威の中で生活することになる。(c)そこから、ある種の覚悟が生まれる。
(a)原発で働く人たち。
放射性物質に近づけば被曝する。癌や白血病などの病気にかかり、命を縮める。原発の補修、燃料交換、掃除といった作業に従事する人たちは必ず被曝する。
<とくに下請け会社の臨時雇いの現場作業員たちがひっそり死んでいく問題は、以前から一部のジャーナリストたちが取り上げていた。でも、僕を含め、多くの日本人は、そうした現実を直視しようとしなかった。(中略)/自分で選んだ職業なのだから、外野がいちいち口を出すことではない・・・・そう思って、沈黙を決め込んできた。/しかし、川内村に移り住んでからは、昨日までは元気だった人たちの何人かが急性白血病や癌で亡くなるのを実際に見てきた。ああ、こういうことなのか、と思い知った。>
だが、村人はこの手の話をしたがらない。<原発で働いた人が後に癌や白血病で死ぬことは完全なタブーなのだ。>
ある20代の青年は、事故後も1Fで働き続けている。<内部被曝は絶対してますよね。まあ、しようがないっすね。こういう仕事なんだから・・・・。//彼に限らず、村の若者たちに軒並み覇気が感じられないことは、以前から気になっていた。老人たちが比較的元気なのに比べると、若い世代は最初から自分の人生を諦めているようなところがある。>
でも、小学生くらいまではしっかりしている。
事故当時小学生6年生だった女の子は、知り合いの村議に「抗議文」を託した。どうしてよいか、わからぬまま懐にしまった村議は、昨年6月20、21日の村議会終了後、東電から派遣された社員による説明会が補償金をめぐって紛糾したとき、「抗議文」を取り出して読みあげた。<さすがに、これが読まれた直後は、場内が静まりかえったという。>
<原発は私のすべてをうばった。私の大切な大切な故郷も仲間も学校も今までやってきたこともすべて・・・・。原発さえなければこんなに悩むことも苦しむこともなかった。原発さえなければ。なんで原発なんでつくったんだよ。川内のみんなとこれからつくりあげていくはずだった歴史もすべて。あなたは私の何を保しょうしてくれますか? 私の時間を私の仲間を私の心のすべてをうばった。あなたは私のすべてを保しょうしてくれますか? こんな思いをいだいているのは私だけではないでしょう。あの美しい川内村をあのあたたかい川内村をかえしてください。私のふるさとをかえしてください。楽しい思い出がつまった川内村をかえしてください。原発のせいで、多くの命が消えました。どれだけ私達にとって川内村が大切だったか。お金なんかじゃ、けっして保しょうできないんです。あなたを私は絶対にゆるさない。すべてをうばったあなたを。原発なんて絶対に。>
(b)低線量被曝の中で。
村民は低い線量とはいえ、被曝し続ける。これ自体大きな変化だが、原発事故は村の外部との関わり方も変えた。
端的な例が宅急便だ。日本郵便とヤマト運輸はほぼ同時期に復活したが、佐川や西濃など他の運送会社はいつまでも復活する気配がない。もtもと川内村は広いばかりで家がないので、運送会社にとっては「平時」であっても大赤字エリアだ。こんな過疎地はサービス圏外にしたいところだが、クロネコがやっているので、飛脚やカンガルーが行かないわけにはいかず、いやいややっていたところに原発震災。赤字エリアを切り捨てるよい口実になった。
クロネコは、1通80円のメール便を玄関まで届ける。震災後は、海側の配達拠点が軒並みに機能停止したので、広野町と川内町を一人で回っている。
<これにはびっくりした。広野町と川内町の間には福島第二原発が建つ楢葉町があり、直接結ぶ道はひどい山道しかない。楢葉町は大半が20キロ圏内に入ってしまったので通過できない。もちろん、町中がすっぽり20キロ圏内に入り、海沿いの道路が壊滅したままの富岡町側から回ってくることもできない。普段でも広野町と川内村は片道1時間はかかる。それなのにこの気の遠くなるようなエリアをひとりで回っているというのだ。1通80円のメール便を届けるために。>
(c)放射性物質に対する覚悟
身近に原発と小さからぬ関わりがある人が少なからず居て、いまや低線量被曝の土地で暮らす著者には、幻想がない。「第5章 裸のフクシマ」でいう。
<今回の放射能汚染は「事故が起きたから放射性物質が生じた」わけではない。放射性物質は事故が起きても起きなくても、最初から原発の施設内に存在していた。最初から存在していたものが壁の外に「漏れた」ということだ。>
<放射性物質は、焼却することもできないし、土壌バクテリアが分解してくれるものでもない。もちろん、食物連鎖の中に組み込むこともできない。地球生態系が持っている物質循環システムに乗せられない物質だ。>
<「除染」というのは、「拡散」か「移動」のことであって、放射能を消滅させることはできない。現人類が知りうる限り、放射能を消す技術は存在しない。>
□たくき よしみつ(鐸木能光)『裸のフクシマ ~原発30km圏内で暮らす~』(講談社、2011)
【参考】「【震災】原発>『裸のフクシマ ~原発30km圏内で暮らす~』」
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(a)原発で働く人たち。
放射性物質に近づけば被曝する。癌や白血病などの病気にかかり、命を縮める。原発の補修、燃料交換、掃除といった作業に従事する人たちは必ず被曝する。
<とくに下請け会社の臨時雇いの現場作業員たちがひっそり死んでいく問題は、以前から一部のジャーナリストたちが取り上げていた。でも、僕を含め、多くの日本人は、そうした現実を直視しようとしなかった。(中略)/自分で選んだ職業なのだから、外野がいちいち口を出すことではない・・・・そう思って、沈黙を決め込んできた。/しかし、川内村に移り住んでからは、昨日までは元気だった人たちの何人かが急性白血病や癌で亡くなるのを実際に見てきた。ああ、こういうことなのか、と思い知った。>
だが、村人はこの手の話をしたがらない。<原発で働いた人が後に癌や白血病で死ぬことは完全なタブーなのだ。>
ある20代の青年は、事故後も1Fで働き続けている。<内部被曝は絶対してますよね。まあ、しようがないっすね。こういう仕事なんだから・・・・。//彼に限らず、村の若者たちに軒並み覇気が感じられないことは、以前から気になっていた。老人たちが比較的元気なのに比べると、若い世代は最初から自分の人生を諦めているようなところがある。>
でも、小学生くらいまではしっかりしている。
事故当時小学生6年生だった女の子は、知り合いの村議に「抗議文」を託した。どうしてよいか、わからぬまま懐にしまった村議は、昨年6月20、21日の村議会終了後、東電から派遣された社員による説明会が補償金をめぐって紛糾したとき、「抗議文」を取り出して読みあげた。<さすがに、これが読まれた直後は、場内が静まりかえったという。>
<原発は私のすべてをうばった。私の大切な大切な故郷も仲間も学校も今までやってきたこともすべて・・・・。原発さえなければこんなに悩むことも苦しむこともなかった。原発さえなければ。なんで原発なんでつくったんだよ。川内のみんなとこれからつくりあげていくはずだった歴史もすべて。あなたは私の何を保しょうしてくれますか? 私の時間を私の仲間を私の心のすべてをうばった。あなたは私のすべてを保しょうしてくれますか? こんな思いをいだいているのは私だけではないでしょう。あの美しい川内村をあのあたたかい川内村をかえしてください。私のふるさとをかえしてください。楽しい思い出がつまった川内村をかえしてください。原発のせいで、多くの命が消えました。どれだけ私達にとって川内村が大切だったか。お金なんかじゃ、けっして保しょうできないんです。あなたを私は絶対にゆるさない。すべてをうばったあなたを。原発なんて絶対に。>
(b)低線量被曝の中で。
村民は低い線量とはいえ、被曝し続ける。これ自体大きな変化だが、原発事故は村の外部との関わり方も変えた。
端的な例が宅急便だ。日本郵便とヤマト運輸はほぼ同時期に復活したが、佐川や西濃など他の運送会社はいつまでも復活する気配がない。もtもと川内村は広いばかりで家がないので、運送会社にとっては「平時」であっても大赤字エリアだ。こんな過疎地はサービス圏外にしたいところだが、クロネコがやっているので、飛脚やカンガルーが行かないわけにはいかず、いやいややっていたところに原発震災。赤字エリアを切り捨てるよい口実になった。
クロネコは、1通80円のメール便を玄関まで届ける。震災後は、海側の配達拠点が軒並みに機能停止したので、広野町と川内町を一人で回っている。
<これにはびっくりした。広野町と川内町の間には福島第二原発が建つ楢葉町があり、直接結ぶ道はひどい山道しかない。楢葉町は大半が20キロ圏内に入ってしまったので通過できない。もちろん、町中がすっぽり20キロ圏内に入り、海沿いの道路が壊滅したままの富岡町側から回ってくることもできない。普段でも広野町と川内村は片道1時間はかかる。それなのにこの気の遠くなるようなエリアをひとりで回っているというのだ。1通80円のメール便を届けるために。>
(c)放射性物質に対する覚悟
身近に原発と小さからぬ関わりがある人が少なからず居て、いまや低線量被曝の土地で暮らす著者には、幻想がない。「第5章 裸のフクシマ」でいう。
<今回の放射能汚染は「事故が起きたから放射性物質が生じた」わけではない。放射性物質は事故が起きても起きなくても、最初から原発の施設内に存在していた。最初から存在していたものが壁の外に「漏れた」ということだ。>
<放射性物質は、焼却することもできないし、土壌バクテリアが分解してくれるものでもない。もちろん、食物連鎖の中に組み込むこともできない。地球生態系が持っている物質循環システムに乗せられない物質だ。>
<「除染」というのは、「拡散」か「移動」のことであって、放射能を消滅させることはできない。現人類が知りうる限り、放射能を消す技術は存在しない。>
□たくき よしみつ(鐸木能光)『裸のフクシマ ~原発30km圏内で暮らす~』(講談社、2011)
【参考】「【震災】原発>『裸のフクシマ ~原発30km圏内で暮らす~』」
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