【神戸】市営住宅を造らず新庁舎建設 ~被災住民の追い出し強行~
(1)「借り上げ復興住宅問題」・・・・阪神・淡路大震災で不足した住居を、民間や都市再生機構(UR)から県や市が借り上げて提供していた。
2015年9月、「シティハイツ西宮北口」(兵庫県西宮市)が最初の「20年の期限」を迎えた。
神戸市では、「キャナルタウンウェスト」1~3号棟(JR兵庫駅のすぐ南)が同市で最も早く、1月30日に期限を迎えた。退去を拒否している3世帯に対し、神戸市はすでに退去通知書を出し、法廷闘争も辞さない構えだ。
(2)丹戸郁江さん(72歳、キャナルタウン2号棟)は、乳癌で抗癌剤治療を続け、すぐ近くに住む妹夫妻の助けを頼って暮らしている。
「癌は少し良くなったけど、頸椎の損傷で歩行困難になると言われている。妹と離れたら暮らしていけない。2年半前、私がインフルエンザで倒れている最中にインターホン越しに一方的に説明された」
化粧品の販売事業をしていた丹戸さんは自宅が全壊し、避難生活の後、1996年3月にキャナルタウンに入居した。丹戸さんの持つ市との契約書には20年で退去しなくてはならないということは一切記載されていない。あくまで、市とURの契約が20年になっているだけだ。
「年金生活ですが、いまも事業の負債が残っており、生活は苦しい」
(3)神戸市は、要介護3以上、85歳以上には継続入居を認め、該当しない入居者には他の市営住宅をあっせん、転居を求めてきた。
一方、UR側は「市の方針どおりにしているだけ」とするだけで、UR側から退去を求めているわけではないという。
(4)神戸市は、2月2日、退去通告書を退去に応じない住民の弁護団に送った。「退去に応じなければ、1月31日以降、市がURに払う家賃に相当する損害賠償を求める」とし、訴訟も辞さない内容だ。
市は、「応じて転居した他の入居者との不平等」を論拠にする。
しかし、弁護団の吉田維一・弁護士は、
「市は脅迫的なやり方で追い出すなど不公平なことを十分にやってきた。個人個人で事情は異なる。応じた人を引き合いに出して不平等論を持ち出すことは許されない」
と指摘しつつ、警戒する。
「入居を続けられた時の市の経済的被害の説明も破綻している。今後も期限を迎えることになっている住宅を多く控え、市はここで譲歩するわけにはいかないと強硬になっている」
(4)一方、神戸市は、2015年12月、長田区の再開発地区に新庁舎(県市の合同庁舎)を建設することを明らかにした。だが、具体的な内容もその予算も明確にしない。
情報公開請求をしている出口俊一・兵庫県震災復興研究センター事務局長は、怒る。
「市は、再開発の名目で長田区に高層ビルを乱立させ、現在、空き床だらけになっている。新庁舎を建てなくとも十分使えるはず。職員だけが来ればいい。都市部局に予算を訊いても、数十億くらいとか言うだけ」
建設の大義名分は、「1,000人ほどの職員が来る。長田区にかつての賑わいを取り戻し、商店などを活性化したい」というものだ。
そうであれば、庁舎内に食堂、喫茶店、売店などを造るのはおかしい。出口事務局長がその点を尋ねても、市は言葉を濁すばかり。三宮の本庁舎に入っているレストランなどと、すでに契約ができている可能性もある。
染谷繁・中華料理店「雲来軒」(再開発地区)経営者はいう。「せっかく人が増えても庁舎内に食堂や喫茶店を造られては意味がない」
(5)20年前に神戸市が民間からの借り上げをし、その後も借り上げ入居者のための市営住宅を造らなかったのは、「新たに建設すれば金がかかる。借り上げのほうが安い」という理由からだった。
市営住宅は造らず、自分たちのための豪華庁舎などを造り続ける神戸市は、近く市主導で三宮の再開発にも着手する。
災害を奇貨として再開発名目に不必要に豪華な箱モノ造りに邁進、ゼネコンに奉仕し続ける一方で、住民を追い出しにかかる。いったい行政の顔はどこに向いているのか。復興災害は拡大し続けている。
□粟野仁雄「市営住宅を造らず新庁舎建設 阪神・淡路大震災被災住民の「追い出し」を強行する神戸市」(「週刊金曜日」2016年2月12日号)
↓クリック、プリーズ。↓
【参考】
「【神戸】希望の星から転落した神戸空港 ~埋立開発行政の破綻③~」
「【神戸】「医療産業都市」の躓きと暴走 ~埋立開発行政の破綻②~」
「【神戸】生体肝移植失敗の原因 ~埋立開発行政の破綻~」
「【震災】神戸市長田区に見る「復興災害」(2)」
「【震災】神戸市長田区に見る「復興災害」(1)」
「【旅】復興を絵画で表現できるか ~平町公の試み~」
「【震災】二重ローン 得するのは銀行だけだ ~その対策~」
「【震災】復興のカギはパイプ役(住民の自主組織) ~神戸の過ち、奥尻の教訓~」
「書評:『神戸発 阪神大震災以後』」
「書評:『復興の闇・都市の非情 --阪神大震災、五年の軌跡』」
(1)「借り上げ復興住宅問題」・・・・阪神・淡路大震災で不足した住居を、民間や都市再生機構(UR)から県や市が借り上げて提供していた。
2015年9月、「シティハイツ西宮北口」(兵庫県西宮市)が最初の「20年の期限」を迎えた。
神戸市では、「キャナルタウンウェスト」1~3号棟(JR兵庫駅のすぐ南)が同市で最も早く、1月30日に期限を迎えた。退去を拒否している3世帯に対し、神戸市はすでに退去通知書を出し、法廷闘争も辞さない構えだ。
(2)丹戸郁江さん(72歳、キャナルタウン2号棟)は、乳癌で抗癌剤治療を続け、すぐ近くに住む妹夫妻の助けを頼って暮らしている。
「癌は少し良くなったけど、頸椎の損傷で歩行困難になると言われている。妹と離れたら暮らしていけない。2年半前、私がインフルエンザで倒れている最中にインターホン越しに一方的に説明された」
化粧品の販売事業をしていた丹戸さんは自宅が全壊し、避難生活の後、1996年3月にキャナルタウンに入居した。丹戸さんの持つ市との契約書には20年で退去しなくてはならないということは一切記載されていない。あくまで、市とURの契約が20年になっているだけだ。
「年金生活ですが、いまも事業の負債が残っており、生活は苦しい」
(3)神戸市は、要介護3以上、85歳以上には継続入居を認め、該当しない入居者には他の市営住宅をあっせん、転居を求めてきた。
一方、UR側は「市の方針どおりにしているだけ」とするだけで、UR側から退去を求めているわけではないという。
(4)神戸市は、2月2日、退去通告書を退去に応じない住民の弁護団に送った。「退去に応じなければ、1月31日以降、市がURに払う家賃に相当する損害賠償を求める」とし、訴訟も辞さない内容だ。
市は、「応じて転居した他の入居者との不平等」を論拠にする。
しかし、弁護団の吉田維一・弁護士は、
「市は脅迫的なやり方で追い出すなど不公平なことを十分にやってきた。個人個人で事情は異なる。応じた人を引き合いに出して不平等論を持ち出すことは許されない」
と指摘しつつ、警戒する。
「入居を続けられた時の市の経済的被害の説明も破綻している。今後も期限を迎えることになっている住宅を多く控え、市はここで譲歩するわけにはいかないと強硬になっている」
(4)一方、神戸市は、2015年12月、長田区の再開発地区に新庁舎(県市の合同庁舎)を建設することを明らかにした。だが、具体的な内容もその予算も明確にしない。
情報公開請求をしている出口俊一・兵庫県震災復興研究センター事務局長は、怒る。
「市は、再開発の名目で長田区に高層ビルを乱立させ、現在、空き床だらけになっている。新庁舎を建てなくとも十分使えるはず。職員だけが来ればいい。都市部局に予算を訊いても、数十億くらいとか言うだけ」
建設の大義名分は、「1,000人ほどの職員が来る。長田区にかつての賑わいを取り戻し、商店などを活性化したい」というものだ。
そうであれば、庁舎内に食堂、喫茶店、売店などを造るのはおかしい。出口事務局長がその点を尋ねても、市は言葉を濁すばかり。三宮の本庁舎に入っているレストランなどと、すでに契約ができている可能性もある。
染谷繁・中華料理店「雲来軒」(再開発地区)経営者はいう。「せっかく人が増えても庁舎内に食堂や喫茶店を造られては意味がない」
(5)20年前に神戸市が民間からの借り上げをし、その後も借り上げ入居者のための市営住宅を造らなかったのは、「新たに建設すれば金がかかる。借り上げのほうが安い」という理由からだった。
市営住宅は造らず、自分たちのための豪華庁舎などを造り続ける神戸市は、近く市主導で三宮の再開発にも着手する。
災害を奇貨として再開発名目に不必要に豪華な箱モノ造りに邁進、ゼネコンに奉仕し続ける一方で、住民を追い出しにかかる。いったい行政の顔はどこに向いているのか。復興災害は拡大し続けている。
□粟野仁雄「市営住宅を造らず新庁舎建設 阪神・淡路大震災被災住民の「追い出し」を強行する神戸市」(「週刊金曜日」2016年2月12日号)
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【参考】
「【神戸】希望の星から転落した神戸空港 ~埋立開発行政の破綻③~」
「【神戸】「医療産業都市」の躓きと暴走 ~埋立開発行政の破綻②~」
「【神戸】生体肝移植失敗の原因 ~埋立開発行政の破綻~」
「【震災】神戸市長田区に見る「復興災害」(2)」
「【震災】神戸市長田区に見る「復興災害」(1)」
「【旅】復興を絵画で表現できるか ~平町公の試み~」
「【震災】二重ローン 得するのは銀行だけだ ~その対策~」
「【震災】復興のカギはパイプ役(住民の自主組織) ~神戸の過ち、奥尻の教訓~」
「書評:『神戸発 阪神大震災以後』」
「書評:『復興の闇・都市の非情 --阪神大震災、五年の軌跡』」