語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】トルキスタンの分割、変容する民族意識、ユーラシア主義の地政学

2016年12月08日 | ●佐藤優
 (1)収容所群島をつくったことによって政治的に断罪されたスターリンは、ジョージア(グルジア)人だ。
 グルジア人は不思議な言語をしゃべる。世界の言語はだいたい主格と対格がある。アラビア語も日本語も朝鮮語も中国語も全部一緒だ。ところが、ごく一部にだけ、主格・対格構造をとらない特殊な言語がある。能格・絶対格構造をとっている言語が世界のごく一部にあって、それがバスク語、グルジア語、チェチェン語、アディゲイ語などだ。これらの言語は動詞の変化表をつくるのがすごく難しい。グルジア語は一つの動詞が15,000ぐらい変化する。アディゲイ語になると12億らしい。
 言語の違いは思想の違いだから、珍しい言語をしゃべるスターリンはユニークな発想ができる人だ。しかも、スターリンはグルジアのゴリの町の出身で、このゴリの町にはグルジア人は少なかった。アルメニア人とユダヤ人の多い町で、オセチア人も多い。オセチア人は自称アラン人ということからもわかるように、アラン(=イラン)はすなわちイラン(ペルシア)系だ。自分たちは古代スキタイ民族の末裔だと信じている。
 スターリンの姓はジュガシビリというだが、この名前は生粋のグルジア人ではない。また、スターリンの父親は靴屋だった。コーカサス地域において靴屋はオセチア人のやる仕事だ。だから、名前と父親の職業から察するに、スターリンはおそらくジュガーエフという名前で、グルジアに帰化したオセチア人だ。
 スターリンは神学の基礎教育を受けている。彼は小さいとき天然痘に罹っている。母親が、この子がもし生き残れるなら神様に捧げます、と願をかけて、神学校へ入れた。しかし、高校生のとき飛び出してしまい、マルクス主義運動を始めた。
 スターリンは、ものすごく頭のいい男で、哲学者でもあり、経済学者でもあり、言語学者でもある。「ソ同盟における言語学上の諸問題」なぞすごくいい論文で、ソシュールを粗野にした感じだ。

 (2)スターリン全集には、あちこちに「回教徒共産主義者(ムスリム・コムニスト)という言葉が出てくる。
 ロシア革命は、マルクス主義によって行われたという建前になっている。しかし、マルクス主義の理論からすると、高度に資本主義が発達したところでしか革命が起きないはずだ。ロシアは遅れていた。だから、スターリンも、レーニンも、トロッキーも、ブハーリンも、みなドイツで革命が起きて、成功して、ドイツとロシアが連携して世界革命が始まると思ったわけだ。
 しかし、ドイツ革命がすぐにずっこけてしまう。次にハンガリーで革命が起きたが、これも頓挫してしまう。ロシアは遅れた社会のまま死んでしまうのか。これは早産だから死ぬしかないと考えたのがドイツ社会民主党の、第二インターナショナルの指導者だったカウッキーだ。ロシアにマルクス主義を導入したプレハーノフも、革命ロシアは生き残らないと考えていた。
 しかし、レーニンやスターリンにしれみれば、早産だから死ぬしかないというわけにはいかない。そこでジノヴィエフ、さらにスターリンが新しい仲間を見つけてきた。それがスルタンガリエフという人だ。スルタンガリエフはタタールスタンの共産主義者。共産主義者だが、イスラム教徒でもある人だ。彼は中央アジア・コーカサスに行ってこう言う。
 「われわれがやろうとしている階級闘争というのは、西方の異教徒に対する聖戦だ」
 で、赤旗と緑の旗を一緒に立てながら、革命を中央アジアでやる、だから回教徒共産主義という同盟軍がいるんだ、という理論を打ち立てていった。スターリンはそのうちの一人だ。

 (3)もともとコーカサス、中央アジアはトルキスタン(トルコ系の人たちが住んでいる土地)ということで一つのまとまりを持っていた。
 ところが共産主義よりイスラム革命のほうが強くなりすぎて、危なくなってきた。そこでスターリンは1920年代から30年代にかけて、そこに境界線を引き始めた。
 〈例〉今のカザフ人は当時キルギス人と言っていた。現在のキルギス人は当時カラキルギス人(黒いキルギス人)と言っていた。キルギス人とカラキルギス人だから親戚みたいなものだ。それにキルギス語とカザフ語は、Sの発音がちょっと違うぐらいのものだった。それなのに、「おまえらSの発音が違うから別民族だ」といって、そこに五つの新しい境界線を引いた。タジキスタン、ウズベキスタン、キルギスタン、カザフスタン、トルクメニスタンだ。これが民族境界線画定だ。
 もともと似たような人たちだったのに、上から民族というものをつくって、互いにいがみ合うようにした。その負の遺産が今でも残っている。サマルカンドはもともとタジク人の町で、みなペルシャ語をしゃべっていた。1910年代の終わりぐらいの統計では、8割がタジク人。しかし、30年代になると、8割がウズベク人になってしまった。
 ちなみに、今のウズベキスタン大統領のイスラム・カリモフはタジク系だ。大統領になったときはウズベク語をしゃべれなかったから、家庭教師についてウズベク語を勉強した。タジク語はペルシャ語に近いが、ウズベク語はトルコ語に近いから。そいういうふうに民族意識が変容していくわけだ。

 (4)スターリンは、マルクス主義から新しく創造的に発展したのがマルクス・レーニン主義だと言いながら、実際は別の思想を取り入れた。それがユーラシア主義という地政学思想だ。
 ユーラシア主義の原型は、どういうものか。
 1910年代の終わりから20年代にかけて、ロシア革命を嫌ってチェコ、ブルガリア、米国などに逃げていったユーラシア主義者がいる。このユーラシア主義者たちは、アジアとヨーロッパの双方にまたがるロシアには独特の法則があると信じている。しかし、このユーラシア空間のロシアというのは、ロシア正教の国ではない。ロシア正教徒もいるが、スラブ人、チュルク系、トルコ系、ペルシャ系のイスラム教徒もいるし、モンゴル系の仏教ともいる。日本の神道に近いようなシャーマニズムを信じているアルタイ人もいる。他にもアニミズムを信じているような人たちもいて、多種多様な人たちがモザイク状に入り混じって住んでいる場所だった。だから、そこには民族とか宗教などでは分けられない独自のタペストリー(織物)のようになっている、という考え方だ。
 ユーラシア主義者はマルクス主義は嫌いで、反共主義なのだが、ソビエトは支持する。ソビエトはユーラシア空間の中に事実として存在し、イスラム教徒を取り入れていた。それは宗教を分節化の基準としない、地政学の原理でできているからだ。だから、亡命者のほとんどがソ連に反対しているにもかかわらず、ユーラシア主義者はソ連を断固支持した。一部のユーラシア主義者は、1930年代にソ連に帰国し、だいたい銃殺されてしまった。

 (5)スターリンは、このユーラシア主義のドクトリン(教義)を密輸入して、それにマルクス・レーニン主義という衣をかぶせた形で、一種の「ソ連大国主義」をつくっていくが、それはロシア・ナショナリズムではない。
 なぜなら、スターリン自身がグルジア系で、ロシア人の血はたぶん殆ど入っていないからだ。オセチア系のグルジア人で、ロシア語もたどたどしい。スターリンのロシア語の文章はすごく読みやすい。なぜなら外国人が書いた文章だから。もしロシア・ナショナリズムがソ連の国家原理だったら、スターリンのような人がソ連の指導者となって、ロシア人を含む多くの人々に大弾圧を加えることはできなかった。だから、ソ連がナショナリズムだというのは間違った考えだ。ソ連はスターリニズムだ。しかし、このスターリニズムは普通の帝国主義とも違う。地政学に基づく帝国主義の特徴はここにある。
 帝国主義というのは、通常、宗主国と植民地から成る。中央アジア、コーカサスは決して普通の意味の植民地ではない。そこから登用されて、権力の中枢に行く人はたくさんいるわけだから。
 ということは植民地なき宗主国だ。あるいは、宗主国なき帝国、植民地なき帝国だ。
 しかし、中心はある。それはマルクス・レーニン主義(科学的共産主義)というイデオロギーによって結びついたとされるソ連共産党中央委員会だ。その中央委員会、イデオロギーに権力の中心があった。

□佐藤優「第一講 地政学とは何か」(『現代の地政学』、晶文社、2016)pp.65-70
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【参考】
【佐藤優】トルキスタンの分割、変容する民族意識、ユーラシア主義の地政学
【佐藤優】地政学から見る第二次世界大戦前夜
【佐藤優】地政学とファシズムと難民
【佐藤優】最悪情勢分析 ~NPT体制の崩壊~

【佐藤優】地政学から見る第二次世界大戦前夜

2016年12月08日 | ●佐藤優
 (1)日本は軍縮会議(ワシントン平和会議)で米国に騙された。米国が、日英同盟を発展的に解消して地域の集団的安全保障をやろうと言って、それで全然関係のないフランスを形だけ持ってきて、4ヵ国で条約をつくるろうと持ちかけた。フランスは太平洋での海洋権益はないのに。この4ヵ国で互いに安全保障をすれば大丈夫だといって日英同盟を解消させた。それで米英が接近していった。となると日本は海洋国家であるにもかかわらず、同じ海洋国家である米国とイギリスの両方を敵に回すという選択を採った。それによって、あの無謀な戦争に飛び込んでいったわけだ。

 (2)改めて戦争の整理をすると、日本の陸軍は地政学をちゃんと勉強していたから米国と戦を構える気はなかった。それに日本の陸軍の中で強いのは、常に英米可分論。ちなみに真珠湾奇襲よりも、イギリス領マーレ半島上陸のほうが数時間早かった。真珠湾の6時間ぐらい前にマレー半島に上陸している。つまりあの戦争は本質においてはイギリスとの戦争だ。それはイギリスが海洋覇権ではなくて、東南アジアの資源を握っていて、そこに日本は関心があったのだ。
 だから、裏返すと、イギリスがアジアから手を引いて、それで折り合いがつくならあの戦争は避けることができた。だから基本的にはあの戦争を日本のほうから見ると、日英戦争だ。陸軍のほうは日英戦争ですあら二次的に考えていたぐらいで、日米戦争なんて全然考えていなかった。陸軍が第一義的に考えていたのは日ソ戦だ。日本が大陸国家として進出すべきと考えていたから。

 (3)しかし、陸軍はある時期から極めて慎重になった。張鼓峰事件(1938年)と翌年のノモンハン事件(1939年)からだ。ちなみに、日本では「事件」という扱いだが、今、国際的にはノモンハン(ハルヒンゴル)事件の研究が進んでいて、ノモンハン「戦争」という言い方のほうが主流になっている。
 第二次世界大戦でドイツ軍を破ったときのソ連の軍事最高司令官はゲオルギー・ジューコフだが、ジューコフはノモンハン事件のときのソ連軍の司令官でもあった。彼は回想録の中で、これまで最も苦しい戦いはどこだったかというと、ハルヒンゴル事件だったと言っている。「ハルヒンゴルでの日本との戦いは、今までの戦いの中では最も苦しかった」と。
 それは日本にとっても同じだ。日本が地政学的に海洋国家の方針を採って大陸に出ていかなければ満州国なんかつくらなかったし、朝鮮半島も植民地支配しなかった。朝鮮半島は支配ではなく保護国みたいな形で、少なくとも神社参拝を強要して、そこでアトム的な価値観を押しつけるようなことはしなかったはずだ。

 (4)朝鮮半島はもともと檀君信仰がある。今、北朝鮮は檀君信仰をそのまま金日成神話に転換している。ピョンヤンの郊外に、檀君の夫妻の骨が見つかったといって、それを祀ってあるピラミッドがある。もし日本がアマテラスではなく、檀君を祖神とする形での宗教をつくらせていたら、朝鮮半島に土着化できた可能性はある。しかし大東亜共栄圏の内部というのはモナドロジー的な発想を持たない、すごくアトム的で均質な、ベタな発想だったわけだ。それでものすごい軋轢が出てきてしまった

 (5)軍事的に見れば、日本で近代戦をやったのは1905年の日露戦争が最後だ。ちなみに、日露戦争では、大量のコンクリートを使って、トーチカ(要塞)をつくって、そこに機関銃を据えて戦った。トーチカとはロシア語で「点」という意味だ。
 機関銃から派生してできた、われわれが日常的に使っている文房具がある。ヒントはマックス。マックスは機関銃メーカーの名前だ。答えはホチキス。ホチキスのあの玉送りは、機関銃の弾送りの仕組みを使っている。弾をそのままホチキスの針に代えただけ。あの順番で弾を送っていくという技術を民間に転用するとホチキスになる。
 そういうわけで日露戦争は大量の機関銃を使って物量戦をやったという、第一次世界大戦の先駆けとしての意味がある。でもその後の第一次世界大戦は、日本にとっては日英同盟を口実に、後から入ってきたという話だ。

□佐藤優「第一講 地政学とは何か」(『現代の地政学』、晶文社、2016)pp.59-61
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【参考】
【佐藤優】トルキスタンの分割、変容する民族意識、ユーラシア主義の地政学
【佐藤優】地政学から見る第二次世界大戦前夜
【佐藤優】地政学とファシズムと難民
【佐藤優】最悪情勢分析 ~NPT体制の崩壊~

【佐藤優】地政学とファシズムと難民

2016年12月08日 | ●佐藤優
 (1)地政学との関係において、すごく重要なのがファシズムだ。地政学とファシズムは重なる部分もあれば、重ならない部分もある。
 ファシズムは、「ナチズムの仲間」くらいで片付けられるものではない。ナチズムは確かに広義のファシズムの一部ではあるが、あの「血と土地の神話」のようなものを信じて、そこからユダヤ人絶滅政策が出てきて、それで全世界を敵に回して戦うなどという異常な思想が出てくるのは、これはドイツの極めて特殊な事情に基づく。ナチズムに普遍性はない。ドイツの病理現象にすぎない。
 ちなみに、今ネオナチが活発に活動している。ドイツでネオナチに関する報道は多い。外国人排斥に関する報道も多い。その二つに関する報道は、ドイツがシリア難民受け入れを決めてから増えている印象がある。

 (2)今、ヨーロッパは競争している。うちの国は怖いんだぞ、居心地が悪いぞ、来ないほうがいいよ、とアピールする競争。今、世界中で難民の問題を心配しなくていい国はどこか。
 日本は、すぐ難民が来る可能性がある。難民の問題も地政学と関係してくるから、地政学的なことを無視した外交政策のツケが来たということなのだが。
 安倍首相が2015年1月17日にエジプトで表明した中東に対する支援金25億ドルは、何のためのお金か。人道難民支援だろう。難民はなぜ発生するのか。米国が「イスラム国」を空爆し、空爆されて殺されてはかなわないし、「イスラム国」の圧政やアサド政権の支配下にいたくないから国を出る。その出てきた人の難民キャンプをつくって、そこに住まわせる。それで「イスラム国」の仲をガタガタにしていくというのが西側の戦略だった。日本はその意味において、難民部門を担当すると表明していたわけだ。ところが、彼らはその枠を超えてヨーロッパに出てきてしまった。ヨーロッパはもう難民を受け入れたくないのだ。
 ヨーロッパの中でもアルバニアなどは地理的にシリアから近い。イスラム教徒も多い。だが、難民はそこへ行かない。国家が破綻していて危険だからだ。だからアルバニアは難民が来るのを心配しなくていい。
 ほかにも難民が来るのを心配しなくていい国がある。アジアでは北朝鮮だ。北朝鮮は人権関係の国際条約に署名して、批准している。憲法で難民を受け入れる権利をちゃんと保証しているし、迫害されている人は受け入れなければいけないという規定もある。その意味では人権優等国だ。ただ、彼らは国際法と国内法はまったく別ものという二元主義に立っているから、国際法で何を約束しても実際は無関係なのだ。

 (3)では、日本はどうか。日本は970億円出した。それは難民支援でヨーロッパへいく。すると、ヨーロッパの情報機関はきっと、NPOの連中をそそのかして、LCCチケットを難民に渡す。成田経由で中南米のどこかに行くチケットを。最終目的地がよその国の航空券を持っていれば、乗り継ぎの空港に降りるのに査証も何もいらない。それでチケットを難民に渡して、因果を含めるのだ。「成田空港の国際線エリアに滞留しろ」と。あそこは飛行機の乗り継ぎの関係で2,000人ぐらいなら受け入れられるようになっている。シャワーもあるし、食事もある。だからトム・ハンクス主演の映画「ターミナル」みたいに、何ヶ月もその中で暮らせる。映画ではトム・ハンクス一人が空港で生活するわけだが、そういう人が300人から500人ぐらいたとして、CNNとBBCで毎日それを映し出す。
 「現在、成田空港の国際線ロビーにシリア難民が300人いて、日本への入国を求めています。ちなみに日本は国際社会の中で難民に対する協力を表明しています。日本は数千人の割り当てがあるにもかかわらず、それを受け入れていません」
 こんな報道をされたら、日本政府はこういう国際圧力に耐えられない。それで結局難民は入ってくることになる。こういう感じだ。
 だから難民法を整えて、何が難民か、難民じゃないかということをきちんと仕分けしないといけないのだが、この政府はそういったことには全然対応していない。
 それから難民の中には一定数のテロリストも紛れ込んで入ってくる。そういうリスクもある。こういうことも地政学のことがわかっていないと、ピンとこない。

□佐藤優「第一講 地政学とは何か」(『現代の地政学』、晶文社、2016)pp.46-50
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【参考】
【佐藤優】トルキスタンの分割、変容する民族意識、ユーラシア主義の地政学
【佐藤優】地政学から見る第二次世界大戦前夜
【佐藤優】地政学とファシズムと難民
【佐藤優】最悪情勢分析 ~NPT体制の崩壊~

【佐藤優】最悪情勢分析 ~NPT体制の崩壊~

2016年12月08日 | ●佐藤優
 

 (1)副島隆彦は米国のインテリジェンスに強いシンクタンクとすごくいい関係を持っている。シンクタンクでは、最悪情勢分析をやる。これはロシアでもイスラエルのインテリジェンス機関でもそうだ。荒唐無稽な話ではなく、現実的に、今、最悪の事態としてどういうことが想定し得るかを徹底的に予見する。
 〈例〉イランのロウハニ政権が国際原子力機関(IAEA)との合意を無視して、核開発に走るとする。米国はそれを阻止できないので、イランは10ヵ月後に広島型原爆を持ってしまい、その小型化作業に入るかもしれない。
 これはあり得るシナリオだ。

 (2)(1)-〈例〉の場合、その状況をサウジアラビアが見て、サウジアラビア=パキスタン秘密協定を発動させ、パキスタン領内にある核弾頭のいくつかをサウジアラビアの領内に移すとする。
 サウジアラビアの領域に核弾頭が移ったことによって、核不拡散(NPT)体制が崩壊する。
 その結果、アラブ首長国連邦、カタール、クウェート、オマーンが核兵器をパキスタンから購入する。エジプトは自力で核を開発する。ヨルダンも自力で核を開発するようになるかもしれない。
 核を購入する国と核を開発する国に分けたが、基礎的な学術水準の違いがあるので、核をつくれる国とつくれない国があるからだ。

 (3)そうやって、核拡散が起きる。そこでNPT体制が崩壊する。
 NPT体制が崩壊すると、ブラジルやアルゼンチンも核を持つようになる。
 その影響は極東に現れてきて、北朝鮮のみならず、韓国と台湾が核兵器を持つようになるかもしれない。

 (4)そうなったとき、どうなるか。それでも恐らく日本は核兵器を持てない。なぜなら米国の核の傘の下にあるから、その傘を外すことに対しては、米国も周辺国も反対するはずだからだ。
 何でそういうことになるかというと、日本は第二次世界大戦で全世界を敵に回して戦った実績があるからだ。そういう国は核を持てないのだ。だから日本とドイツは最後まで核を持てない。
 それで他の国が核を持つような時代になると、竹島問題にしても、慰安婦問題にしても、第二次世界大戦中の徴用工問題にしても、核を持った韓国と日本は外交で交渉していかないといけないなら、これは相当押し込まれるようになる。
 こういうのが最悪情勢分析だ。

□佐藤優「第一講 地政学とは何か」(『現代の地政学』、晶文社、2016)pp.28-29
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【参考】
【佐藤優】トルキスタンの分割、変容する民族意識、ユーラシア主義の地政学
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【幕内秀夫】太りすぎた子どもたち ~「お菓子」が主食~

2016年12月08日 | 医療・保健・福祉・介護
 (1)保育園や幼稚園の子どもに、これまでとは違うタイプの肥満児がいる。
 子どもの体型にも生まれつき個性がある。これまでにもぽっちゃりしたお子さんはいたはずだ。しかし、これまでとは違う肥満の子どもが登場している。
 肥満大国、米国やメキシコ、オーストラリアの肥満児のような体型の子どもが登場してきたのだ。

 (2)原因は何か?
 真っ先に考えられるのは運動不足と甘いお菓子や清涼飲料水だ。
 それらの影響も無視できないが、しょせんは「間食」の問題だ。これまでも、「間食」に甘いお菓子やジュースを摂っていた子どもはたくさんいただろう。しかし、一目でわかるほどの肥満児は多くはなかった。
 これまでと明らかに違うのは、「主食」さえもお菓子になったことだ。具体的に言えば、パンを常食するようになったことにある。
 もともと、欧米人たちが食べてきたパンに「砂糖」は入っていなかった。原材料は「小麦(ライ麦)・食塩・イースト(酵母)」。せいぜいこんなものだ。
 30年以上前、中国の最奥地、新疆ウイグル自治区では、イーストも使わないパン無発酵のパン、ナンが食べられていた。もちろん、砂糖は使われていない。焼いてから数日経ったものはカチカチだ。そのままでは食べにくいので、スープなどに浸して食べた。
 今でも欧米にはそのようなパンを焼く小さな店が残っている地域もある。
 しかし、今や世界の多くの国では大規模工場で大量生産され、長距離輸送されたパンが主流だ。長期保存のための食品添加物、また、品質を低下させないためになくてはならないのが、「砂糖」だ。
 わかりやすい例は、しっとり感が命のカステラだ。食べるとジャリジャリと砂糖の粒をかんでいることがわかることさえある。

 (3)砂糖が入ってないパンは少し置くだけで硬くなり、包丁で切るとぼろぼろになり、さらには食味が落ちる。
 現在の日本ではよほどのこだわりの店に行かなければ、砂糖の入っていないパンは販売されていない。
 もはや「食パン」も菓子パンになった。しかも、柔らかさやしっとり感を売り物にする食パンが増えているので、含まれる砂糖の量はどんどん増えているのだ。

 (4)そのパンの生地から、菓子パン、ハンバーガー、ホットドッグ、ピザ、ドーナツなど、無数の食品が製造されている。それらを常食するようになり、その間に、お菓子や清涼飲料を摂るようになった。
 朝から晩までお菓子を食事にする子どもが登場するようになったのだ。
 それらの影響がどれほど大きいかは、すでに欧米の肥満大国が教えてくれる。

□幕内秀夫(フーズ&ヘルス研究所代表/学校給食と子どもの健康を考える会代表)「 ~口は災いのもと 2」(「週刊金曜日」2016年10月14日号)
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 【参考】
【食】味噌汁をめぐる妻vs.夫 ~「塩味」が伝える大切なメッセージ~
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