語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐々木実】異次元緩和の本質は「確信犯的な無責任」 ~日銀の失敗~

2016年12月30日 | 批評・思想
 (1)2016年にはっきりしたのは、「異次元緩和」の失敗だ。日本銀行は2013年4月、2%という物価目標を2年で実現させてデフレを解消すると大見得を切った。2015年結果が出たわけだが、「インフレターゲット理論」を唱えたリフレ派の人たちは往生際が悪く、なかなか負けを認めなかった。ピリオドを打ったのは、リフレ派の大御所でアベノミクスの理論的支柱と言われる浜田宏一氏だ。
 <私がかつて「デフレは(通貨供給量の少なさに起因する)マネタリーな現象だ」と主張していたのは事実で、学者として以前言っていたことと考えが変わったことは認めなければならない>
 2016年11月15日付け日本経済新聞のインタビューで、浜田氏はようやく白旗をあげた。

 (2)異次元緩和は、安倍晋三・首相が自民党総裁選、政権奪取した総選挙を勝ち抜く際に掲げた持論で、日銀総裁以下、日銀幹部がリフレ派に強引にすげかえられた経緯から言っても、「安倍首相なくして、異次元緩和なし」だ。
 異次元緩和の手法は、日銀が大量に国債を買い続けることだ(目標は年間60兆円から70兆円、のちに80兆円に拡大)。リフレ派はマネタリー・ベースを激増させれば「インフレ期待」を醸成できると主張したが、「期待に働きかける」政策を早くから推奨したのは米国の経済学者ポール・クルーグマン氏だった。

 (3)クルーグマン氏は、1998年の論文で、高齢化が進む日本では将来の不安から、超低金利でも需要が喚起されず、超過供給に陥っていると診断した。インフレが進めば貨幣価値は目減りするので、将来のインフレを人々が確信すれば、需要が出てくるはずだ。
 クルーグマンは、「中央銀行が無責任な行動をとればいい」という奇抜な理論を唱えた。「物価の番人」である日銀がインフレを抑え込むと人々が信じるかぎり、インフレ期待は盛り上がらない。デフレ解消の鍵は「無責任な日銀」をみんなに確信させることだ、というのであった。
 この珍説を真面目に実行したのが黒田東彦・総裁率いる日銀だ。「無責任な日銀」に豹変することで、「インフレ期待」に火をつけようとした。ちなみに、黒田日銀の理論的な支えとなっていたクルーグマン氏は、2015年秋、期待に働きかける政策は無効だったことを認めて、珍説をあっさり引っ込めた。浜田氏より1年も早く白旗をあげていたわけだ。

 (4)日銀は結果を出せず、理論的支柱にも逃げられた。
 が、あまりにも大がかりな試みなので、急ブレーキを踏むわけにもいかず、なし崩し的に異次元緩和を続けている。物価目標の実現に失敗した黒田総裁らは、日銀の信用を失墜させることには成功した。国債買い占めはさまざまな方面にリスクを発生させ、日銀は経済不安の火種とさえ見なされるようになっている。
 狐につつまれたような話だが、異次元緩和の本質は「確信犯的な無責任」にあった。とにかく力強く断言して果敢に実行すれば、人々の心理は操作できる・・・・鳴り物入りで始まった看板政策は、安倍政権の政治思想を正確に映し出してきたのだ。

□佐々木実「失敗した異次元緩和の教訓/「確信犯的な無責任」の起源」(「週刊金曜日」2016年12月23日号)
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 【参考】
【佐々木実】日銀を蚕食する“反知性主義” ~“異次元緩和”の落日~
【佐々木実】100年目に問う「絶版」の意味 ~河上肇『貧乏物語』~
【米国】大統領選の主役は「アウトサイダー」 ~トランプ=サンダース現象が生んだ亀裂~
【政治】新自由主義に鼓舞される復古主義 ~自民党改憲案の「第22条問題」~
【佐々木実】異次元緩和の戦線拡大で高まるリスク ~マイナス金利~
【言論】マッカーシズムの教訓 ~政治権力と言論~
【経済】国家戦略特区で起きた肝移植問題 ~神戸~
【東芝】「不正会計」の主役は安倍ブレーン ~産業競争力会議の犯罪者~
【企業】大赤字・無配でも社長は高額報酬 ~ソニー「経営改革」の蹉跌~
【ピケティ】現象を生んだ思想の空白 ~「格差」と経済学のゆくえ~
【安保】進む武器輸出 急接近する“戦争”と“ビジネス”
【経済】子どもに貧困を押しつける日本 ~再分配機能の不全~
【経済】宇沢弘文の「自己を見返す力」 ~知識人とは何か~
【経済】日本銀行総裁の資質 ~“平成の鬼平”と“パペット”~
【経済】宇沢弘文が残したもの ~社会的共通資本の思想~

【加賀野有理】三つが乱れる正月病 ~食生活・生活リズム・睡眠リズム~

2016年12月30日 | 医療・保健・福祉・介護
 女性の健康をサポートする「ウーマンウェルネス研究会」は首都圏在住の20~50代の男女895人を対象に、「年末年始の過ごし方と体調」に関するインターネット調査を行った。
 結果は、1年で最も体調の変化を感じるのが年末年始の休み明けで、「だるい」と回答したのは619人中約7割。「疲れる」(約6割)、「体が重い」(同)、「やる気がしない」(約5割)、「眠気が取れない」(同)などの回答が寄せられた。
 調査結果を分析・監修した医学博士・健康アドバイザーの福田千晶氏は、一連の体調変化を「正月病」ととらえ、その原因を食生活、生活リズム、睡眠リズムの乱れとしている。しかも、それは短期間のうちに重なって起こる。またこの時期は室内外の寒暖差が大きく、体力も消耗しやすい。これらがあいまって、体調の変化につながりやすいという。お正月は食卓にご馳走が常にある状態からダラダラと食してしまう。それを止め、就寝・起床時間を普段通りに修正することが大事だ。
 お正月病対策として、今から三つの乱れ対策を肝に銘じておこう。

□加賀野有理(サイエンスライター)「正月病に注意 ~歳々元気~」(「日本海新聞」 2016年12月29日)
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 【参考】
【加賀野有理】カキの長所と短所
【加賀野有理】クリスマスは2週間 ~その秘密~
【加賀野有理】地図を見る ~方向オンチを治す法~
【加賀野有理】アパートの屋上で暮らすファッションモデル ~ミニマリスト~
【加賀野有理】脳の栄養 ~EPAとDHA~
【加賀野有理】今年の冬の天気、ラニーニャ現象
インフルエンザワクチン
【加賀野有理】大掃除の道具
【加賀野有理】サザンカとツバキ