語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【ミステリーの雑学】北極海の氷が解けて日本の漁業が終わる

2016年12月11日 | ミステリー・SF
 <「いえ、地球温暖化に関しては笑い話では済まなくなってきているのです」
 伊東が興味深そうに頷く。
「近い将来、大変なことになりますか」
「実は、北極海が危ないのです。昨年の夏、北極上空をノルウェーの政府関係者と一緒に調査飛行したのですが、何と、氷の半分近くが解けて海面がポツポツとため池のように現れているのです」
「北極海の氷が解けるって、しかし冬は凍るのでしょう」
「冬は確かに凍ります。しかし、夏にあのような状況になったのはこの数年ということで、年々、夏の解けている部分の面積は広がっているというのです」
「解けてもまた凍ればいいような気がしますが、違いますか」
「北極が凍っていれば白い氷原となって、太陽の光を80パーセント以上反射してくれるのだそうです。しかし、そうでなければ海は太陽光によって熱を吸収し、より北極圏の氷が解けるのです。そうなれば地球上の海面水位は上昇し、地球上で沈んでしまう国家や地域が増えてしまうことになりそうなのです」
 黒田は地理的、科学的な情報にも常に関心を払っている。
「なるほど。一旦解けて広がった氷水は元には戻らないのですね。あと何年くらいで北極海の氷は解けてしまいそうなのですか」
「15年持つかどうか」
「わりと近い未来ですね」
 伊東は静かにため息をついた。
「シロクマは絶滅するでしょうし、世界の海流が大きく変わる可能性があります。特に北半球の寒流は一気に弱くなり、暖流が北海道辺りまで勢力を保って上ってくることになるでしょう」
「日本の漁業が終わってしまいますね」
「そういうことですよ」
 伊東の読みは的確だった。
「実は今でも東京湾の魚が釣れなくなったと、常連の釣り師、中島師匠が言っているんですよ。最初は中国や台湾の船が日本近海で大量に獲っているからだと言っていたんですが、どうやら南の方から来た獰猛な魚が、元からいる魚を食い尽くしているからかも、という話もありましてね」
 カウンターから敏ちゃんが話に加わった。
「その可能性は否定できませんね。それにクジラが増えすぎています。ノルウェーはいまだに商業捕鯨を続けていますが、クジラをもっと減らさないとイワシやニシンが激減してしまうと漁師が嘆いているそうです。日本は立場上、大きな声では言えないようですが、水産資源を守るためにも誰かが言い出さなければならない時が来ているようです」>

□濱嘉之『ゴーストマネー』(講談社文庫、2016)
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 【参考】
【ミステリーの雑学】中国式乾杯 ~白酒(パイチュウ)~
【ミステリーの雑学】外逃した汚職官僚の「キツネ狩り」 ~中国公安部~
【ミステリーの雑学】カードの個人情報漏洩 ~防止法は~
【ミステリーの雑学】EU崩壊の序章 ~フランスにおける次回のテロ~
【ミステリーの雑学】フランスの原発 ~テロのターゲット~
【ミステリーの雑学】紙幣が流通する期間は何年間か?


【ミステリーの雑学】中国式乾杯 ~白酒(パイチュウ)~

2016年12月11日 | ミステリー・SF
 <白酒(パイチュウ)は、中国の穀物を原料とする蒸留酒である。主原料から高梁酒(カオリャンチュウ)ともされている。白酒のアルコール度数は50度以上が当たり前だったが、近年はアルコール濃度を下げた38度の白酒が主流になっている。(中略)
 中国の公式晩餐会で乾杯の酒と呼ばれた、五穀すなわち高梁・トウモロコシ・粳米・糯米・小麦から作られた五粮液(ウーリャンイェー)が最高の白酒といわれていた時代があった。
 (中略)ややとろみを感じる透明の液体が乾杯用に使われる小さいグラス、小酒杯に注がれた。
 黒田はグラスを鼻先に持っていくと香りを味わった。
「いい香り」
 主人が笑顔で黒田の仕草を眺めている。
 黒田はグラスに静かに口をつけ、ほんの少し含んだ。数秒の間味わうと、そのままおもむろにグラスの中身を咽喉(のど)に流し込んだ。その後大きく息を吸って息を止め、ゆっくりと鼻から息を吐いた。
「美味しいなあ」
 そう言うと黒田は主人に向けて杯を逆さにして、飲み干したことを示した。
「お客様は本当にお好きなんですね。でも最近はその仕草をする人は少なくなりましたよ」
「ほお、乾杯の時もやらなくなりましたか」
「そのようです。中国の乾杯が酒の強要と思われるのを避けるためかもしれませんが、白酒が乾杯に使われないようになってきましたね」
 時の流れというものか。>

□濱嘉之『ゴーストマネー』(講談社文庫、2016)
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【ミステリーの雑学】外逃した汚職官僚の「キツネ狩り」 ~中国公安部~

2016年12月11日 | ミステリー・SF
 <「中国もクレジットカード社会になりつつありますからね」
「とくに若い世代はカードのキャッシングをよく使う」
「ですか」
 中国銀聯(ぎんれい)カードは世界一発行枚数が多いクレジットカードと言われている。発行枚数は45億枚を超えているらしい。このカードは銀行のキャッシュカードを兼ねたデビットカードで、中国国内の銀行に口座を作れば自動的に発行される。中国人にとっては、本来クレジットカードを持つことができない低信用の者でもこれを手にすることができる。
「銀聯カードは日本のATMから現金を引き出せるのですか」
「一部のATMだけだが可能だ。今回被害にあったフレンドマートのATMでは、限度額が原則20万円なんだ」
 銀聯カードの暗証番号は6桁だから、銀聯カードによるキャッシングの場合には、世界のほとんどのクレジットカードが4桁で動作が止まるのに、ATMが銀聯カードを認識すると6桁を打ち込むまでは画面が変わらない。
「ATMマシーンも銀聯カードの使用を意識した作りになっているわけですか」
 今や世界中の先進国が、中国マネーを呼び込もうとしているのかもしれない。
「世界中で銀聯カードで金が引き出されているということですか」
 黒田は頷いた。
「今後、中国国内でATM不正引出しの犯罪が起こる可能性もありそうですが」
(中略)
 中国には、中国人民銀行の他に中国農業銀行、中国建設銀行、中国銀行、中国工商銀行の四大銀行がある。そしてこの四大銀行で中国全体の資産の8割を集めている。
「一般国民からすれば、どうせ損をするのは国家でしかないというところだろう」
「国家イコール共産党幹部、という図式なのでしょう」
 憎しみが極限まで達したときに何が起きるのか。
「それにさらに火を付けたのがパナマ文書の影響だ。今回のパナマ文書が出てきて、習近平の名前が取りざたされたことが大きな問題になりつつある」
(中略)
「中国当局は国内の報道だけでなく、海外メディアの報道についても神経をとがらせている様子で、すぐにインターネットの閲覧をできなくしたようですが」
「中国国内ではね」
 ただ、最近の標準的な富裕層の多くは子弟を海外に留学させているから、ネット情報を国内でいくら消しても、知ることができる者は確実に増えていた。
「情報の逆輸入は容易になりましたから」
「それを共産党幹部は一番恐れていると言って過言ではないな。おまけに愛人にはアメリカで子供を産ませているわけだから、その連中もまた賄賂社会の裏側を知り尽くしている」
「アメリカに愛人を置いている幹部はいつでも本国脱出ができるように準備しているわけですね」
「アメリカ国籍を持った子供の父親として居住権を獲得できるからな。そのための金も徐々に持ち出して周到に準備を進めているんだ」
「もし、中国国内で暴動と言うか、反政府活動が起こるとすればいつ頃なのでしょうか」
「それは何とも言えない。中国政府だって指をくわえて待っているわけではない。兆(きざ)しを見つけた段階で徹底的に潰していくだろうし、脱出を企てている幹部連中はトップを目指しているわけじゃないから、適当な時期に金を押さえてしまえばいいだけだ」
「なるほど。不正蓄財による財産の没収ということですね」
「そのために多くの公安要員をキツネ狩りと称して海外に送っているんだ」
 キツネ狩りとは、海外に逃亡した汚職官僚を追跡する作戦のことで、2013年に開始され、既に400人を超える汚職官吏が拘束されている。
 中国人民銀行によると、1990年代半ばから国外に逃亡した官僚や国有企業の職員は1万6千人を超え、持ち出した金額は15兆2,000億円にもなるという。中国政府は、フランス、オーストラリア、カナダなどの主な逃亡先相手国に、回収資産の一部を与えることを条件に、横領資産の回収で協力を得ている。2015年1月、国家公安部は2014年後半の「キツネ狩り成果」として、全世界69の地点から、689人のキツネを逮捕したと発表した。その際、10年以上の外逃生活を続けていたものが117人いたことを明らかにしている。>

□濱嘉之『ゴーストマネー』(講談社文庫、2016)
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 【参考】
【ミステリーの雑学】カードの個人情報漏洩 ~防止法は~
【ミステリーの雑学】EU崩壊の序章 ~フランスにおける次回のテロ~
【ミステリーの雑学】フランスの原発 ~テロのターゲット~
【ミステリーの雑学】紙幣が流通する期間は何年間か?

【ミステリーの雑学】カードの個人情報漏洩 ~防止法は~

2016年12月11日 | ミステリー・SF
 <「クレジットカード会社のデータにどのようなプロテクトをかけることができるかだな」
「EMV仕様のカードと、磁気ストライプ式のカードはどう違うのでしょうか」
「栗原、もっと勉強しないとな」
 EMV仕様とは、一般的な外部端子付ICカードの物理的・機能的条件等を規定した国際規格金融分野向けに必要なICカードと端末の仕様を規定したものである。
「磁気ストライプ式カードは、いわゆる普通のIDカードのようなキャッシュカードですよね」
 磁気ストライプは読み取り機の磁気ヘッドに接触させ、スライドさせることで読み取ることができる。磁気ストライプカードはクレジットカードやIDカード、交通機関の切符などによく使われている。
「そうそう」
「SuicaとかPASMOはどちらになりますか」
「あれは非接触式のICカードだ」
 非接触式カードとは、カード内部にアンテナを持ち、外部の端末が発信する弱い電波を利用してデータを送受信するICカードのことである。
 接触式ICカードと違って読み取り端末に接触させなくても処理が可能なため、振動やほこりが多い環境での運用に適している。また、カードを抜き差しする手間がないため、高速な処理が必要な鉄道やバスの決済処理には非接触式カードが使われている。
「非接触? 自動改札などを通過するとき1秒以上タッチするように案内していますよね」
「あれは非接触式カードであることを、あえて利用者に知らせないためのアナウンスなんだ」
「知りませんでした」
「以前、バッグの底に非接触式カードを入れたまま、自動改札を通過できるから便利だなんて言われた時期があった・しかし、そのICカードデータが電車内でスキミングされる被害が増えて、結果的にバッグメーカーがその生産を中止した」
「犯罪者は狙ってきますね」
 スキミングとは、カード犯罪で多く使われる手口の一つで、主に磁気ストライプカードに書き込まれている情報を抜き出し、全く同じ情報を持つクローンカードを複製する犯罪である。そして、ICカードでも非接触の場合には、そのカードの磁気に記録されている各種データを、カード情報を読み取る機能を持ったスキマーと呼ばれるスキミングマシンによって盗み取ることができた。
「非接触式ICカードの怖さがそこにあるんだ。だから入金金額の上限は2万円に制限されている」
「私のPASMOはクレジットカード機能も付いているんですが」
 ポケットからカードを取り出した栗原は心配顔だ。
「非接触式カードと併用されているクレジットカードは、クレジットカード部分には通常のEMV仕様が付けられているんだよ」>

□濱嘉之『ゴーストマネー』(講談社文庫、2016)
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 【参考】
【ミステリーの雑学】EU崩壊の序章 ~フランスにおける次回のテロ~
【ミステリーの雑学】フランスの原発 ~テロのターゲット~
【ミステリーの雑学】紙幣が流通する期間は何年間か?

【ミステリーの雑学】EU崩壊の序章 ~フランスにおける次回のテロ~

2016年12月11日 | ミステリー・SF
 <「ところで、海外研修中のレポートを幾つか見せてもらったよ。唸らされるものが多かったけれど、イギリスのEU離脱の観測はなるほどと思ったよ」
 小山田は何度も頷いてみせた。
「自分の目と足で現地をつぶさに見て回れば自ずと出てくる帰結でした。経済と教育レベルが低い東欧諸国がこぞって加盟し、トルコまで加盟しようとしている現状を考えればわかります。EUの理念である政治平等と経済統合は発展途上国にとっては都合が良いでしょうが、限られた先進国にとっては、まさに主権の喪失にほかなりません」
「主権の喪失ね。なかなかうまい表現だ」
「EUからはギリシャ、スペイン、イタリアが脱退する可能性が高いですが、意外とフランスもあり得るかもしれません」
「へえ、フランスかい」
 小山田が素っ頓狂な声をだした。
「フランス国内でこれ以上難民によるテロが発生した場合、必ずEU脱退の声が自然発生的に湧き上がってくると思います。この時がEU崩壊の序章となると思います」

□濱嘉之『ゴーストマネー』(講談社文庫、2016)
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