語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【ミステリーの雑学】フランスの原発 ~テロのターゲット~

2016年12月10日 | ミステリー・SF
 <「確かにフランスはドイツとイギリスの間にある国で、しかも農業国という点でアフリカのイスラム原理主義者の間ではターゲットになっているのだろう」
「食物を輸出できる国はヨーロッパではフランスだけだ」
「フランスのどこをターゲットにすると思う?」
「ターゲットとしては原発かフランス空軍か」
「ISILに最も多く参加している国がチェニジアと伝えられている。そしてフランスからの電力輸入なくしてドイツの工業は成り立たないんだ。ジュンはフランスという国をどう思っている?」
 クロアッハの質問に黒田が大きく溜息をつく。
「フランス革命によって自由を手に入れた国ではあるが、それ以前の王制当時の遺産で生きている国という感じかな」
 黒田の目にはフランスは大きな魅力のある国とは映っていなかった。
「なかなか鋭い見方だな。観光立国を謳っておいて未だ人種差別も根深い」
(中略)
「西側諸国が最も気を付けなければならないのは、ISILにフランスの原発をターゲットにさせないことだ。彼らは必ずそこを狙ってくる。それもドイツに一番近い原発を」
 悪夢のような話である。クロアッハは続けて言った。
「一番危ないのはカットノン原子力発電所。フランス第一の規模であるグラヴリーヌ原子力発電所に続く、フランス第二の原子力発電所だ」
「それがドイツ国境近くにあるのか」
「フランス北東部のモゼル県にある。施設はモゼル川の西あり、ドイツのペルルからわずか10キロの位置だ」
(中略)
「フランスは世界一原子力発電の割合が高い国で、全発電量の77パーセントを原発に頼っている」
「ウランスはウランの供給源を政情の安定したカナダやオーストラリアに頼っている。ウランは一度輸入すれば数年間使うことができるからな。原子力を準国産エネルギーと位置づけている」
「もともとフランスは優秀な核科学者を多数輩出していたな」
「そうだね。19世紀に初めて放射線を発見したアンリ・ベクレルをはじめ、放射性元素や放射線の研究で知られるキューリー夫妻などだ。戦前からフランスの原子力研究は、原子炉設計のみならず、半導体製造や医療応用など基礎研究から応用研究まで早い時期から原子力エネルギーの運用に貢献していたんだ」
「だから誰も文句を言えない。悪魔のエネルギーでありながら永遠のエネルギーでもあるからな」
「もし、カットノン原子力発電所か、フェッセンアイム原子力発電所で事故やテロが発生すれば、世界の経済は根底から揺らぐことになる」
 これはヨーロッパだけの危機ではなく、まさに世界経済に大打撃を与える悪夢なのだろう。黒田は思わず眉をひそめて聞いた。
「フェッセンアイム原子力発電所というのは」
「フランスのオー=ラン県フェッセンアイムにある原子力発電所だ。施設はアルザス大運河の西岸にあり、南へ40キロ行けばスイスのバーゼルがある」
「バーゼルはスイス唯一の“貿易港”だな」
「そう、バーゼルはスイス第三の都市で、ドイツとフランスとスイスの三国の国境が接する地点だ。大型船舶が通航できるライン川最上流の港を持つ最終遡行地であることまではあまり知られていないがね」
 クロアッハが笑いながら答えた。
「そのバーゼルまで影響を及ぼすとなると確かにヨーロッパ経済を揺るがすことになるな。ISILだけでなく、イスラム原理主義の狂気がそこまで進まないことを願うだけだよ」
「『狂気は個人にあっては希有なことである。しかし、集団・党派・民族・時代にあっては通例である』だな」
「ほう、ニーチェか」
「イスラムの下層市民が爆発するのを事前に阻止することが先進国の使命になってくるな」>

□濱嘉之『ゴーストマネー』(講談社文庫、2016)
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 【参考】
【ミステリーの雑学】紙幣が流通する期間は何年間か?

【ミステリーの雑学】紙幣が流通する期間は何年間か?

2016年12月10日 | ミステリー・SF
 <銀行をはじめとする各金融機関は、利用者から預かった紙幣のうち当面使用しないものを、日々日本銀行本支店に持ち込んでいる。日本銀行当座預金に預け入れるためだ。こうして銀行券が日銀に戻ってくることを、環収という。>

 <1万円札の寿命は、およそ4年から5年程度だという。銀行券が再流通に耐えられるか否かの判断は自動鑑査機が行う。廃棄となる銀行券は、自動鑑査機に組み込まれたシュレッダーにかけられ、1.5ミリ×11ミリの大きさにまで細かくされ、処分されるという。>

 <「そうだ、普段は100枚単位で裁断されるらしいが、(後略)」>

 <かつては回収した紙幣を溶解設備で溶かし、段ボールやティッシュペーパーの材料の一部などに再利用していた。古びた紙幣の最終処理はすべて本店で行っていたらしい」>

 <いや、現在では7割程度、住宅用の建材や固形燃料などにリサイクルされているんだよ。それ以外の裁断屑は、一般廃棄物として各地方自治体の焼却施設において焼却処分されている」>

 <「1万円紙幣1枚は約1グラムとして、(1,500億円の重量は)15トンだな。(後略)」>

 <「日本の紙幣には靱皮(じんぴ)繊維のミツマタや、天然繊維の中で最も強く弾力のあるマニラ麻の葉脈繊維など、特殊な原料が使われている。そのため特に普通紙にリサイクルするのは、なかなか難しいと聞いたことがあります。また、紙幣の塊を焼却するのは意外と大変だそうです。普通紙より紙幣は水分量が多いからと言われています」>

 <「(前略)世界の紙幣の中で物理的に最も強度があるのはアメリカドル紙幣。次が日本紙幣だということです」>

 <「シークレットサービスですが、設立時の本来の任務は、偽造通貨の取締り、様々な不正経理犯罪、個人情報窃盗の捜査、地域犯罪における科学捜査情報の提供だったのです。(後略)」>

 <寿命が過ぎたお札は、年間およそ3,000トンあると言われていますから、数にして30億枚が廃棄されていることになります。これがすべて1万円札とすれば、1年で30兆円相当の紙幣が棄てられているのですか・・・・」>

□濱嘉之『ゴーストマネー』(講談社文庫、2016)
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【保健】身近な食品で今日から健康に(2) ~落花生~

2016年12月10日 | 医療・保健・福祉・介護
 (1)2013年1月、スペインの王立研究所が、約3,500人を対象に実施した追跡研究の結果を発表した。

 (2)この研究では、まず①エクストラバージンオリーブオイルを多く含んだ食事を摂ったグループの糖尿病発症リスクが抑制されたことに注目が集まった。さらに②約30グラムのナッツを加えた地中海食のグループも糖尿病発症リスクが約18%低下した。
 研究の発端は、長寿で知られるクレタ島だ。クレタ島民の心疾患リスクが極めて低いことに注目が集まり、研究が開始された。当初の研究では、オリーブオイルなどを多く含む地中海食は心血管系疾病リスクを約30%低下させることが報告された。それを受けて糖尿病に関してもサブ解析を行った結果、糖尿病にも効果があることがわかった。

 (3)「実践法」・・・・ナッツならどの種類でも構わないとされるので、落花生などが手軽。1日の消費量は実験結果と同じく30グラム程度が目安となる。
 落花生は1粒およそ1グラム。1日30粒ほど食べれば糖尿病の予防に繋がるわけだ。
 落花生は、予防だけでなく、すでに治療現場でも活用されている。糖尿病治療のため糖質制限食を実践している患者に落花生をおやつ代わりに食べることをすすめてている。腹持ちがよい上に糖質が少ないから、血糖値の上昇を最小限に抑えられる。

 (4)落花生は糖尿病の合併症予防にも効果があるという。
 落花生はオレイン酸という良質な脂肪を多く含んでいる。糖尿病の三大合併症とされるのは、腎障害、網膜症、神経障害だ。これらは血糖値を抑えればコントロールできる。問題はこれ以外の動脈硬化に由来する大血管合併症だ。これは血糖値を抑えるだけでは防げないが、オレイン酸は動脈硬化予防に効果的だ。

 (5)血糖値を低下させるインスリン合成に重要な役割を持つのが亜鉛だ。
 亜鉛はインスリン合成に不可欠だ。ところが糖尿病患者は、尿酸中の亜鉛の排泄量が増加するため、亜鉛が欠乏する傾向にある。そのため亜鉛を補給することが必要になる。牡蠣に多く含まれるほか、イカやカニなどの魚介類、牛肉などにも多く含まれている。

 (6)合成されたインスリンを正常に働かせるためにミカンが重要だという研究結果もある。三ヶ日ミカンの産地として知られる浜松市の三ヶ日町を舞台に研究を行っているのが、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構果樹茶業研究部門だ。
 2003年から三ヶ日町で約千人の住民を対象にした疫学調査を行っている。2006年には、温州ミカンをだいたい1日3、4個食べている人は1日1個以下の人に比べて、インスリン抵抗性リスクが半分程度という論文を発表した。現在、さらなる追跡調査で検証している。
 インスリン抵抗性とは、インスリンの効きが悪くなっている状態を指す。抵抗性が高くなれば、血糖値が下がりにくくなる。
 温州ミカンに特徴的に含まれるβ-クリプトキサンチンがポイントだ。ミカンをたくさん食べると肌を黄色くさえる物質で、インスリン抵抗性リスクを下げる効果を持つことが動物実験からもわかっている。
 三ヶ日町を含む浜松市は、健康寿命が全国で1位となったことでも知られる。

 (7)ただ、ミカンには注意すべき点もあるという。
 ミカンは予防効果があるかもしれないが、糖質が多く含まれているため要注意だ。既に糖尿病の人や予備軍は控えたほうがよいかもしれない。

□守屋浩司・編『人生を変える! 食の新常識/カラダにいい食事 決定版』(文春ムック、2016)の「身近な食品で今日から健康に!」(初出「週刊文春」2015年5月28日号)
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 【参考】
【保健】身近な食品で今日から健康に(1) ~チョコレート~
【保健】意外や意外、卵で糖尿病は予防できる