①雨宮処凜『一億総貧困時代』(集英社インターナショナル 1,400円)
②小峯隆生『最強のプレゼン5分聞き手の心を動かす技術』(飛鳥新社 1,574円)
③和田友良『超一流の成功哲学』(秀作社出版 1,800円)
(1)①によれば、貧困が急速に日本社会に広がっている。大学、大学院の奨学金は次のような状況だ。
<問題なのは、学ぶために学生が多額の借金を負わざるを得ないという状況そのものなのであり、それを後押しするかのようなシステムなのである。正規雇用の道が狭まる中、いわゆる「普通の学生」がこれだけの借金を背負い、非正規の職にしかつけなかったら--。「自己破産」という言葉が自動的に浮かんでくる。
現在奨学金の返済ができずに自己破産に追い込まれるケースは、すでに1万件に上るという。自己破産して終わりではない。借金は保証人となっている親にのしかかる。親も払えないとなれば「破産の連鎖」が起きる。奨学金によって家族が共倒れしていくような状況が生まれているのだ。>
これならばリスクを回避するという観点から高等教育を受けることを断念する若者が増えてくるのは当然だろう。その結果、日本社会の知力が弱まり、経済にも政治にも悪影響を与える。
(2)②は、編集者、小説家など多彩な肩書を持つ著者が、ディベート術に関する実践的な作品(筑波大学で行った講義を基にした)だ。
<質問を受ける立場のハムレットが、まったく関係のない質問を突然、言い放ちます。このように、質問を受けていた立場が逆質問に転じるのは、土壇場で非常に役立つテクニックです。(中略)論点を変え、説明するサブジェクトを自分の得意な領域に転じさせるために、逆質問はきわめて有効です>
たしかに、逆質問は、外交交渉で窮地から抜け出すための効果的方法だ。
(3)③は、林業で大成功を収め、種々の慈善活動をしている著者による興味深い手記だ。
<成功とは代償を伴う。成功の度合いが大きければ大きいほど、その代償もより膨大なものとなる。それを家族や友人との死別にしてはならない。あるいは恋人との悲しい離別にも。大きな視点で捉えれば組織や国家の崩壊にも繋がりかねない問題である。だから本章は「社会に貢献せよ」である。
成功とは自らを厳しく律することを通常とし、社会に個人に、物心両面において最大限の貢献をせねばならない。社会貢献とは成功の更なる躍進であり、普遍的な大飛躍の芽を秘めているのである。
人生において受け取ることは「自然の摂理」だが、与えることは「天の摂理」である。この最重要事項を認識、実践せぬものは、破綻の兆候を見逃している愚者にすぎない>
イエス・キリストは「受けるより与えるほうが幸いである」と言ったが、和田氏はこの教えを実践している。
□佐藤優「弱まる日本社会の知力 ~知を磨く読書 第185回~」(「週刊ダイヤモンド」2017年2月11日号)
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【参考】
「【佐藤優】トランプの「会話力」を知る ~ワシントンポスト取材班『トランプ』~」
「【佐藤優】「不可能の可能性」に挑む、言語の果たす役割の大きさ、NYタイムズ紙コラムニストの人生論」
「【佐藤優】人生は実家の収入ですべて決まる? ~「下流」を脱する方法~」
「【佐藤優】ソ連崩壊後の労働者福祉軽視、現代も強い力を持つ観念論、孤独死予備軍と宗教」
「【佐藤優】米国のキリスト教的価値観、サイバー戦争論、日本会議」
「【佐藤優】『失敗の本質』/日本型組織の長所と短所」
「【佐藤優】世界を知る「最重要書物」 ~クラウゼヴィッツ『戦争論』~」
「【佐藤優】現代ロシアに関する教科書、ネコ問題はヒト問題、トランプ氏の顧問が見る中国」
「【佐藤優】日本には「物語の復権」が必要である ~反知性主義批判~」
「【佐藤優】サイコパス、新訳で甦る千年前の魂、長寿化に伴うライフスタイルの変化」
「【佐藤優】イラクの地政学、誠実なヒューマニスト、全ての人が受益者となる社会の構築」
「【佐藤優】外交に決定的に重要なタイミング、他人の気持ちになって考える力、科学と職人芸が融合した食品」
「【佐藤優】『ゼロからわかるキリスト教』の著者インタビュー ~「神」を論じる不可能に挑む~」
「【佐藤優】組織の非情さが骨身に沁みる ~新田次郎『八甲田山死の彷徨』~」
「【佐藤優】プーチン政権の本質、2017年の論点、ロシアと欧州」
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