①NHK取材班『総力取材! トランプ政権と日本』(NHK出版新書 780円)
②仲正昌樹『ポスト・モダンの左旋回』(作品社 2,200円)
③青野太潮『パウロ 十字架の使徒』(岩波新書 760円)
(1)①では、トランプ米大統領に係る各分野の専門家による現時点での評価を知ることができる。
〈例〉日米関係と安全保障に詳しい森本敏氏(元防衛相)は、こんな見方を示している。
<森本氏の個人事務所を訪れたのは、トランプ氏当選の2日後。森本氏も「驚きの結果」だと振り返る一方で、今後の日米同盟への影響については、「トランプ氏は今までに政治経験がないため、政府が持っている本当のインテリジェンスをまだ知らされていないのであろう。(新政権のスタッフが)実態をきちんと説明することによって、彼が理解し、路線の現実的かつ柔軟な修正をしてくるという要素は多分にあるでしょう」と冷静な見方を示した>
この方向でトランプ大統領が進んでくれればいいのだが、イスラム諸国7ヵ国の国籍所持者の米国入国を禁じるなど、エキセントリックな政策をトランプ大統領が取っていることに鑑みると、米国のアジア外交についても楽観は禁物だ。
(2)②は、現下日本の思想状況に対する優れた批判的紹介の書だ。
<あらゆる人間が自分の生活をしているのであって、それを「言語」という抽象的なもので一般化して表現することにはそもそも無理がある。仕方がないので自分にとって印象的な経験だけ抜き出して「言語化」したものが、たまたま他の人にも共感するような表現であった場合に、“生きた言葉”として響くことはあるだろう。それを一般化して「生きた言葉」と言ってみたところで何の意味もない>
この作品全体が、「生きた言葉」なるものの虚妄性を鋭く衝いている。
(3)③は、現代キリスト教神学の標準的な見解を知るために最適な本だ。イエスは自らをユダヤ教徒と考えていた。ユダヤ教と訣別しイエスを救世主とするキリスト教という新しい宗教を創ったのは、生前のイエスと会ったことがないパウロだ。
<パウロ自身もまた、たしかにイエスを「神の子」と信じていたが、神とイエスとの間に厳として存在する不可逆な順序、つまり神がいるからこそイエスはいるのであって、決してその逆ではない、という順序を重視していた。イエスの直弟子たちとは違って、イエスの十字架による「贖罪」と、それゆえに起こされたイエスの「復活」という理解に偏った、贖罪論一辺倒の信仰をパウロが回避できたのは、そのためである>
パウロのような波乱の人生を歩み、権謀術数に長けた人間でないと、パレスチナで生まれた小さな宗教を世界宗教にできなかったことがよくわかる。
□佐藤優「「生きた言葉」という虚妄 ~知を磨く読書 第1回~」(「週刊ダイヤモンド」2017年2月25日号)
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【参考】
「【佐藤優】物まね芸人とスパイの共通点、新版太平記の完成、対戦型AIの原理」
「【佐藤優】トランプ側近が考える「恐怖のシナリオ」 ~日本も敵になる?~」
「【佐藤優】弱まる日本社会の知力、実践的ディベート術、受けるより与えるほうが幸い」
「【佐藤優】トランプの「会話力」を知る ~ワシントンポスト取材班『トランプ』~」
「【佐藤優】「不可能の可能性」に挑む、言語の果たす役割の大きさ、NYタイムズ紙コラムニストの人生論」
「【佐藤優】人生は実家の収入ですべて決まる? ~「下流」を脱する方法~」
「【佐藤優】ソ連崩壊後の労働者福祉軽視、現代も強い力を持つ観念論、孤独死予備軍と宗教」
「【佐藤優】米国のキリスト教的価値観、サイバー戦争論、日本会議」
「【佐藤優】『失敗の本質』/日本型組織の長所と短所」
「【佐藤優】世界を知る「最重要書物」 ~クラウゼヴィッツ『戦争論』~」
「【佐藤優】現代ロシアに関する教科書、ネコ問題はヒト問題、トランプ氏の顧問が見る中国」
「【佐藤優】日本には「物語の復権」が必要である ~反知性主義批判~」
「【佐藤優】サイコパス、新訳で甦る千年前の魂、長寿化に伴うライフスタイルの変化」
「【佐藤優】イラクの地政学、誠実なヒューマニスト、全ての人が受益者となる社会の構築」
「【佐藤優】外交に決定的に重要なタイミング、他人の気持ちになって考える力、科学と職人芸が融合した食品」
「【佐藤優】『ゼロからわかるキリスト教』の著者インタビュー ~「神」を論じる不可能に挑む~」
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「【佐藤優】プーチン政権の本質、2017年の論点、ロシアと欧州」
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