東京電力は、債務超過寸前に陥っている。ために、賠償費用も除染費用も、このままでは支払い困難となる。
(1)東電の財務状態
2012年3月末現在で、総資産は13兆11億円、借金は8兆円超だ。
①3・11以前に発生した短期借入金4,40億円の返済が迫っている。
②3・11以前の長期借入金1兆5,837億円のうち、弁済済みは1,306億円のみ。
③3・11後の緊急融資1兆9,650億円(2020年までに1兆9,210億円を弁済予定)。
④2012年3月末段階で、国内社債の未償還残高は4兆4252億円。2020年までにほとんど弁済する必要がある。
今後4年間の債務弁済必要額は、毎年1兆円前後、全体で3兆7,000億円だ。
(2)事実上不良債権(不良資産)化した原発
(a)「経営・財務委員会」は、横軸(ア)原発再稼働、(イ)1年後再稼働、(ウ)原発再稼働なし。縦軸①電気料金値上げなし、②値上げ5%、③値上げ10%・・・・の6条件でシミュレーションした。これによれば、2020年までの資金調達必要額は、最高((ウ)の①)88,427億円、最低((ア)の③)7,540億円で、10倍以上の開きがある。
また、東電の純益予想は、(ウ)の①の場合、今後4年間赤字が続く(2011年5,179億円、2012年1兆594億円、2013年5,899億円、2014年3,845億円)。2011年9月末の自己資本は、連結で9,215億円、単体で6,187億円だから、2012年の1兆円超の赤字を賄うことができなければ、東電は債務超過に陥る。
だから、1兆円の公的資金を注入して実質国有化し、銀行融資を引き出そうとする国有化案が出てきた。これが、電力会社と経済産業省が原発再稼働を急ぎ、強引な電力料金値上げを行おうとする背景だ。
(b)原発を稼働できなければ、収益を生まないだけでなく、莫大な維持コストを生み出し、どんどん赤字が膨らんでいく構造だ。その結果、東電は電力債の発行や銀行借り入れ能力がなくなり、資金繰りが非常に困難になって、債務超過寸前に追い込まれている。
電力料金値上げにおける「燃料費上昇」は、口実にすぎない。それは当面の債務超過を避けるためであり、自ら引き起こした事故の処理費用(賠償費用や除染費用を含む)を利用者に負わせるものにほかならない。
同じようにエネルギー不足を「口実」に原発再稼働を急いでいるが、債務超過が本当の理由だ。
(c)他の電力会社も、同様の問題を抱えている。だからこそ、経産省も電力会社も、どのくらい原発が必要なのか、根拠となる数字を明らかにせず、事故前の安全基準を使ってでもなし崩し的に原発再稼働を急ごうとしているのだ。
こうした電力会社の利益優先・安全無視の姿勢が福島第一原発事故を引き起こした原因の一つなのだが、彼らには何の反省も見られない。もう一度同じような事故を起こせば、この国は終わる。
(3)払えない損害賠償費用・除染費用
(2)-(a)の試算には、損害賠償費用も除染費用も含まれていない。
(a)当面の賠償費用は次のとおり。
①潜在的賠償見込額(当初)は4兆5,402億円
②その後賠償対象に自主避難が含まれた。対象が8万人→150万人に拡大した。これに伴う12月以降の潜在的特別損失は年7,900億円。・・・・(内訳)賠償地域拡大分4,300億円、自主避難賠償額2,100億円、精神的被害基準変更分500億円、追加福島処理費用1,000億円。
①と同様に②も2年分入れると、潜在的賠償見込額は6兆円近くに膨らむ。このうち、実際に会計上「引当」等が行われているのは1年目の1兆284億円だけだ(うち1,200億円は原発保険代わりの供託金で拠出、よって実際の賠償引当は9,000億円)。
今のところ5兆円が未引当だが、現状では、支払える見込みはない。
(b)会計手続きも、賠償支払いを困難にしている。
「経営・財務委員会」は当初、東電を債務超過にしない、という閣議決定(昨年5月)を前提としていた。しかし、国会の付帯決議でこの閣議決定を解消した結果、東電は賠償費用の引当金を計上すれば、その分、赤字として出てくるようになった。ために、支援機構に申請してもスムーズに交付金が得られなくなった。先に引き当てても満額もらえる保証がないかぎり、東電は賠償金を支払うのをできるだけ避けようとしている。
東電は、6月の株主総会で、できるだけ赤字を少なく見せようとして、賠償金支払いが進まなくなる可能性がある。
(c)福島第一原発の事故処理と廃炉費用を賄う資金も不足している。
福島第一原発および第二原発10基分で合計6,000億円の廃炉費用が積まれているはずだが、現時点での廃炉見込みは1兆2,000億円とされ、とても足りない。しかも、メルトダウンして格納容器内から溶けた燃料を取り出す技術はこれから開発しなければならない。とても1兆2,000億円では足りない。福島県知事が要求している全基廃炉にすると、相当額の資金不足が予想される。
(d)以上のように賠償費用や事故処理費用の支払いがままならない状況で、さらに除染費用を捻出することは不可能に近い。
現状では除染事業などに関して、昨年度の第三次補正予算の2,459億円、2012年度予算の4,513億円、合計6,972億円しか計上されていない。飯舘村の除染費用だけで3,000億円かかるとされている。全体で7,000億円足らずでは、実効性のある除染はできない【注】。
東電の経営形態の変更、資産売却、原子力予算の組み替え等が喫緊の課題だ。
【注】実際、福島第一原発近辺の除染事業(原子力研究開発機構の再委託事業)は洗浄中心で、放射性物質が染みついた屋根や部材の交換さえ行われていない。さらに、福島県の他の地域でも、1軒あたり70万円の手抜き除染になっている。福島県の7割を占める森林でも、バイオマス発電を使った除染が行われているわけでもない。福島県民の不信を買っている所以だが、仮に1兆円の公的資金注入と1兆円の銀行融資を得たとしても、当座しのぎにすぎない。
以上、金子勝「原発は“不良債権”である 電力改革なしでは「失われた30年」になる」(「世界」2012年3月号)の前半、「1 なぜ電気料金値上げと原発再稼働を急ぐのか」および「2 このままでは損害賠償費用も出ない」に拠る。
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(1)東電の財務状態
2012年3月末現在で、総資産は13兆11億円、借金は8兆円超だ。
①3・11以前に発生した短期借入金4,40億円の返済が迫っている。
②3・11以前の長期借入金1兆5,837億円のうち、弁済済みは1,306億円のみ。
③3・11後の緊急融資1兆9,650億円(2020年までに1兆9,210億円を弁済予定)。
④2012年3月末段階で、国内社債の未償還残高は4兆4252億円。2020年までにほとんど弁済する必要がある。
今後4年間の債務弁済必要額は、毎年1兆円前後、全体で3兆7,000億円だ。
(2)事実上不良債権(不良資産)化した原発
(a)「経営・財務委員会」は、横軸(ア)原発再稼働、(イ)1年後再稼働、(ウ)原発再稼働なし。縦軸①電気料金値上げなし、②値上げ5%、③値上げ10%・・・・の6条件でシミュレーションした。これによれば、2020年までの資金調達必要額は、最高((ウ)の①)88,427億円、最低((ア)の③)7,540億円で、10倍以上の開きがある。
また、東電の純益予想は、(ウ)の①の場合、今後4年間赤字が続く(2011年5,179億円、2012年1兆594億円、2013年5,899億円、2014年3,845億円)。2011年9月末の自己資本は、連結で9,215億円、単体で6,187億円だから、2012年の1兆円超の赤字を賄うことができなければ、東電は債務超過に陥る。
だから、1兆円の公的資金を注入して実質国有化し、銀行融資を引き出そうとする国有化案が出てきた。これが、電力会社と経済産業省が原発再稼働を急ぎ、強引な電力料金値上げを行おうとする背景だ。
(b)原発を稼働できなければ、収益を生まないだけでなく、莫大な維持コストを生み出し、どんどん赤字が膨らんでいく構造だ。その結果、東電は電力債の発行や銀行借り入れ能力がなくなり、資金繰りが非常に困難になって、債務超過寸前に追い込まれている。
電力料金値上げにおける「燃料費上昇」は、口実にすぎない。それは当面の債務超過を避けるためであり、自ら引き起こした事故の処理費用(賠償費用や除染費用を含む)を利用者に負わせるものにほかならない。
同じようにエネルギー不足を「口実」に原発再稼働を急いでいるが、債務超過が本当の理由だ。
(c)他の電力会社も、同様の問題を抱えている。だからこそ、経産省も電力会社も、どのくらい原発が必要なのか、根拠となる数字を明らかにせず、事故前の安全基準を使ってでもなし崩し的に原発再稼働を急ごうとしているのだ。
こうした電力会社の利益優先・安全無視の姿勢が福島第一原発事故を引き起こした原因の一つなのだが、彼らには何の反省も見られない。もう一度同じような事故を起こせば、この国は終わる。
(3)払えない損害賠償費用・除染費用
(2)-(a)の試算には、損害賠償費用も除染費用も含まれていない。
(a)当面の賠償費用は次のとおり。
①潜在的賠償見込額(当初)は4兆5,402億円
②その後賠償対象に自主避難が含まれた。対象が8万人→150万人に拡大した。これに伴う12月以降の潜在的特別損失は年7,900億円。・・・・(内訳)賠償地域拡大分4,300億円、自主避難賠償額2,100億円、精神的被害基準変更分500億円、追加福島処理費用1,000億円。
①と同様に②も2年分入れると、潜在的賠償見込額は6兆円近くに膨らむ。このうち、実際に会計上「引当」等が行われているのは1年目の1兆284億円だけだ(うち1,200億円は原発保険代わりの供託金で拠出、よって実際の賠償引当は9,000億円)。
今のところ5兆円が未引当だが、現状では、支払える見込みはない。
(b)会計手続きも、賠償支払いを困難にしている。
「経営・財務委員会」は当初、東電を債務超過にしない、という閣議決定(昨年5月)を前提としていた。しかし、国会の付帯決議でこの閣議決定を解消した結果、東電は賠償費用の引当金を計上すれば、その分、赤字として出てくるようになった。ために、支援機構に申請してもスムーズに交付金が得られなくなった。先に引き当てても満額もらえる保証がないかぎり、東電は賠償金を支払うのをできるだけ避けようとしている。
東電は、6月の株主総会で、できるだけ赤字を少なく見せようとして、賠償金支払いが進まなくなる可能性がある。
(c)福島第一原発の事故処理と廃炉費用を賄う資金も不足している。
福島第一原発および第二原発10基分で合計6,000億円の廃炉費用が積まれているはずだが、現時点での廃炉見込みは1兆2,000億円とされ、とても足りない。しかも、メルトダウンして格納容器内から溶けた燃料を取り出す技術はこれから開発しなければならない。とても1兆2,000億円では足りない。福島県知事が要求している全基廃炉にすると、相当額の資金不足が予想される。
(d)以上のように賠償費用や事故処理費用の支払いがままならない状況で、さらに除染費用を捻出することは不可能に近い。
現状では除染事業などに関して、昨年度の第三次補正予算の2,459億円、2012年度予算の4,513億円、合計6,972億円しか計上されていない。飯舘村の除染費用だけで3,000億円かかるとされている。全体で7,000億円足らずでは、実効性のある除染はできない【注】。
東電の経営形態の変更、資産売却、原子力予算の組み替え等が喫緊の課題だ。
【注】実際、福島第一原発近辺の除染事業(原子力研究開発機構の再委託事業)は洗浄中心で、放射性物質が染みついた屋根や部材の交換さえ行われていない。さらに、福島県の他の地域でも、1軒あたり70万円の手抜き除染になっている。福島県の7割を占める森林でも、バイオマス発電を使った除染が行われているわけでもない。福島県民の不信を買っている所以だが、仮に1兆円の公的資金注入と1兆円の銀行融資を得たとしても、当座しのぎにすぎない。
以上、金子勝「原発は“不良債権”である 電力改革なしでは「失われた30年」になる」(「世界」2012年3月号)の前半、「1 なぜ電気料金値上げと原発再稼働を急ぐのか」および「2 このままでは損害賠償費用も出ない」に拠る。
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