先日、新丸ビルでアイスバインを食べたことを書いた。
アイスバインというと、いくつか想い出がある。
僕が最初に本格的なアイスバインを食べたのは、銀座の「ケテル」というドイツレストランだった。
妻と結婚したばかりのころで、仙台の母が画家の友人の個展を観るために上京してきて、それに夫婦で付き合ったときだ。
もちろん子供もまだおらず、独身だった弟が一緒だった気がする。
小さなロビーでの個展を観終わって、遅めの昼食を摂った。
太い脛骨の周りのピンクの肉の塊をナイフで削ぎ落としてゆく。
たっぷりマスタードを塗って頬張ると、柔らかくてジューシーな肉が口の中で蕩けた。
本格的なドイツビールも初めてで、弟と二人で昼からほろ酔い加減。
土曜か日曜の、春の日差しが眩しい暖かい日だったと思う。
僕も妻も、もちろん母も弟も、若かった。
僕らは新婚で前途洋々、弟も就職したばかりで張り切っていた。
母も息子たち二人の落ち着いた姿を見て、一安心だったろう。
もう20数年前の、満ち足りて心地よい休日の想い出だ。
もうひとつは2年前の夏。
5月に妻を看取り、その年の夏休みをどうしようかと考えていた。
まだ妻の遺骨が家にあったので、仙台の実家に帰るのはやめておこうかと思った。
でも両親も何かと気を遣ってくれて「孫と一緒に来たら」と言ってくれたし、妻も「行っておいでよ」と言っている気がした。
それで久しぶりに息子たちと新幹線で帰省した。
仙台では、温泉に泊まったりカラオケに行ったり、ボーリングをやったりで、ワイワイと遊び歩いた。
息子たちもそれなりに盛り上がって楽しそうにしていたが、なにせ母親を亡くして3ヶ月も経っていない。
無理に明るく振舞っているようにも見えたものだ。
仙台から川崎に帰ってきて、駅前で夕飯を食べることにした。
中華でも寿司でも良かったのだが、夏休みの締めくくりだから「たまには豪華にレストランで肉でも食ってビールを呑むか!?」ということになった。
川崎駅西口の「つばめグリル」で、ソーセージ盛り合わせ、ハンバーグ、そしてアイスバインで生ビール。
長男はグイグイ生ビールを呑んでいたが、次男は未成年だし酒そのものがあまり好きではないようだ。
食べることが中心の次男は「なんか、肉ばっかりだな」
僕は息子にアイスバインを切り分けながら、20年前のケテルを想い出していた。
なんでこんなところで息子と3人でアイスバインなんて食べているんだろう。
妻は何でいないんだ?
ケテルにはいたじゃないか!
どうしてこんなことになったんだ!?
帰りは重い荷物を下げて家まで黙々と歩いた。
あぁ~、もう休みも終わり、夏も終わり、みんな終わり・・・。
20年前とは対照的なアイスバインの想い出である。