漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

漢字の国 書けない若者  中国 パソコン普及で急増 <読売新聞>

2013年08月24日 | 書評
【瀋陽=蒔田一彦】漢字の国・中国で、若者を中心に正しい漢字を書けない人が増えている。パソコンや携帯機器の急速な普及で手書きの機会が減っていることが背景にあり、危機感を抱いた当局は、漢字への関心アップに乗り出している。

 「88、3Q」
 中国の女子中学生の携帯メールにあふれる若者言葉の一つだ。「バイバイ、サンキュー」の意味。こうした数字や英語を使った省略語や外来語が多用される一方、「読めるけれど書けない」漢字が増えている。
 河南省のテレビ局が7月から全国放送を始めた番組「漢字英雄」。小中高校生が漢字の書き取りを競う。答えに窮した子供は電話で親たちに教えてもらうが、「脱臼(中国語でも脱臼)」など、普段よく使う漢字でも大人たちの誤答が続出。現代中国人の「書く能力」の低下を浮き彫りにした。

 これを受け、国営メディアは「漢字は中国文化の核心。我々は後世に継承しなければならない」(新華社通信)などと、国民に漢字学習を促す論調を展開。8月には中国中央テレビも、学生漢字チャンピオンを決める番組を始めた。ある大学関係者は、「学生向け漢字コンテストを開くよう政府から要請があり、準備に追われている」と明かす。
 「漢字英雄」は開始以来、視聴率で全国トップ10入りを続けている。番組と同じゲームが楽しめるアプリもダウンロード数は80万件に達した。書店には漢字学習のコーナーが設けられ、書道教室の受講者が増えるなど、ブームを起こしている。

 中国政府が定める、新聞や書籍などで日常的に使う漢字は6500字で、ひらがな、カタカナも使う日本の常用漢字の約3倍。同じ発音の字も多く、誤字が生まれやすい。その上、幼少期からパソコンや携帯電話で変換された候補の中から選ぶことに慣れた結果、「国民の書く能力が低下している」(2011年の教育省の報告書)現状がある。
 日中の漢字文化に詳しい京都外国語大の彭飛教授は、「漢字の読み書き能力の低下について、中国の危機感は強い。教育界を巻き込んだ長期的な取り組みに広がる可能性がある」と指摘している。(2013年8月21日 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20130821-OYT1T00207.htm

<記事の感想>
 パソコンや携帯機器の急速な普及で漢字が書けなくなっているので、この対策の一環として中国で漢字をテーマとしたテレビ番組が始まったというのが、この記事の見どころである。日本ではすでに数年前からタレントが参加する漢字の書き取りや読みを競う番組が盛んで、最近は漢字の書き順を競う番組が新たに登場している。こうした番組が人気を集めるのは、漢字を書けないことに対する人々の危機感が増えているからであろう。

 実は私も「漢字を読めるけれど書けなくなった」一人である。地方公務員を退職して偶然なことから中国の大学で日本語を教えることになり、漢字を黒板に書く必要にせまられた。書き取りの練習をしたが丸暗記ではすぐ忘れる。部首の対極をなす音符は発音だけでなく意味はないのか、と模索して始めたのが、このブログで連載している「音符イメージ法」である。漢字は暗記で覚えるのが基本である。しかし、書けない漢字や何度も間違う漢字は音符イメージ法を使うと書けますよ、というのが私の提案である。

 最後にひとつ事実関係を確認しておきたい。記事中「中国政府が定める、新聞や書籍などで日常的に使う漢字は6500字で、ひらがな、カタカナも使う日本の常用漢字の約3倍」という表現である。この記事だと、中国では6500字が日常的に使われている印象をうけるが、ネットで調べると、中国には「現代漢字常用字表一、二」があり、「表一」は2500字で、これに次ぐ「表二(次常用字)」は1000字。合計3500字が日常的に使われる中国の常用漢字である。
  http://hanyu.iciba.com/zt/3500.html 
 この3500字は現代中国の一般的な文章の99.48%をカバーするとされる(上野恵司『基礎中国語辞典』HNK出版)。日本でいえば、「表一」は教育漢字の1006字、「表二(次常用字)」は中学生(高校生)を中心に覚える1130字に相当し、合計した2136字が日本の常用漢字である。
 だから、新聞や書籍などで日常的に使う漢字とする6500字と、日本の常用漢字2136字を比較するのは無理があり、中国の常用字3500字と日本の常用漢字2136字を比較しなければならないと思う。では記事中にある6500字とは何をさすのか? 調べてみると2013年6月に公布された「通用規範漢字表」の一・ニ級合計字の数であることが分かった。この表の総計は8105字で、内訳は一級が常用字の3500字、ニ級はそれに次ぐ漢字である3000字で、合計6500字が主要な出版印刷を満足させる一般に必要とされる字だそうである。そして三級の1605字が姓氏人名、地名などの特殊な字だという。
http://baike.baidu.com/view/2720250.htm?fromId=2369158
日本ではJIS第一水準漢字が日常生活でよく使われる漢字で2965字。第二水準漢字は比較的使用頻度が低い字や、地名や人名などに用いられる漢字で3390字。合計6355字であるから、この数字に近い。ちなみに、この6300余字は漢検1級の出題範囲の漢字にほぼ相当する。
コメント
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