漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符「羊ヨウ」<ひつじ>「洋ヨウ」「様ヨウ」「窯ヨウ」「祥ショウ」「詳ショウ」「美ビ」と 「羔コウ」<こひつじ>

2021年06月01日 | 漢字の音符
  佯ヨウを追加しました。
 ヨウ・ショウ・ひつじ  羊部

解字 前からみた羊の象形。羊の角の下部に羊のからだを描いている。牛が角を上に向けて描かれているのに対し、羊は角を下に向けている。ひつじの意を表す。羊は古くから家畜として飼われ、毛は毛織物、肉は食用として利用された。古代の中国人にとって重要な動物で神事に使われることも多かった。また、羊の字はその発音:ヨウ・ショウで同音代替されることが多い。
意味 ひつじ(羊)。ウシ科の哺乳類。「羊毛ヨウモウ」「牧羊ボクヨウ
参考 羊は部首「羊ひつじ」になる。漢字の上部や右辺や左辺に付いて「ひつじ」の意を表す。常用漢字で7字、漢字の中字典で約40字ある。なお、羊が上につくとき、美のように羊の下部が省略されることが多い。おもな字は以下のとおり。
常用漢字 7字
 ヨウ・ひつじ(部首)
 ギ・よい(羊+音符「我ガ」)
 グン・むれ(羊+音符「君クン」)
 シュウ・はじる(羊+丑 の会意)
 セン・うらやむ(羊+氵(水)+欠の会意)
 チャク・つく(著の変形字) 
 ビ・うつくしい(羊+大の会意)
常用漢字以外
 レイ(羊+音符「令レイ」)
 コウ・こひつじ(羊+灬(火)の会意)ほか

イメージ 
 「ひつじ」
(羊・養・鱶・祥・詳・遅・美・躾・様)
 「形声字」(洋・佯・痒・恙・翔・窯)
音の変化  ヨウ:羊・養・様・洋・佯・窯・痒・恙  ショウ:祥・詳・翔・鱶  チ:遅  ビ:美  しつけ:躾

ひつじ
 ヨウ・やしなう  食部

解字 「食(たべる)+羊の略体(ひつじ)」 の会意形声。羊の肉を食べて力をつけること。なお、甲骨文・金文は「羊+攴(うつ)」の形で、羊を放牧しムチを打って群れを誘導しながら飼う意。途中から字形が変わった。従って、放牧して飼う・育てる意と、羊の肉を食べて養生する意がある。
意味 (1)やしなう(養う)。育てる。世話をする。「養育ヨウイク」 (2)飼う。「養蚕ヨウサン」「養殖ヨウショク」「養鶏ヨウケイ」 (3)身体を大事にする。「養生ヨウジョウ」「静養セイヨウ」  (4)心をやしなう。「教養キョウヨウ」「修養シュウヨウ
 ショウ・ひもの・ふか  魚部
解字 「魚(さかな)+養(やしない⇒栄養となるたべもの)」の会意形声。魚を加工した栄養のあるたべものの意で、ひものを表す。日本では「ふか」の意で用いる。
意味 (1)ひもの(鱶)。干した魚。ほしうお。 (2)[国]ふか(鱶)。大形のサメ類の俗称。特に関西地方以西でいうことが多い。鱶のヒレを干してフカヒレをつくることから、ひものの意である鱶を当てたか。「鱶鰭フカヒレ」(鱶のヒレを干したもの。中華料理の高級食材)
 ショウ・さいわい ネ部
解字 「ネ(示:祭壇)+羊(ひつじ)」 の会意形声。羊を神にそなえて願うこと。すると、神からの前ぶれが表れること。その結果、さいわいがもたらされる。
意味 (1)きざし。前ぶれ。「祥雲ショウウン」「祥瑞ショウズイ」(めでたい前ぶれ) 「発祥ハッショウ」(①天子となるめでたいしるしがあらわれること。②物事が起こりあらわれること)「発祥地ハッショウチ」(ある物事が初めて起こりあらわれた土地)(2)さいわい(祥い)。さち。めでたいこと。「吉祥キッショウ」(めでたいきざし)「不祥フショウ」(不吉なこと。災難や不運)「不祥事フショウジ」(不名誉で好ましくない事件)
 ショウ・くわしい・つまびらか  言部
解字 「言(ことば)+羊(=祥。羊を神にそなえる)」の会意形声。羊を神にそなえて願った結果、出てきた前ぶれをくわしく話すこと。
意味 くわしい(詳しい)。つまびらか(詳らか)。「詳細ショウサイ」「詳報ショウホウ
[遲] チ・おくれる・おくらす・おそい  辶部
解字 旧字は「辶(ゆく)+犀サイ」の会意。犀サイがゆく意で、歩みの遅い動物であるサイに辶(ゆく)をつけ、遅い意を表した。現代字は犀サイの尸以外の部分を羊に置き換えた字。
覚え方 この(コノ⇒)ひつじ()ゆく()のが(おそ)い。
意味 (1)おそい(遅い)。のろい。にぶい。「遅遅チチ」「遅筆チヒツ」「遅鈍チドン」(遅くてにぶい。機転がきかない) (2)おくれる(遅れる)。間に合わない。「遅刻チコク」「遅延チエン」「遅配チハイ」 (3)(ゆっくりの意から)まつ。気長に待つ。「遅明チメイ」(夜明けをまつ頃。夜明け)「遅旦チタン」(日の出をまつ頃。夜明け)
 ビ・うつくしい  羊部
解字 「羊(立派なひつじ)+大(おおきい)」 の会意。大きく立派な羊の意。大きな羊は、「すぐれる・よい」「うまい」意となり、さらにその良さを「たたえる」、最後に「美しい」意となる。
意味 (1)よい。すぐれる。「美徳ビトク」 (2)うまい。おいしい。「美味ビミ」「美酒ビシュ」 (3)ほめる。たたえる。「賛美サンビ」 (4)うつくしい(美しい)。きれい。「美人ビジン」「優美ユウビ
<国字> しつけ  身部
解字 「身(からだ)+美(うつくしい)」の会意。身のこなしを美しくするよう仕込む意。
意味 しつけ(躾)。礼儀作法などを身につけさせる。

形声字
 ヨウ  氵部
解字 「氵(川)+羊(ヨウ)」の形声。ヨウという名の川を言った。[説文解字]は「斉郡(山東省)の高山に源を発し、東北に流れて鉅定キョテイ湖に注ぐ川の名」とする。また、ヨウは漾ヨウ(水の広大なさま・川の長いさま)に通じる。この意をうけて、洋はさらに広大な海の意として使われる。
意味 (1)大きな海。「海洋カイヨウ」「遠洋エンヨウ」 (2)世界を二つに分けたそれぞれの部分。「東洋トウヨウ」「西洋セイヨウ」 (3)西洋の略。「洋式ヨウシキ」「洋食ヨウショク
[樣] ヨウ・さま  木部
解字 旧字は樣で 「木(き)+永(ながい)+羊(ヨウ)」 の会意形声。「木+永(ながい)」は永い寿命の立派な樹木の意。羊ヨウは、その樹木の発音を表す。[説文解字注]は「栩(くぬぎ)の實(み)なり」とするが、クヌギ(栩・橡・栃)などの樹容の立派なさまから、ありさま(有様)の意味に用い、転じて、文様・きまった様式の意ともなる。また、日本では敬語として用いる。新字体は旧字の永⇒水に変化する。
意味 (1)さま(様)。ありさま。「様子ヨウス」「様相ヨウソウ」 (2)あや(綾)。図柄。「模様モヨウ」 (3)きまった形式。かた。「様式ヨウシキ」「仕様シヨウ」 (4)敬意を表す語。「上様うえさま」(5)とちの実。どんぐり。
 ヨウ・いつわる  イ部
解字 「イ(ひと)+羊(ヨウ)」の形声。ヨウは様ヨウ(様子。ありさま)に通じ、人が表面のありさまで人をいつわることをいう。
意味 (1)いつわる(佯る)。ふりをする。「佯死ヨウシ」(死んだふりをする)「佯狂ヨウキョウ」(狂人のふりをする)「佯病ヨウビョウ」(仮病)「佯北ヨウホク」(いつわった敗北)「佯北には従うこと勿(なか)れ<孫子>」(偽って退却する敵を追ってはならない)(2)あざむく。だます。「詐佯サヨウ」(うそ。いつわり)
 ヨウ・かゆい  疒部
解字 「疒(やまい)+羊(ヨウ)」の形声。ヨウは瘍ヨウ(かさ・できもの)に通じる。痒ヨウは、かさ・できもので病むこと。また、できものがかゆい意となる。
意味 (1)やむ(痒む)。 (2)かさ。できもの。はれもの。 (3)かゆい(痒い)。「痛痒ツウヨウ」(痛みと痒み)「掻痒ソウヨウ」(痒いところを掻く)「隔靴掻痒カッカソウヨウ」(靴を隔てて痒いところを掻く。もどかしい)
 ヨウ・つつが  心部
解字 「心(こころ)+羊の略体(=痒。やむ)」の会意形声。心が病むこと。すなわち、うれいをいう。
意味 つつが(恙)。 (1)病気。心配。憂い。「微恙ビヨウ」(気分が少しすぐれない)「恙無(つつがな)し」(うれいがない。平安無事である。) (2)ツツガムシ(恙虫)の略。ツツガムシ科のダニの総称。噛まれると高熱を発し感染症となる。
 ショウ・かける・とぶ  羽部
解字 「羽(はね)+羊(ショウ)」の形声。ショウは上ショウ・ジョウ(上にあがる)に通じ、鳥が羽で高く舞い上がること。翔の漢音はショウ、上の漢音はショウで一致する。
意味 鳥が羽を広げたまま空を旋回する。空高くとぶ。かける(翔る)。とぶ(翔ぶ)。「飛翔ヒショウ」(空高く飛ぶ)「高翔コウショウ」(高く飛ぶ)「翔破ショウハ」(長い距離をとびきる)
 ヨウ・かま  穴部
解字 「穴(あな)+灬(火)+羊の略体(ヨウ)」の形声。ヨウは䍃ヨウ(かめ・もたい)に通じ、かめを丘の斜面の穴がまにいれて火で焼くこと。陶器を焼く穴窯や登り窯をいう。䍃に穴のついた窰ヨウは、窯の異体字。
意味 かま(窯)。すえもの。陶器。「窯業ヨウギョウ」(窯を用いる工業、陶磁器・ガラス・煉瓦などの製造業)「陶窯トウヨウ」(陶器を焼く窯)「窯変ヨウヘン」(窯の中で陶器の色や形に予期しない変化がおこること)


    コウ <こひつじ>
 コウ・こひつじ  羊部

解字 「羊の略体(ひつじ)+灬(火)」の会意。羊を丸焼きする形で、丸焼きするのに適している子羊をいう。
意味 こひつじ(羔)。羊の子。「羔裘コウキュウ」(子羊の皮で作った衣服)「羔羊コウヨウ」(子羊と大きな羊)
イメージ  「こひつじ」 (羔・
音の変化  コウ:羔・

こひつじ
 コウ・カン・あつもの  羊部  
解字 「羔(こひつじ)+美(おいしい)」の会意形声。子羊のおいしい料理。子羊の肉を野菜と煮た、あつものが原義。子羊の肉に限らず、肉と野菜のあつものをいう。
意味 (1)あつもの()。肉と野菜を混ぜて煮た熱い吸物。あつものとは熱物(あつもの)の意。「斎羹サイコウ」(精進料理のあつもの)「に懲りて膾(なます)を吹く」(熱い汁ものに懲りて、冷たい膾(魚や生肉を細く切ったもの)を吹いて食べる)(2)とろりとした濃いスープ。(3)「羊羹ヨウカン」(カンは唐音)とは、小豆を主体とした餡(あん)を型に流し込み寒天で固めた和菓子。最初は羊肉の濃いスープとして禅僧により中国から伝わったが、禅宗では肉食が禁じられているため、精進料理として羊肉の代わりに小豆を用いたものが、日本における羊羹の原型になったとされる。
<紫色は常用漢字>

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