Kenji P. Miyajima2025/1/7
スリーマイル島原子力発電所 Image: Shutterstock
温暖化から未来を守るために、核廃棄物を未来に丸投げ。
メイン州ウィスカセット(人口3,742人)には、武装警備員に守られた広大な土地があります。そこにはコンクリートの土台の上に60基のコンテナが並び、30年近く前に閉鎖された原子力発電所から出た1,400本の使用済み核燃料棒が保管されています。
地域住民は好ましく思っていませんが、この核廃棄物には行き場がないのが現状です。アメリカの核廃棄物処理問題は、理論上は解決策があるものの、数十年にわたる政治的な争いによって実務的に行き詰まっています。
その一方で、電力需要は増加の一途をたどっており、Google(グーグル)やMicrosoft(マイクロソフト)、Meta(メタ)、Amazon(アマゾン)といったビッグテックは、原子力発電の導入計画を進めると発表しました。
このような動きによって、核廃棄物はこれまで以上に増加すると予想されます。現在のシステムを維持するのであれば、核廃棄物をステンレス鋼の容器に入れた上で、ドライキャスクと呼ばれるコンクリート構造物の中に密封して、原子炉の近くで保管することになります。このドライキャスクは非常に安全性が高く、何事もなければ、数世紀にわたって安全に保管できるとされています。
しかし、気候変動に伴う山火事や地震、海面上昇が、ドライキャスクへの脅威となっています。1基や2基のドライキャスクを飲み込む程度の災害であれば、深刻な問題にはならないかもしれませんが、今後ドライキャスクは確実に増える見込みです。
ビッグテックの原子力推し
ビッグテックの原子力発電への進出に伴い、アメリカの核廃棄物問題が深刻化しています。他の核インフラ保有国は、特殊設計された深地層処分場に廃棄物を保管していますが、アメリカでは「自分の裏庭に核廃棄物の貯蔵所は作らせない」という反対(NIMBY運動=Not In My BackYard)もあって、実現に至っていません。
アメリカにおける廃棄物処理の実績がひどすぎるので、反対する人たちを責められません。かつては核廃棄物の海洋投棄が行なわれ、マンハッタン計画の廃棄物は今なお人々を苦しめています。サウスカロライナ州では放射能に汚染されたワニが出現し、ワシントン州のハンフォード・サイトには20万立方メートル(オリンピックサイズのプール82個分)もの永遠に処理されないかもしれない廃棄物が残されています。
ビッグテックの需要を満たすために、私たちは核のごみの山を増やしていくことになるでしょう。
2024年、ビッグテックは原子力エネルギーに本格的に参入しました。データセンターの電力需要とAIシステムの利用増加に対応するため、Meta、Google、Microsoft、Amazonは原子力発電に活路を見出しています。
GoogleはKairos Powerと提携して小型モジュール炉(SMR)の建設を発表し、AmazonもEnergy Northwestなどと協力してSMR建設を進めています。他の企業よりも遅れて参入したMetaは、原子力を利用して1~4GWを発電する方法を提案するよう企業に求めています。
長年この分野に取り組んできたMicrosoftは、TerraPowerとの提携でSMRを建設する一方、スリーマイル島原子力発電所の再開も計画しています。
原子力発電は、燃料が希少で厳しく規制されており、導入の実現は容易ではありません。成功すれば、発電時にCO2を排出しないという意味でクリーンなエネルギーを効率よく数百万人に供給できますが、過酷事故が起これば政権崩壊や、数百万人にがんリスクが及ぶような大惨事をもたらす可能性があります。
ビッグテックは、数十億ドルの投資と数十年の建設期間が必要な従来型の原子炉ではなく、より小型で柔軟な新型原子炉(SMR)の建設を目指しています。専門家は、資金力のあるビッグテックが、これまで見られなかったような技術革新をもたらすのに役立っていると指摘します。
しかし、より安全で発生する廃棄物の量が少ないことをアピール材料にしているSMRの安全性や効率性は実証されておらず、廃棄物の保管についても具体的な計画は示されていません。TerraPowerは、従来型の原子炉と比較してSMRは廃棄物を3分の2にできると主張していますが、最終処分場の確保という根本的な課題は依然として解決していません。
住民の反対(NIMBY)
原子力の専門家によると、ビッグテックには地域住民との関係構築が課題になりそうです。巨大インフラ建設には、住民の税金が何十億ドルも投入されます。しかし、ビッグテックは歴史的に地域レベルでの住民とのコミュニケーションの重要性を理解しておらず、ちゃんと歴史から学んで公聴会などを通じて適応する必要があるとのことです。
核廃棄物が近隣に持ち込まれることに対して、住民は強く反発します。がんのリスクや環境破壊の懸念は、地域住民にとって現実的な問題だからです。新型原子炉はデータセンターの隣接地に建設される計画ですが、税金が投入される以上、住民への見返りが期待されます。すべての電力をデータセンターや大規模言語モデルのためだけに使用することもできないでしょう。
ビッグテックが利用するすべての原発から、行き場のない核廃棄物が発生します。1980年代、連邦政府はネバダ州ユッカマウンテンに地層処分場を建設しようとしましたが、核実験の影響を長年受けてきた地域住民の反対に遭いました。住民の同意なく計画を進めて、ユッカマウンテンを最終処分場に指定する法律を作ったら、住民は反発しますよね。
現在、アメリカにはユッカマウンテンの収容能力の3倍に相当する核廃棄物が眠っており、今後新規建設される原子炉からの廃棄物を考慮すると、もはやユッカマウンテン計画は現実的な解決策にはなりません。中身があふれちゃう器を作ってもしょうがないですよね。最終処分場を数カ所建設するオプションもありかもだけど、数十年かけて1カ所すら決められないのに、数カ所確保できるとは思えません。
1987年に制定された法律(地元では「ネバダねじ伏せ法」と呼ばれる)は、核廃棄物の中間処分場を確保するために、アメリカ国内の州や先住民族の指導者を説得する目的で交渉官事務所を設置し、交渉官職を置きましたが、1990年まで人員が配置されず、1995年には廃止されたそうです。誰も関わりたくないんですね。
現行法では、州または先住民居留地に核廃棄物を保管する際は住民の同意が必要ですが、受け入れを希望する地域はありません。そのため、中央集中型の最終処分場ではなく、核廃棄物が発生した場所の近くで保管されています。というか、そうするしかない状況です。
原子力は安全です
科学者や原子力関連のインフルエンサーの間で、核廃棄物保管施設と接触することで安全性をアピールする動きが広がっています。ソーシャルメディアで「Isodope」として知られるイザベル・ボエメケ氏は、核廃棄物を収納したドライキャスクにキスをする写真をXに投稿しました。キスして応援。
この種のパフォーマンスは、科学系ユーチューバーの間では珍しくないといいます。
実際に触れたことがあるという専門家も、ドライキャスクは極めて安全だと述べています。しかし、問題は、ドライキャスクが優れた保管方法かどうかではなく、核廃棄物を発生場所で保管しなきゃいけない現状です。
Boemeke氏の写真の舞台になったカリフォルニア州のディアブロ・キャニオン原子力発電所は、閉鎖が計画されていましたが、Boemeke氏らのオンラインでの啓発活動の影響もあってか、2030年までの運転延長が決定しました。つまり、ディアブロ・キャニオン原発の敷地内の核廃棄物はさらに増えるということです。この原発は主要な断層の近くに位置している上に、常に山火事の脅威にさらされています。
また、ロサンゼルス南部の断層線上にあるサンオノフレ原子力発電所には、約1,632トンの核廃棄物が保管されています。
一部の専門家は、ドライキャスクは立派な解決策であり、原発の利点は核廃棄物の負の側面をはるかに上回ると考えているようです。プリンストン大学のジェシー・D・ジェンキンス准教授は、Blueskyへの投稿で次のように述べています。
「気候変動は、明確かつ現実的な地球規模の危機であり、地質学的な時間スケールで見ても広範囲にわたる悪影響をもたらします。一方、使用済み核燃料は、ドライキャスクに保管すれば、何世代にもわたって安全に封じ込めることができます。
アメリカの民間原子力発電の歴史全体では、数十年にわたって電力の1/5をCO2や大気汚染を出さずに供給してきましたが、今までに生み出された高レベル放射性廃棄物は10万トン未満です。私たちは、毎年何十億トンもの化石燃料を燃やしています。
つまり、すべての使用済み核燃料は、1万基未満のドライキャスクに収まる程度の量なのです。これだけですべて収まるのです。そしてこれが『核廃棄物問題』で、この実績ある排出量ゼロの電力源を避けるべきでしょうか? いや、そんなことはありません」
私は原子力を使うべきではないと主張しているのではありません。ジェンキンス氏たちは正しい。ドライキャスクはほぼ安全です。それでも核廃棄物は問題だと思います。原子炉が増えるということは、管理が必要な使用済み核燃料が全米で増え、施設を守る武装警備員が増えるということです。
気候変動対策の原発に迫る気候変動の脅威
2024年の政府説明責任局(GAO)の報告書で、原子力規制委員会(NRC)は、気候変動がドライキャスクや原子力発電所に与える影響を十分に調査していないという衝撃的な事実が判明しました。
報告書によれば、原子力発電所の約20%(75基中16基)が山火事のリスクが高い地域に、60%以上(75基中47基)がカテゴリー4と5のハリケーンの影響を受ける地域や、海洋大気庁(NOAA)が海面上昇の影響を受けると予測している地域に立地しています。
ビッグテックによる原発推進は、化石燃料よりもCO2排出量がはるかに少ないクリーンで効率的な電力源になる可能性を秘めています。問題は、何かがうまくいかなくなると、事態が破滅的に悪化することです。原子炉の増加は、故障のリスクと廃棄物の増加を意味します。そして廃棄物には、今はまだない、数十年もの間どこにするかも決まっていない最終処分場が必要です。
ビッグテックのロビー活動が、アメリカの使用済み核燃料の最終処分場確保という課題の解決に貢献することを願うばかりです。
https://www.msn.com/ja-jp/science/environmental-science/電力確保に原発を推すビッグテック-増え続ける放射性廃棄物はどうするの/ar-AA1x4tfX?ocid=BingNewsVerp