パオと高床

あこがれの移動と定住

『浄土の帝』安部龍太郎(角川文庫)

2023-02-10 13:49:21 | 国内・小説

後白河上皇の半生を描いた小説。
平清盛とか源頼朝を描く時に、稀代の政治力と裏工作師ぶりを発揮するキイパーソンとして登場する帝を、
正面から主役で描く、珍しい(?)一編。
院と天皇の確執や、それをとりまく摂関家の蠢きがわかって、なかなか面白かった。
今様に打ち興じる姿や、夢物語にテレパシーのように語りかける様子は、
それこそドラマでよく見かけた。
「鎌倉殿の13人」でも頼朝の夢枕に西田敏行はよく立っていた。
それが、この小説では、今様に優れた才能を持ち、人々から尊崇を得るためにその才能を生かした、
としている。
また、語りかける能力も、そんな力を持っていたとして描いている。
なんらかの古文の資料に記述があったのかもしれないし、作者が想像をめぐらしたのかもしれない。
それが崇徳上皇と後白河上皇の心の交流でうまく使われたり、
後白河上皇が庶民をどう捉えようとしていたかを描く時に有効に活用されていた。
実際に
今様が宮中にも浸潤している様子は、文化の動きとしてかなり重要な転機だと
何かの本で読んだことがある。吉本だったかな?

この作者の書いた『等伯』でもそうだったが、
視点を従来の場所から変えることで、違った立ち位置で歴史を見つめることが出来た。
保元の乱や平治の乱といった学校で習った歴史が人々の動きとして表れたのはよかった。

それにしても韓国歴史ドラマの朝鮮時代物でもそうだけれど、
王や帝が親政を行うことは、難しいもので、必ず
とりまく官僚の権力争いが起こるのだな。
で、一方でいかにして相手を朝敵にするかが、すでに古代から生まれていたことに
気づかされた。
幕末に倒幕を狙う薩摩藩が錦の御旗を欲しがった戦略もすでに、
歴史が示しているものだったのだ。

安部龍太郎の小説は比喩が抜群にいいな。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 嶋稟太郎『羽と風鈴』(書肆... | トップ | 『無双の花』葉室麟(文春文庫) »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

国内・小説」カテゴリの最新記事