共 結 来 縁 ~ あるヴァイオリン&ヴィオラ講師の戯言 ~

山川異域、風月同天、寄諸仏子、共結来縁…山川の域異れど、風月は同天にあり、諸仏の縁に寄りたる者、来たれる縁を共に結ばむ

《里の秋》の本当の姿を

2016年09月06日 22時41分55秒 | 音楽
今日は茨城から出張で都内に来るという友人に会いに行ってきました。私の父の葬儀に来てくれた時以来、約5年ぶりの再会でした。互いに白髪の増えた頭を見やりながら、それでも会ってしまえばノリは一気に学生時代に戻ります。

現在、茨城県内で音楽教諭をしている友人といろいろな話に花を咲かせていましたが、その中でどういう流れだったか忘れましたが、誰しもが音楽の時間で必ず歌っている《里の秋》の話になりました。

皆さんも御存知でしょうが、学校で習う時には2番までの曲として習われたと思います。

1、静かな静かな 里の秋
  お背戸に木の実の 落ちる夜は
  嗚呼 母さんと只二人
  栗のみ煮てます 囲炉裏端

2、明るい明るい 星の空
  鳴き鳴き夜鴨の 渡る夜は
  嗚呼 父さんのあの笑顔
  栗の実食べては 思い出す

こんな歌詞です。思い出されましたでしょうか。

私は小学生時代、この歌を歌いながら、ずっと首を捻っていました。歌詞がどういうストーリーなのか、全く理解出来なかったのです。

1番は、まあいいとしましょう。何とも古き良き日本の鄙びた秋の夕暮れ時に似合いそうな情景が浮かびます。そこに2番が登場すると、ここの家庭には何らかの理由で母子家庭であることが窺えます。しかし、学校で習う限りこの歌はここで終わってしまうため、何故夜鴨の渡る夜にお父さんの笑顔を思い出すのか、さっぱり分からなかったのです。

ところが、大きくなって知ったのですが、この曲には隠された3番があったのです。

3、さよならさよなら 椰子の島
  お船に揺られて 帰られる
  嗚呼 父さんよ御無事でと
  今夜も母さんと 祈ります

これを知った時、私の中で初めてこの曲の歌詞の世界が繋がりました。

この曲が、出征兵士の残された家族の祈りの歌だったということを初めて知った時、ショックでした。と同時に、学校で習っていなかったとは言え、きちんと調べもしないでほったらかしにしていたことを恥じました。しばらく涙が止まらなかったことを、今でも覚えています。

これを前提として友人との話に話題を戻すと、友人は

「教科書には2番までしか載っていないが、実はこの曲には3番がある」

ということを生徒たちに教えて歌わせていたそうなのですが、そのことを近日校長から

「余計なことを教えるな!」

と注意されたのだそうです。

驚いたものの納得いかなかった彼は、自分がどういった意図で3番を子供たちに歌わせているかをとくとくと説明したそうですが、校長は

「そういうことは社会の時間に、教科書に書いてあることだけを教えればいい。日本兵がシベリアで抑留されたり南方でマラリアに罹ったりしたことよりも、日本人が中国や韓国の人たちに多大な損失と迷惑をかけたということを教える方が大切だ。」(本当にこう言ったそうです。)

と言って一歩も譲らず、話にならなかったのだそうです。友人の話では、恐らく生徒の保護者から問い合わせという名のクレームがあったのだろう…ということでした。

何という馬鹿馬鹿しい、そして何と嘆かわしいことか。そんな考えの人間がトップに居る学校の生徒たちは、はっきり言って不幸です。

この曲は終戦の次の年にJOAK(現NHK)ラジオで放送された《復員だより》のテーマソングとして流されていました。南方から復員してくる兵隊さんの中に、自分の父親が、息子が、兄弟が、友人がいるかも知れない…当時、そんなかけがえのない人の帰りを待ちわびていた人たちが、一体どんな思いでこの『嗚呼父さんよ御無事でと、今夜も母さんと祈ります』という歌を聞いておられたのか、生温い時代に生を受けた我々には想像することすら出来ません。

そんな歴史もあったということを子供たちに教え伝えていくことに、何の問題があるというのでしょうか。そして、いつまで自虐的史観に基づいたお詫び行脚をさせられ続けるのでしょうか。

こういう話を聞くと、今すぐにでも文部科学省の官僚全員引っくくって束にして、火つけて燃やしてやろうかという衝動に駆られます。きちんとした歴史や文化を教えられないのであれば、文科省なんぞ無い方がマシです。

そんな憤りをお互いに語りながら、まだまだ自分達の中に青い部分があることに喜びを感じて嬉しくもなりました。私はこれからもノホホンとしたお気楽な日常が流れますが、彼は明日からまた厳しい環境下に身を投じることになるわけです。でも、彼なら上手く切り抜けてくれるのではないかと思いつつ

「しんどくなったら、いつでも電話してこいよ!」

と言って別れました。

そんなわけで、文科省の意図に邪魔されない正式な《里の秋》を、初演で歌われた川田正子さんの歌唱でお聴き下さい。

里の秋_川田正子さん
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