共 結 来 縁 ~ あるヴァイオリン&ヴィオラ講師の戯言 ~

山川異域、風月同天、寄諸仏子、共結来縁…山川の域異れど、風月は同天にあり、諸仏の縁に寄りたる者、来たれる縁を共に結ばむ

みんなのミュシャ展

2019年09月27日 21時50分10秒 | アート



今日は渋谷Bunkamuraザ・ミュージアムで開催中の《みんなのミュシャ展》に足を運びました。

アール・ヌーヴォーを代表する芸術家アルフォンス・ミュシャ(1860〜1939)はチェコに生まれ、パリで活躍した画家です。その精緻な画風から『線の魔術師』とも呼ばれました。繊細で華やかな作品はたちまち人々を魅了し、『ミュシャ様式』とも呼ばれるそのスタイルは後世の芸術家に影響を与えてきました。

この展覧会では彼の幼少期の貴重な作品を筆頭に、自作の工芸品、蔵書、20代に手がけたイラスト、彼の名を一躍有名にした様々なポスター等、ミュシャ財団監修の下で彼の原点と作品の魅力に迫るものとなっています。

19世紀末、パリをはじめとするヨーロッパにはジャポニスム(日本趣味)が広がっていました。それに影響されたのはミュシャも例外ではなかったようで、ここでは彼のジャポニスムコレクションである日本の七宝焼の壺なども展示されていました。また、20代に描いたカリカチュア(風刺画)からは、明らかに『北斎漫画』の匂いがプンプンしました。やはり彼等にとってHOKUSAIやHIROSHIGEの作品は、自身の芸術活動に強烈な印象を与えられたものだったのでしょう。

メインとも言えるポスター作品は、ミュシャを一躍有名にした



サラ・ベルナールの舞台《ジスモンダ》は勿論、鉄道会社のポスターである《モナコ-モンテカルロ》、バレエ《ヒヤシンス姫》といった斬新かつ「ミュシャと言えばコレ!」というような有名なものが紹介されていました。

ミュシャはポスターだけでなく、春夏秋冬といった季節や、舞踏・絵画・音楽・詩といった芸術、トパーズ・ルビー・アメジスト・エメラルドといった宝石等を擬人化した装飾パネルを数多く生み出しました。そうした作品には



例えば上の《舞踏》のように縦長な構図のものが多く見受けられますが、これらも日本の浮世絵の構図から学んだものと言われています。

今回特に興味深かったのが、ミュシャに影響を受けた日本の文芸誌やマンガ、イラストの数々です。

ミュシャの作品は、主にパリの美術学校に留学していた日本人学生たちによって日本に紹介されました。彼等が帰国時に持ち帰った図録やポスターは当時の文芸雑誌の表紙画や宣伝ポスターのデザインに逆輸入的に多大な影響を与えました。今展では、そうした関連作品の展示もありました。

有名なところでは、明治時代の歌人である与謝野晶子の歌集『みだれ髪』の復刻版が置かれていました。



この表紙画を藤島武二が描いたのは1901年のことですから、ミュシャがまだ存命中のほぼ同時代に既に彼の作品が日本でも紹介され、日本人画家達に大きな影響を与えていたことが分かります。

ミュシャは死後しばらくは、特に第二次大戦後の冷戦構造下にあった中で西側諸国と呼ばれていた国々では、旧チェコスロバキア側で亡くなったミュシャは東側の鉄のカーテンに遮られ忘れられた存在でした。しかしミュシャの死後24年、1963年にロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館でミュシャの回顧展が開かれるとたちまちロンドンにミュシャ旋風が巻き起こり、しばらく忘れられていたチェコ人画家の業績を再び表舞台に蘇らせることとなったのです。

そんなこともあって、1960〜70年代にイギリスやアメリカで発売されたレコードジャケットやポスターを手がけたものの中にはミュシャの作品からインスピレーションを受けたものが見られるようになりました。この展覧会ではその時代に活躍したスタンレー・マウスやデヴィッド・エドワード・バードといった、ミュシャに影響を受けた当時のグラフィックデザイナー達の作品も展示されていました。

また会場には、ミュシャの作品にインスピレーションを受けたグラフィックアーティストの天野喜孝や漫画家の山岸凉子といった現代の日本人アーティスト達の作品も並列展示されています。ミュシャ作品との共通点を探しながら鑑賞してみると、彼等が如何にミュシャから影響を受けているかが垣間見えて、非常に興味深いものでした。

ミュージアムショップには



絵葉書は勿論、カレンダーや手帳、変わったところではプリントの手ぬぐいといった様々なグッズが用意されていました。

明後日の日曜日までで終わってしまうところだったので、正に駆け込み鑑賞となってしまったのですが、それでもアルフォンス・ミュシャの絢爛な世界観を堪能することができました。これだけの大規模展示はなかなか無いと思いますので、興味のある方は明後日までにおいでになってみて下さい。

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