私の姿を認めて興奮したのだろう。鼻息が荒くなり屋内から出てきた。太陽の光を浴びてほんの一瞬だが全身が金に見えた。「またー正月だから、めでたく金などと書いて」と思われる読者もいらっしゃると思う。でも日陰から日向に移動した瞬間、本当に輝いたように見えた。
その正体は霧島市牧園町の和気神社で飼われているイノシシ「あいちゃん」。全身が白い毛で覆われている。誕生は94年8月11日。近くの人が交配させて産ませた中にいたという。翌年の亥年に奉納された。 この神社は和気清麻呂(わけのきよまろ)を祭っている。769年、皇位を狙う野望を阻まれた道鏡の怒りを買い、大隅に流されたことに由来して建立された。清麻呂が宇佐八幡宮に参詣する時には約300頭の猪が現れ、前後を守って約10里の距離を案内したそうだ。このことから明治時代の亥年に発行された10円札には清麻呂と猪が刷ってある。
昔から人と動物がかかわって伝えられている話は多い。スサノオノミコトのヤマタノオロチ(大蛇)退治などの話もあるが、猪の集団が清麻呂を守って参詣する光景などは想像すると面白い。動物との触れ合いでほほ笑ましいのは空海(弘法大師)と狸の話がある。
高松市にある84番札所・屋島寺には弘法大師が道に迷った時に道案内をした太三郎狸が祭ってある。さらに、寺の住職が悟りの境地に達すると、屋島に住み着いているタヌキが紅白に別れて源平屋島の合戦の様子を再現して祝ってくれるという。私がこの話を聞いたのが十数年前、住職はまだ見たことがないと話してくれた。その後、紅白戦を見ることが出来たのかは確認していない。
今年は亥年。よく知られているのが猪突猛進。無鉄砲に敵に突進する人を猪武者と揶揄するような言葉もある。さて、「あいちゃん」はどうだろう。境内に造られた総檜作りの「御殿」で暮らしている。しかも運動場とプール付き。
「あいちゃん」の名前は、和気神社にちなみ、さらに和気藹々から付けられたそうだ。こちらも、あいちゃんが元気に教えている「わきあいあい」で、この1年を過ごしたいと考えている。
遅ればせながら、新春のお喜びを申し上げます。今年もよろしくお願いします。
毎日新聞鹿児島支局長 竹本啓自 2006/1/3掲載