はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

日の出

2007-03-28 10:43:29 | はがき随筆
 山の端が赤く染まり間もなく日の出である。
 「おーい、始まるぞ」。夫の声に促されて何をおいてもと、居住まいを正して待つ。
 やがて一点が眩しく光り、日の出の始まりである。
 目を閉じて眼裏に彩色を追いながらポッカリ浮かび上がるのを待つ。
 光背を煌めかせて一瞬眼に刺し入る輝き。
 今日、一日の始まりである。
 無我夢中の頃は、感じようともしなかったのに今は生かされている幸せをかみ締めながらの毎日である。
   南さつま市 寺園マツエ(85)2007/3/28 掲載

はがき随筆2月度入選

2007-03-28 10:36:15 | 受賞作品
 はがき随筆2月度の入賞作品が決まりました。
△ 出水市高尾野町、山岡淳子さん(48)の「春を待つ」(11日)
△ 鹿児島市慈眼寺町、馬渡浩子さん(59)の「お粗末話」(14日)
△ 薩摩川内市樋脇町、下市良幸さん(77)の「老人ホーム」(3日)
の3点です。

山岡さんの「春を待つ」は、暖かく優しい日の光や沈丁花の蕾を描いた文章で、うれしいという語句が数回出てくる、題目どおりの「春を待つ」喜びをストレートに感じさせる楽しい作品です。そして2月のほとんどの文章が、内容や題目、表現法が少し違っても、すべてもうすぐ来る春を待つ気持ちを書いているのですから、何と言っても山岡さんが2月の代表選手ということですかね。
 さて馬渡さんの「お粗末話」は、馬渡さん夫婦は夕方に結婚記念日を思い出し、外出するのも面倒というわけで、ちょっとしゃれたテーブルセッティングをします。ごちそうを並べ、張り切ってみますが、気がついたらいつものテレビに夢中だった、ということ。結びの一文、「32年の時を経た夫婦の話」も、あっさりと面白い。自分を横から見るさっぱりした味がいいですね。
 この良さは、下市さんの「老人ホーム」にも。日曜日、老人ホームを訪れた下市さん、少ない職員の多忙な中を少し手伝います。以前ここに、お母さんがおられたということですから、その思い出もあってかどうか、あや、下市さんのお人柄のせいでしょう。実に快い穏やかな訪問記になっていますね。
 2月の文章は皆、暖かい春を前にして、明るさを秘めたものでした。

(日本文学協会会員、鹿児島女子短大名誉教授・吉井和子)

係から
 入選作品のうち1編は31日午前8時40分からMBC南日本放送ラジオで朗読されます。「二見いすずの土曜の朝は」のコーナー「朝のとっておき」です。