はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

不思議に時は流れる

2010-06-08 11:27:47 | はがき随筆
 高卒後、県の出先機関に臨時職員(日給130円)として採用された。夜は短期大学第2部に通い、ノート整理で午前1時2時就寝がごく当然であった。
 夜学部の高校生を対象に、授業案なしの教育実習、今と比べると雲泥の差がある。47年前のころで、教員採用もほぼ全員であった。高卒者は小学校助教諭で、通信教育に免許取得、大学卒資格にと一生懸命であった。
 夏休み、先生方の姿はほぼ皆無であった。今は、ほとんど勤務して一日中パソコンとにらめっこしたり研修したりの現実。今も以前も不思議さも感じずに時は不思議に流れる。
  出水市 岩田昭治(70) 2010/6/8 毎日新聞鹿児島版掲載

沖縄で見たもの

2010-06-08 11:06:20 | はがき随筆
 基地問題で揺れる沖縄を数年前に仲間と旅した。地元の教師に案内を頼んだ。集団自決のあった洞(がま)へ行った時のこと。平和像に拝礼して帰ろうとした際、「ここを見て」とガイドは横の戸を開けた。中は全員がやっと入れる広間になっていた。懐中電灯に照らされた一角を見て、私は思わず息を呑んだ。六十数年の時を越えた遺骨、茶碗、皿、櫛、鏡などのかけらが散乱していた。これが沖縄なのだと私は思った。外に出て生温い風の中、自然と涙が流れた。
 私は思う。戦場となった沖縄を軽率に語ってはならないと。
  山室恒人(63)大口市 2010/6/6 毎日新聞鹿児島版掲載

挑戦

2010-06-08 11:03:40 | 岩国エッセイサロンより
2010年6月 5日 (土)
岩国市  会 員   横山 恵子

「雑音を聞かせて悪いけど、少しだけ吹かせて」と一応、夫に許可を得てフルートを吹き始める。習い始めて2ヵ月。退職したら楽器を習おうと思っていたが、時間だけが過きた。

2月に孫が生まれたので「よし! 誕生日に吹いて祝ってやろう」と決心して申し込んだ。不安だったが、我が子ぐらいの先生が「今のはよく音が出ましたね」とほめてくれるので、やる気が出た。思うように音は出ないが、うまく吹けた時はうれしくなって、もっと頑張ろうと思う。

 食べず嫌いだったのか。若い時からやっておけば良かったなあ。あーあ、勉強も。
(2010.06.05 毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩国エッセイサロン花水木より転載

友の死を今もいたむ

2010-06-08 10:58:10 | 岩国エッセイサロンより
2010年6月 3日 (木)

   岩国市  会 員   横山 恵子

 5月25日付広場欄の「水難救助には浮き袋を」を読み、小学校時代のつらい出来事を思い出した。

 近くの川で一緒に泳いでいたAちゃんが深みに入り、そばにいた私にしがみついた。それは想像だにしないものすごい力だった。私が潜ると手を離したので何とか助けることができた。

 おぼれる人の救助には、浮袋か長い棒が必要なことを身をもって知った出来事だった。

 夏休みには祖父母の住む田舎に泊まりに行った。近所のSちゃんが「明日は岩国のおばさんの家に行くんよ」とうれしそうに話してくれた。

 しかし、その2日後、Sちゃんは変わり果てた姿で帰ってきった。子どもたちだけで泳ぎに行きおぼれてしまったのだ。

 Sちゃんのおとうさんは連れて帰るタクシーの中、生き返るのではと、ずっと抱いておられた。その夜、私は祖父の後を思い足どりでついって行った。

 Sちゃんは、まるで眠っているようだった。お母さんは信じられないといった様子でSちゃんの頭や手をなで話しかけておられた。胸中を思うと今も心が痛む。

(2010.06.3 中国新聞「広場」掲載)岩国エッセイサロン花水木より転載