はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

あじさい園

2010-06-26 21:00:33 | はがき随筆
 梅雨の晴れ聞、あじさい園に行った。急な傾斜で、天に届くかと思われるような高い所まで植えてある。あじさいは青や赤など七変化すると言われるが、色とりどりの花が咲き誇っている。そこへ雨が降ってきた。雨に濡れたあじさいは、先の美しさに輪をかけて、きらめきさえ見られる。
 足元をみれば、その昔、棚田だったのではないかと思われる。二、三畳の平らな面が数多く自然に拡がっている。`それに遠くから、せせらぎの音まで聞こえてくる。去り難かったが、バスの時間もあり、あじさい園をあとにした。
  出水市 田頭行堂(78) 2010/6/22

間に合った

2010-06-26 20:43:54 | はがき随筆
 テラスの前の側溝に芝生が根を伸ばし、詰まっていた事に気付かず、庭一面が水浸しになった。固まった根をほぐすために古い鋏で作業をした。右手の薬指は傷つき、全身も過労で苦しい日々だった。でも梅雨入りまでには何としても仕上げたい。
 ドライアイの眼にサングラス、暑い日射しに帽子、水分捕給にスポーツドリンクを用意。杖とシートに身を委せて、20日間近くかかり、清掃を終えた。
 努力の跡が眩しい。手術後の不自由な体も忘れる喜びで涙が溢れた。間に合って良かった。
  薩摩川内市 上野昭子(81) 2010/6/21 毎日新聞鹿児島版掲載

充電の後で

2010-06-26 20:29:13 | 女の気持ち/男の気持ち
 主人の三回忌の法要を済ませて、新幹線で大阪に向かった。独り暮らしの寂しさを紛らわすために、青葉若葉の季節に促されるように、娘一家の誘いを受けて旅立つことにしたのだ。
 大阪駅のホームで娘と孫に迎えられ、大勢の人にもまれて地下鉄に乗り、娘の家に着いたのは小倉を出て3時間余り後だった。独り暮らしを離れ、娘一家との生活が始まると、三度の食事も楽しさを味わうことができた。
 中途失明で視覚障害者になった私は本が大好きで、普段は朝起きてお昼までは点字図書館の方の好意でCD図書を聞く。お昼からは仲良しの友だちの来訪や電話で過ぎていく。
 家にいると、雨の日は憂うつな気持ちになり、さわやかに晴れた日は散歩したい気持ちが自由にならないためストレスとなってしまう。仲良しの友や近所の方も施設に入ったり天国に行ってしまい、寂しさを感じる日が多くなっていた。
 そんな時、「気晴らしにおいで」と孫から電話があり、はやる心で大阪に向かったのだった。
 娘との毎日の買い物や散歩。小旅行に連れていってもらったりもして、あっという間に20日間が過ぎた。でも、いつまでもいるわけにはいかない。心に楽しい思い出を充電してわが家に帰った。
 今日からはまた、返事のない主人と語り合い、楽しかったことを思い出しながら元気を出して暮らそう。

 北九州市小倉南区 成瀬昌子・80歳 2010/6/22 毎日新聞の気持ち欄掲載