はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

「涙こらえて読む「ぞう」の物語」

2010-06-19 15:23:12 | 岩国エッセイサロンより
    岩国市   会員   貝  良枝

 小学校で読み聞かせをしている。今回は6年生。昨年他の人が読んでいるのを聞いて涙がこぼれそうになった、「かわいそうなぞう」を読むことにした。

 戦時中、上野動物園で行われた3頭のゾウの殺処分の話だ。娘はこの絵本を見て「小学生の時、○○先生が読んでくださった。読みながら先生が泣き出し、泣き終わるのを待つのにどうしていいかわからなくなった」。と話してくれた。

 読み聞かせの時、いつもなら児童のほうに目をやり様子をうかがうのだが、今回ばかりは見ることができなかった。自分が泣き出さないよう読むのが精いっぱいだった。

 児童はじっと聞き入ってくれた。大切に育て愛された命を殺さなければならなかった時代状況と飼育員の心の痛みを、少しでも分かってもらえたらうれしい。

              (2010,06,16 朝日新聞「声」欄 掲載)岩国エッセイサロンより転載


ウミガメの海

2010-06-19 15:07:13 | 女の気持ち/男の気持ち
 先日、薩摩川内市の寄田海岸でウミガメが死んでいた。聞けばアカウミガメだという。若いころ見たウミガメとは姿が違っていた。あの時の彼女はアオウミガメだったのだろう。
 25歳の私は、大隅半島太平洋岸の小さな中学校で教師をしていた。豊かな自然の中で育った子どもたちは15歳にもなると、ウナギ捕り、キノコ狩り、海釣りなど何でもこなした。共に過ごした私は、彼らから多くを学んだ。
 「ウミガメは卵を産む時、涙を流すんだ」
 ある日の正夫の語りに私たちは驚き、どうしても見たくなった。
 7月初めの夜9時、正夫の指示した場所に男女11人が集まった。昼間、オレンジ色に輝いていた砂浜はもう暗かった。岩陰に隠れて、時に光る海面を見つめながら、ウミガメの上陸を待った。夏の夜の潮風は甘く優しかった。若者たちの時間は早く流れて、たちまち2時間が過ぎていた。
 「今日は、も、解散すっが」と正夫。
 あきらめて2㌔先の住宅の灯を目指して、カランコロンとゲタを鳴らしていると「先生、今来てる」の声。
 正夫の自転車の後ろに飛び乗り、浜へ急行した。
 ウミガメはもう水辺にいた。フジツボの付いた背をそっと触った。彼女が波間に消え去るまで、2人でずっと見送った。
 あれから40年がたった。正夫、元気でいるか。ウミガメはまだ来てるか。
  鹿児島県出水市 中島 征士・65歳 2010/6/17 毎日新聞の気持ち欄掲載

「最期の朝」

2010-06-19 14:52:45 | 岩国エッセイサロンより
   岩国市  会 員   片山 清勝

 ご主人様のウオーキングに合わせて朝3時50分にセットされている目覚まし時計。その中で働き続けて何年になるだろうか。少し前から針を進める力が弱くなり、ベルを鳴らそうとすると息苦しい。

 今朝はかすかな音でやっと「リリリ……」と鳴らしたが、30分遅れだった。ご主人様のウオーキング出発を遅らせてしまった。ご主入様は「いよいよ、替えどきか」と力の衰えに気づいてくれた。狭い住み家から私たちを取り出したご主入様。「ご苦労さん」と慰労してくれ、回収袋に入れてくれた。私たちは、務めを終えた乾電池。
  (2010.06.16 毎日新聞「はがき随筆」掲載)
岩国エッセイサロンより転載

笑いたいけど

2010-06-19 14:42:07 | 女の気持ち/男の気持ち
 人の体と心はつながっていて、一つのものだと感じるこのごろ。そんなとき、何気なくつけたテレビで「心から笑うことは体にとても良いし、おかしくなければ本当に笑わなくても、まねをするだけでも良い」と言っていた。笑うまねをすると、体が勘違いをするらしい。
 私は早速、1日に1度心から笑おうと決心した。そんなことはたやすいこと、何を今さら。けれど一日中、1度も笑うことなく、気が付くと床の中にいたという日が続く。笑うことがどんなに難しいことかと改めて感じた。
 高齢者の方の特徴をつかみ、見事に表現して笑わせるAさんのビデオテープを見て思いきり笑った。けれど2度目に見た時はもうおかしくなかった。
 仕方ないので作り笑いをすることにした。それも家族のいる所でするのは恥ずかしくてはばかれる。誰もいない1人の部屋に行き、テレビで見た防府市の伝統あるお笑い講よろしく、大声で作り笑いをした。けれど1人でするそれはとてもバカらしく、ただむなしかった。
 今日も夫が庭に出たので、大声で作り笑いをした。寝ていたチワワのチビが、何事かと跳び起きて、私の顔をまじまじと見ていたが、また横になって大きなため息を1つした。
 その様子がとてもおかしくて、心から大笑いした。
 今日はやっと笑えたなあ。
 山口市 平井フサヱ(73)
2010/6/15 毎日新聞の気持ち欄掲載

最後の肩もみ券

2010-06-19 14:36:27 | 女の気持ち/男の気持ち
 次男の結婚披露宴も終盤に入った時、開演前に司会者に耳打ちしていたサプライズがいよいよ始まった。
 「新婦のお母様、そして新郎、前に──」
 司会者からの突然の促しにあぜんとしている2人。
 「新郎、あなたは小学生の時、お母様に『肩もみ券』をあげたこと、覚えていますか」
  「……はい、多分」
  「ここに1枚の『肩もみ券』があります。20年前の母の日にあなたがプレゼントした5枚つづりの最後の1枚です。あなたのお母様はこの券を、今日、新しい母となる新婦のお母様のために使いたいとのことです。では肩もみ始めてください。トン、トン、トン」
 司会者の話術に助けられ、私の願いはかなった。会場の末席から2人を見ながら、思い悩んだ子育ての日々が走馬灯のように頭を巡る。
 長女、長男に続き、次男にも訪れた大波、小波に大津波。疲れ果て、投げ出したくなった時、取りだして見ていた「肩もみ券」。鉛筆書きの太く大きな字に、純真な彼の真心を感じ、立ち上がる不思議なパワーをもらった。
 「かたもみ券、十五分はタダ。ついかはお金がいります」
 有効期限なしの最後の1枚を今日使い終えた。
 3羽目の巣立ちを見届け、この日もらった「僕を産んでくれてありがとう」のメッセージカードを宝箱に納める。末永く幸福にね。
  北九州市若松区・パート 安元 洋子・59歳 
2010/6/14 毎日新聞の気持ち欄掲載

学ぶ心と態度

2010-06-19 12:12:32 | はがき随筆
 ボランティアの帰途、知人の植木や盆栽の剪定に、いつもの静かな技の集中するすばらしい一面を発見した。某紙の投稿欄「若い目」に描かれた大人の見えにくい姿に大きな刺激を受ける。また、読書感想文に、小生の幼きころを重ね、家庭の躾や学校、社会の教育力の高まりの影響か、感性の高さに敬服する。一方、新聞紙上の文芸(短歌・詩・俳句・川柳・狂句)などに、随分練られたであろう知性の豊かさに頭が下がる想い。
 テレビや新聞に見られる高齢者の在り方に示唆を与える教養番組の数々に感謝。学ぶに謙虚さを忘れず挑戦してみよう。
  薩摩川内市 下市良幸(80) 2010/6/18 毎日新聞鹿児島版掲載

ゲゲゲの婿殿

2010-06-19 12:07:00 | はがき随筆
 婿殿は永年の水木しげるさんの漫画本が愛読書、大ファンなのだ。体格が良く見かけは気難しく怖そうに見える。私はあんなご本の何処が良いのかと思っていたが、朝ドラのゲゲゲの女房を見るようになってから俄然婿殿を見直した。実やさしい心の持ち主であるのた。
 水木さんのご本を垣間見るにそんな気がするのである。
3人のこの父親で子たちが小さいころは野外に家族連れで出掛けるようだった。今は3人とも成人して、たまに自宅で団欒しているようだ。子たちが一人前に成長するのを楽しみに夢見ているのではと。
  伊佐市 宮園続(79) 2010/6/17 毎日新聞鹿児島版掲載

老老介護

2010-06-19 12:02:07 | はがき随筆
 どこか遠い国の事のように聞いていたことが現実に目の前に迫る。私84歳、妻80歳、後期高齢者である。これまでは何でも出来ると思っていたが掃除、洗濯、家事一切、2、3日は出来ても寄る年波にはかなわない。妻、膝の手術で約3ヵ月入院。その間悪戦苦闘を助けてくれたのは川崎に住んでいる娘。てきぱきとやってくれた。感謝している。2人で半人前と言われているが実際体が動かない。これからも老老介護。妻と二人で細々ながら生きていこう。
 「あなた百までわしゃ99まで」。歌の通りになれたら幸いと思う。
  薩摩川内市 新開譲(84)2010/6/15 毎日新聞鹿児島版掲載

炊飯器

2010-06-19 11:58:56 | はがき随筆
 わけあって妹に炊飯器を借りている。美味しいご飯が炊きあがるので助かっている。感謝の気持ちもあって、その炊飯器の内蓋を取り外していつもより丁寧に洗おうと思い立った。日曜の朝のことである。
 きれいになって取り付けようとして「あれっ?」となった。ゴムパッキン一つ、確かここにあったはずと入れ込もうとするが何回やってもピタッと入らない。昼過ぎには持ち主の妹に取扱説明書を持って来てもらい、二人でああでもない、こうでもないとやってみた。2対1の取っ組み合いは完敗で終わった。
 教訓、「確か」は「不確か」。
  薩摩川内市 横山由美子(49) 2010/6/14 毎日新聞鹿児島版掲載