はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

はがき随筆3月度

2013-04-29 17:05:02 | 受賞作品
 はがき随筆3月度の入賞者は次の皆さんです。(敬称略、年齢は掲載時)
【月間賞】15日「小さな友」松尾繁(77)=出水市
【佳作】16日「教え子の夢」小村忍(69)=出水市
▽18日「こんにちは」畠中大喜(76)出水市


小さな友 書き出しの一文がいいですね。「寒風」のイメージは屋内に閉じこもるものですが、それが「野鳥」で逆に戸外へと解放してくれます。それに、小鳥の挨拶にむきになるところや、ジョウビタキの姿勢に鹿威しをみるなど、すぐれた表現が目立ちます。野鳥との交感が内容になっていますが、小鳥と人との永い永い「よしみ」を、冬の農作業で実感するところに、人も含めた自然の営みを感じさせてくれる文章です。
 教え子の夢 学校の教師は、何となく野暮ったく鈍臭い職業に思われがちですが、子どもの命や人格にかかわる仕事には、他人には分からない悩みも喜びもあります。連絡が取れなくて気がかりだった教え子が、20年ぶりに植物の新種を持って会いに来てくれた。ただそれは夢の中であった、という嬉しいような悲しいような、愛情溢れる文章です。
 こんにちは 散歩の途中で出会った、向かい風の中を自転車で帰りながら、挨拶してくれた女子高校生の爽やかさに、挨拶も忘れがちな自分を反省したという内容です。ちょっとした挨拶でも人間関係の潤滑油ですので、それが若い世代に守られていることに希望を見ることができた、心地よい文章です。
 次に記憶に残った3編を紹介します。
 中鶴裕子さんの「モンキチョウ」は、菜の花の花びらをチョウチョウとみた、3歳のお孫さんの感性の豊かさと柔らかさに、感動したという内容です。確かにこういう感性は持ち続けたいものです。年神貞子さんの「納豆」は、平安末の源義家にまつわる納豆の謂れと、ご自分の納豆製造法を並べて書いたところに、たかが納豆ですが、生活の歴史が感じられる文章になっています。武田静瞭さんの「イークンとひな人形」は、飼っている子猫の可愛さにべったりの文章です。この種の書き方は失敗すると厭味が先走りするものですが、趣味のカメラを通して愛猫をみるという視点があるので、客観的な落ち着きのある文章になっています。
(鹿児島大学名誉教授・石田忠彦)

マコトがいっぱい

2013-04-29 16:57:29 | はがき随筆
 私の名は誠。お向かいの女性陶芸家は本名は違うが、眞窯という窯元で通称「マコトさん」と呼ばれている。
 そこに異動で鹿児島市勤務になった娘夫婦が、住居が決まるまで我が家に同居となった。娘の配偶者の名が真人。家族の会話でも、どのマコトなのかはっきりしないことも。
 村上春樹が新作を発表したので、ネット上に彼の似顔絵を投稿した。それを見た女房が「真人君て村上春樹に似てるね」。そこで娘に「真人君をハルキと呼ぼう」と提案したが、すげなく断られた。当分紛らわしいマコトが続く。
  鹿児島市 高橋誠 2013/4/29 毎日新聞鹿児島版掲載

トンカラリ

2013-04-29 14:51:32 | はがき随筆
 母の終末期には、姉妹3人と兄嫁の4人で1カ月、医院で付き添いました。
 母の寝息を聞いていると、胎内にいるようで、心地よかったです。私を妊娠中、姉と兄は子守さんに預け、紬の機織りを楽しんでいたそうです。少し織っては出来栄えを眺め。少し織ってはおなかをさすっていたのでしょうか。
 トントン カラリ トンカラリ。
 今も耳元で聞こえるようです。私も機織りをしたくなりました。長男に話すと、「やればいいよ」と、インターネットで織物教室を探してくれました。
  阿久根市 別枝由井 2013/4/28 毎日新聞鹿児島版掲載

薬の夢

2013-04-29 14:43:44 | はがき随筆
 いつだったか私が教室で、「この薬を飲むと漢字が覚えられる。この薬を飲むとテストで100点が取れる。そんな薬があってらいいね」と話すと、子どもたちが「そんなのはつまらない。努力しないと」と言ったことがあった。
 神奈川県に住むおいっこが薬の研究をしたいと言っているという。どんな薬の研究、開発を夢見ているのだろう。小さい頃からの興味、関心が旺盛だったおいっこの笑顔が浮かぶ。夢を持って前に向かって進んでいってね。希望の春の始まり。応援しているよ。
  屋久島町 山岡淳子 2013/4/27 毎日新聞鹿児島版掲載