はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

ふるさと

2014-04-04 17:21:51 | はがき随筆
 春は別れと出会いの季節。縁側で日差しを浴びていたら、ふっとあの日、汽車に乗って旅立った記憶がよみがえってきた。古里を後に列車が滑り出すと、母ちゃんが「ムイをせずキバレよ」と一言。ホームで見送る両親との寂しい別れだったが、離れて分かる古里のすばらしさ。思うのは古里の山や川、そして日々の暮らしだった。今、古里に帰り、この自然に親しみながら暮らしているが、あの日から四十数年が過ぎた。人生を振り返ると、古里があって親や多くの縁、出会いによって励まされここまで生きてこれた。でもあの日の両親はもういない。
  さつま町 小向井一成 2014/4/4 毎日新聞鹿児島版掲載

春の朝

2014-04-04 17:09:48 | はがき随筆
 東の空が明るみ始め、夜明けぎりぎりの時間だ。いつもの通りを歩いていると、田んぼの中からヒバリのさえずりが聞こえる。多分、冠羽をたてて、背伸びし、口を精いっぱい開けて鳴いているのであろう。春が来て暖かくなり、子育ての時期とみて、そろそろ巣作りを始めようとしている。他のヒバリに縄張りを主張しているのであろう。繁殖期になると雌は抱卵し、雄は揚げヒバリとにって縄張りを主張する。心配するのはそろそろ農作業が始まり、作った巣を壊されてしまう。12日間くらいでふ化する。キジも縄張りを主張するようにケーンと鳴いた。
  出水市 御領満 2014/4/3 毎日新聞鹿児島版掲載

存命だけで幸せ

2014-04-04 17:03:12 | はがき随筆
 母とスーパーの店内を見て回る。「もし、財布を落としましたよ」。年配のご婦人に呼び止められた。少しばかりのお礼を差し出すと、押し返された。しばしの押し問答の末にご婦人は「私は早くに両親を亡くして、親孝行をしていないの。このお金であなたのお母さんの好物を買って親孝行しなさい。そうすると、私も親孝行をしたことになります。親を喜ばすことが一番です。親が存命だけであなたは幸せですよ」。ご婦人の暖かい言葉にウルッときた目を、慌てて押さえた。「親が存命だけで幸せ」。目からうろこが落ちるような衝撃だった。
  出水市 道田道範 2014/4/2 毎日新聞鹿児島版掲載

桜と花火

2014-04-04 16:56:42 | はがき随筆
 春の訪れを感じるのは冷たい風が暖かな風に吹かれ、枯れ葉の林から新緑の林になる頃であるが、日本人に親しまれ、愛着のある花は桜の花であろう。
 この花が咲くと、春が来たと実感できる。
 熊本の水上村の市房ダム周辺にある1500本の桜の花は今が見ごろである。
 風に吹かれて散る花びらは乱舞する妖精のようである。そして夜になると春の花火大会では九州一の規模を誇る花火があり、夜空に競演の花を咲かせる。それが終わると、ライトアップされた桜は妖艶のごとく、いつまでも心に残像した。
  鹿児島市 下内幸一 2014/4/1 毎日新聞鹿児島版掲載