年間賞に鵜家さん
銭湯での出来事に
我が人生を振り返る
2013年の「はがき随筆」年間賞に鹿児島市武、鵜家育男さん(68)の「寝つけない夜」(8月31日掲載)が選ばれた。鵜家さんの執筆の動機、作品への思いなどを聞いた。年間賞の表彰式を20日午後1時から、鹿児島市中央町の市勤労者交流センターで開く。【土田暁彦】
受賞作は、自宅近くの銭湯での出来事をつづったもの。高齢の夫婦が現れ、妻がかいがいしく夫の背中を流し始めた。「果たして私はこんな幸せをもらえるのだろうか。我が人生を振り返ってみたのです」と投稿の理由を打ち明ける。
電電公社(現NTT)に就職し、30代後半で管理職に。休みなく働き、自称「仕事の鬼」だった。息子3人の子育ては妻真知子さん(64)に任せっきり。九州を中心に退職まで17回異動した。ほとんど単身赴任の経験はなく、真知子さんはその都度、転勤先で仕事を見つけた。
夫婦生活40年だが、愚痴をこぼす妻を見たことがない。十数年前に息子たちが独立。その頃からはがき随筆を書くようになった。妻への感謝をつづった作品も多い。「『こんなに長く連れ添ったのだから優しくしてくれよ』という夫の気持ち。一方、父親として後悔の気持ちも。シンプルに素直な自分の気持ちを書いてみました」
掲載された日、真知子さんが先に朝刊を開いた。「間違っても随筆の奥さんのようにはならないから」。ニヤッと笑う。「ただし、行い次第では大事にしてあげるかもね」
鵜家さんは思わず首を縦に振り、身を縮めたという。
夫婦を考えさせられる
評
鵜家育男さんの「寝つけない夜」を選びました。
銭湯で、97歳のご主人を入浴させた奥さんの手際の良さに感心するとともに、自分たち夫婦というものについてかんがえさせられたという内容です。
男湯に服を着た女性の入室という意外性、事情が分かると、一転、老夫婦間に漂う和み合う雰囲気に感心し、さらに、それを自分のこととして考え込んだという結び。短い文章の中で、話題を三転させる巧みな展開の中に、夫婦というものについて考えさせる力をもっています。
最後まで迷ったのは次の3編です。亡き夫君への愛の告白である、伊尻清子さんの「恋文」(2月24日付)の、はじらいがないところの魅力。臨終近い父親が母親に、病室の天井に星を見ていると言ったという、種子田真理さんの「父が見た星空」(9月11日付)のもつ幻想的な詩情。東北から避難してきている少女が、自分の描いた絵に望郷の念を感じてくれたという、小向井一成さんの「古里の思い」の少女への思いやり。いずれも魅力ある文章でした。
(鹿児島大学名誉教授 石田忠彦)
銭湯での出来事に
我が人生を振り返る
2013年の「はがき随筆」年間賞に鹿児島市武、鵜家育男さん(68)の「寝つけない夜」(8月31日掲載)が選ばれた。鵜家さんの執筆の動機、作品への思いなどを聞いた。年間賞の表彰式を20日午後1時から、鹿児島市中央町の市勤労者交流センターで開く。【土田暁彦】
受賞作は、自宅近くの銭湯での出来事をつづったもの。高齢の夫婦が現れ、妻がかいがいしく夫の背中を流し始めた。「果たして私はこんな幸せをもらえるのだろうか。我が人生を振り返ってみたのです」と投稿の理由を打ち明ける。
電電公社(現NTT)に就職し、30代後半で管理職に。休みなく働き、自称「仕事の鬼」だった。息子3人の子育ては妻真知子さん(64)に任せっきり。九州を中心に退職まで17回異動した。ほとんど単身赴任の経験はなく、真知子さんはその都度、転勤先で仕事を見つけた。
夫婦生活40年だが、愚痴をこぼす妻を見たことがない。十数年前に息子たちが独立。その頃からはがき随筆を書くようになった。妻への感謝をつづった作品も多い。「『こんなに長く連れ添ったのだから優しくしてくれよ』という夫の気持ち。一方、父親として後悔の気持ちも。シンプルに素直な自分の気持ちを書いてみました」
掲載された日、真知子さんが先に朝刊を開いた。「間違っても随筆の奥さんのようにはならないから」。ニヤッと笑う。「ただし、行い次第では大事にしてあげるかもね」
鵜家さんは思わず首を縦に振り、身を縮めたという。
夫婦を考えさせられる
評
鵜家育男さんの「寝つけない夜」を選びました。
銭湯で、97歳のご主人を入浴させた奥さんの手際の良さに感心するとともに、自分たち夫婦というものについてかんがえさせられたという内容です。
男湯に服を着た女性の入室という意外性、事情が分かると、一転、老夫婦間に漂う和み合う雰囲気に感心し、さらに、それを自分のこととして考え込んだという結び。短い文章の中で、話題を三転させる巧みな展開の中に、夫婦というものについて考えさせる力をもっています。
最後まで迷ったのは次の3編です。亡き夫君への愛の告白である、伊尻清子さんの「恋文」(2月24日付)の、はじらいがないところの魅力。臨終近い父親が母親に、病室の天井に星を見ていると言ったという、種子田真理さんの「父が見た星空」(9月11日付)のもつ幻想的な詩情。東北から避難してきている少女が、自分の描いた絵に望郷の念を感じてくれたという、小向井一成さんの「古里の思い」の少女への思いやり。いずれも魅力ある文章でした。
(鹿児島大学名誉教授 石田忠彦)