はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

今日を始める

2015-06-23 20:46:26 | はがき随筆
 夜明けが早くなった。まずは歩め!とスニーカーも内玄関で待っている。1杯の冷水を飲み下し庭へ出る。東方へ向けて、早足で今日をスタート。 緑を橙色に染めた雲に「春ならずとも曙」と呟いてみる。家々の庭からアジサイがあふれ咲いている。みそ汁が匂う。水を流す音も清々しい。健全な暮らしの営みを感じながら、20分くらい歩いた辺りが引き返し地点だ。
 ゆっくりと踵を返す。家近くなるころには脚の長い影法師を、懸命に追っている。汗がにじんできた。 
 元気印の今日が始まる。 
  鹿屋市 門倉キヨ子 2016/6/13 毎日新聞鹿児島版掲載

光源氏の恋

2015-06-23 20:38:31 | はがき随筆
 当時の私は、さながら光源氏が恋しい女性の元へ通うように、その事を断行したのであります。ざっと半世紀も前の中3の放課後。二つ隣のクラスの好きな女子の教室へ、天井裏伝いに友人と侵入したのでした。「聞こえる聞こえる、いとおしい声が……」。そう思った瞬間、ズボッ! 私の右足は、ベニヤ板の天井板を踏み抜き膝から下があらわに……。「キャアーッ!」。絹を裂くような叫び声。「ウワァーッ!」と叫んだかどうかも分からないほど動転して私は一目散に逃げた。そして翌日から光源氏は二度とその教室の前を通りはしませんでした。
  霧島市 久野茂樹 2015/6/12 毎日新聞鹿児島版掲載

すばらしきかな

2015-06-23 15:08:54 | はがき随筆


 私は今、ホテルクラウンパレスにいます。「毎日はがき随筆大賞」が終わり、大賞の発表を待つばかりです。辛口批評の村田喜代子氏が誰の作品を選ぶのか、会場が静まっています。
 あ、発表されました。大賞は鹿児島です。鹿屋市の森園愛吉さんが受賞しました。車椅子の森園さん、自力でつえをついて登壇しました。鹿児島のテーブルは全員起立し、惜しみない拍手を送っています。会場内で多分最高齢の森園さんに全員から暖かい拍手です。おめでとう、おめでとう森園さん。以上現場から本山がお伝えしました。
  鹿児島市 本山るみ子 201/6/11 毎日新聞鹿児島版掲載

バスガイドさん

2015-06-23 15:02:35 | はがき随筆
 山桜が咲く頃と、妻の謎かけに応じて鹿児島の城山へ来た。
 木々の芽吹きで葉がひらひらと舞い落ちる中を観光バスが上がってきた。紺の帽子、紺の制服のガイドさんが、団体客に手を振り、笑顔で説明している。
 ガイドの服装に若き日の姉の姿を思い出す。旅先からの絵はがき、ペナントの土産が楽しみだった。妻も小学校の修学旅行は、姉のガイドだったと思い出す。ガイドの名所案内、歌唱と、笑顔の隣には日ごろの研鑽があることを私は知っている。
 手作りの弁当を頬張り、ガイドさん頑張れと呟き城山を後にした。
  出水市 宮路量温 2015/6/10 毎日新聞鹿児島版掲載

3分間だけ

2015-06-23 05:40:16 | はがき随筆
 スーパーのレジ台に買い物カゴを置いたその時、鮮魚売り場からのアナウンスだ。
 「3分間だけ10%引き」。とっさにカゴをカートに戻し鮮魚コーナーへ直行。
 こんなときにはなぜか素早く動けるものだ。足早に行った先には人の列。その後尾に並ぶ。「3分間だけ」とあって一斉に駆けつける人の気持ちはみな同じなのかもしれない。
 その日私は普段より多くの鮮魚品を買い求めていた。
 値引きされたシールを貼ってもらうと、すごく得した気分になる。僅かな額でもお金のありがたさにうれしくなった。
  鹿児島市 竹之内美知子 2015/6/9 毎日新聞鹿児島版掲載

噴火

2015-06-23 05:20:25 | ペン&ぺん

 口之永良部島の新岳噴火から今日で11日。今も住民の全島避難は続いている。避難先での暮らしはこれからどうなっていくのか。噴火への警戒はいつまで続くのか。先行きが見通せない中で、住民の不安も大きいだろう。地元の屋久島町も懸命に支援の在り方を模索しているようだ。避難の長期化を視野に入れて、課題を一つ一つ解決していくしかないようにみえる。
 恥ずかしながら私自身、口之永良部での噴火というものを全く考えたこともなく、備えも何もなかった。噴火前日は県警を舞台にした志布志事件で警察、検察の控訴断念という大きな出来事を記事で紹介したばかり。翌日、支局でゆっくりテレビを見ていたら、午前10時ごろから突然、噴火の映像が流れ始めた。慌てて支局の記者を隣の屋久島に向かわせ、その後は東京や大阪、福岡などから屋久島に向かう応援記者の高速船の予約や宿泊先、レンタカーの手配に追われた。
 内輪の話で恐縮だが、着の身着のまま屋久島に渡った記者の一部は宿の風呂場で下着を洗濯しドライヤで乾かしながら取材を続けた。後日、シャツや下着を買って鹿児島から現地に送ったのだが、派遣期間に限りのある記者の場合はまだ恵まれている。命の危険にさらされながら荷物をまとめる時間もなく島を後にした住民のたいへんさはいかばかりだろう。毎日新聞が実施したアンケートでも「衣類など必要なものがない」といった回答があった。今後の住む場所や仕事、健康問題など課題は山積と言っていいと思う。
 それにしても犠牲者が一人も出なかったことは特筆すべきで、中でも印象に残ったのは学校の対応だ。今回、避難を決めてから全員が学校を後にするまで3分しかかからなかったという。教職員は、子どもの命を守るというなにより大事な仕事を無事果たした。素晴らしいことだと思う。
  鹿児島支局長 西貴晴 2015/6/8 毎日新聞鹿児島版掲載

ぷんか

2015-06-23 05:11:06 | はがき随筆

 「あ、またぷんかした」
 朝の定点観測が日課だった3歳の息子は、桜島が噴煙をあげるたびにそう言った。一日どころか一刻に七色を変えるその姿を、彼は飽きずに眺めていた。
 群雲が頂を隠せば、「桜島が壊れちゃった」と嘆き、「どうしよう」と応じれば、「大丈夫。すぐ直るから」と答える。弾むようなこどもの感性はぴかぴかだ。
 彼の記憶に残るのは、きっと、灰に悩まされる洗濯物ではなく、陽光を照り返す岩肌だろう。そして、いつの日か、桜島のごつつよか二才(にせ)になるだろう。
  鹿児島市 堀之内泉 2015/6/8 毎日新聞鹿児島版掲載

つばめの巣作り

2015-06-23 05:00:40 | はがき随筆


 玄関先の屋根の梁の内側に巣を作るべく、毎年、燕が視察に来るのだが、なぜかすぐに諦める。どうやら木が邪魔だったようで、切って低くしたら、今年はさっそく巣作りを始めた。
 3日ほどは基礎作りの感じだったが、4日目からは椀状の巣が急ピッチで作られ、10日目くらいには出来上がった巣の中で重なり合うつがいを見た。
 いよいよ抱卵が始まった。下からだとよく分からないが、じっと抱いているようだ。頭が時折見えたりする。オスが餌を運ぶのか、それとも交替するのか。時々鳴き声がする。早く燕の赤ちゃんを見たいものだ。
  霧島市 秋峯いくよ 2015/6/7 毎日新聞鹿児島版掲載