はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

六月の風

2015-06-29 21:11:36 | はがき随筆


トウモロコシは鍋をかけてから取れと親に教わった。釜から立ち上がるあの香り。兄弟で仲良く食べた頃を思い出す。
 ところが、ここ指宿は違うんだな。風呂道具を用意してから収穫するんだな?
 近くのうなぎ温泉で、地元の方にお願いして「スメ」に入れる。待ち時間は温泉でゆったり。たちのぼる湯気、硫黄の香り、青々とした森、神が宿る池。ウグイス、ホトトギスの声を聞きながらいただくトウモロコシ。うますぎる。ヒヤー、心も体も胃袋も幸せいっぱい。自分だけの年間行事。ありがたいなー、うれしいなー。
  指宿市 有村好一 2015/6/29 毎日新聞鹿児島版掲載

84歳差の対面

2015-06-29 21:06:25 | 岩国エッセイサロンより
2015年6月29日 (月)


  岩国市  会 員     河村 仁美

 愛媛の実家の父は肺気腫を患って在宅酸素療法中。
 2年前に私の2人の娘が続けて結婚式を挙げたが、両親は出席できなかった。結婚後、実家に挨拶に行く予定にしていたら、すぐ妊娠してしまい、気になりながらも娘のお婿さんとは写真でしか会えない状態が続いていた。
 半年違いで生まれた2人の孫がやっと1歳になり、車でしまなみ海道を通って愛媛までひいおじいちゃんに会いに行くことにした。

 実家には2組の結婚式で飾っていたウエルカムボードが結婚式の引き出物として送られている。実家に着くと、あいさつもそこそこに母はウエルカムボード抱えて現れ、機関銃のようにしゃべり始めた。
 偶然にも男の孫は父と同じ巳年、女の孫は母と同じ午年。84歳差のご対面となった。
 女の孫は最初は母にだっこされて半べそだったが、慣れてくるといろんなものを手に取って父に手渡している。男の孫は父の隣に座って酸素の管をしている父を心配そうに見ている。父が何か言っているのでよく聞いてみると「かわいらしい。かわいらしい」と言いながら2人の孫の手や足をなでていた。
 生で見られて良かったという両親に、後日、200枚撮った写真からセレクトしてA4サイズ10枚のアルバムを送った。思い出しながら何度も見ているという。
 生きているうちに会わせることができて本当に良かった。

        2015.6.27  毎日新聞「女の気持ち」 掲載岩国エッセイサロンより転載