はがき随筆の4月度月間賞は次の皆さんです。
優秀作23日「薄情な息子」道田道範=出水市緑町
佳作5日「母への感謝状」天野芳子=みなみ薩摩市金峰町
▽10日「小さき者」堀之内泉=鹿児島市大竜町
「薄情な息子」。熊本大地震は出水でも揺れた。もし出水で大地震が起きた場合の逃げ方を、高齢の母親と話し合った。母親は、自分は94歳だから老い先が短い、1人で逃げて命拾いしなさいと言って涙を流した。母子で軽く話していても、いつ現実になるか分からない不安を抱いて、私たちが生きていることは否定できません。熊本のニュースを見るたびに、やりきれなくなります。
「母への感謝状」は、自分の永年勤続の表彰式に、渋る母親を連れて出席した。考えてみれば、自分への感謝状は、共働きの自分たちを助けてくれた父とその死後の母へのものだと気付いたという内容です。子供は自分ひとりで大きくなったと勘違いしているとよく言われますが、両親の愛情に気付くのには時間が必要のようです。
「小さき者」は、子供さんの卒園式で涙を流している我が子を見て、次のステップに踏み出そうとしている不安が感じられたという内容です。有島武郎が母親を亡くした子供たちに呼びかけたように、力強く踏み出せとよびかけたいような、庇護しつづけたいような、複雑な気持ちが現れています。この他に3編を紹介します。
津田康子さんの「諷刺」は、一党支配の政治、平和憲法、IS、中国の覇権主義、原発再稼働、福島、火山爆発と、昨今の世情への不安と不満を羅列し、老人にはどうする力もないと、開き直っておいでです。力のない庶民の武器は、やはり「日本死ね」などの諷刺だと思います。
山岡淳子さんの「かわいい春」は、お孫さんが保育園から帰って、1本のつくしをお土産に持ってきてくれた。母と自分と孫とで、一時かわいい春を楽しんだという内容です。ニュースを見るのが嫌になる日々ですが、こういう情景には人間を信じたくもなります。
下内幸一さんの「山笑う」は、西米良村の登山で見かけた花々が紹介されています。ミツマタ、散る山桜、春一番のマンサク、それらのなかでの一時の安らぎ、美しい文章です。題名もいいですね。
鹿児島大学名誉教授 石田忠彦