はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

はがき随筆4月度

2016-05-19 20:32:53 | 受賞作品
 
 はがき随筆の4月度月間賞は次の皆さんです。
 優秀作23日「薄情な息子」道田道範=出水市緑町
佳作5日「母への感謝状」天野芳子=みなみ薩摩市金峰町
▽10日「小さき者」堀之内泉=鹿児島市大竜町


「薄情な息子」。熊本大地震は出水でも揺れた。もし出水で大地震が起きた場合の逃げ方を、高齢の母親と話し合った。母親は、自分は94歳だから老い先が短い、1人で逃げて命拾いしなさいと言って涙を流した。母子で軽く話していても、いつ現実になるか分からない不安を抱いて、私たちが生きていることは否定できません。熊本のニュースを見るたびに、やりきれなくなります。
 「母への感謝状」は、自分の永年勤続の表彰式に、渋る母親を連れて出席した。考えてみれば、自分への感謝状は、共働きの自分たちを助けてくれた父とその死後の母へのものだと気付いたという内容です。子供は自分ひとりで大きくなったと勘違いしているとよく言われますが、両親の愛情に気付くのには時間が必要のようです。
 「小さき者」は、子供さんの卒園式で涙を流している我が子を見て、次のステップに踏み出そうとしている不安が感じられたという内容です。有島武郎が母親を亡くした子供たちに呼びかけたように、力強く踏み出せとよびかけたいような、庇護しつづけたいような、複雑な気持ちが現れています。この他に3編を紹介します。
 津田康子さんの「諷刺」は、一党支配の政治、平和憲法、IS、中国の覇権主義、原発再稼働、福島、火山爆発と、昨今の世情への不安と不満を羅列し、老人にはどうする力もないと、開き直っておいでです。力のない庶民の武器は、やはり「日本死ね」などの諷刺だと思います。
 山岡淳子さんの「かわいい春」は、お孫さんが保育園から帰って、1本のつくしをお土産に持ってきてくれた。母と自分と孫とで、一時かわいい春を楽しんだという内容です。ニュースを見るのが嫌になる日々ですが、こういう情景には人間を信じたくもなります。
 下内幸一さんの「山笑う」は、西米良村の登山で見かけた花々が紹介されています。ミツマタ、散る山桜、春一番のマンサク、それらのなかでの一時の安らぎ、美しい文章です。題名もいいですね。
鹿児島大学名誉教授 石田忠彦

2016-05-19 18:14:35 | はがき随筆
 戦隊ヒーローが代替わりするように、息子のマイブームは次々と変わる。チョウ、カブトムシときて今年は蛙だ。遠足先の公園にたくさんいて、友達とキャッチアンドリリースを楽しんだらしい。帰宅してからもずっと蛙が欲しいと騒いでいた。
 雨の日に息子の後をついて行くと、果たして蛙がいた。小さな黒い蛙で、脚をのばしても5㌢に満たない。辺りをうかがい時折ぴょんと跳ねる。壁を伝い、岩かげに潜み、自在に動く姿は小さな忍者だ。皮膚には毒を仕込んでいるという。息子の心をつかんでいるのは、蛙に潜む一種のヒロイズムかもしれない。
  鹿児島市 堀之内泉 2016/5/19 毎日新聞鹿児島版掲載

仲良し兄妹

2016-05-19 18:08:16 | はがき随筆
 亡夫の十年祭には大阪のおい、めいたちも来てくれた。「兄妹3人で小旅行を兼ねて行きます。伯母さん(夫の長姉)を見舞った後、天文館で酔いつぶれてホテルに泊まります」ということで、その夜は市内のいとこも呼んで一緒に飲んだという。
 この夫の兄の子供たち3兄妹は、上から男女女で実に仲がいい。父なき後3人で母親を支えてきたが、この数年は寝たっきりだ。今は病院から引き取って末っ子のMちゃんが介護している。看られる人が看ればいいというふうで、家族も温かい。
 天国から義兄がどんなにか感謝しつつ見守っていることか。
  霧島市 秋峯いくよ 2016/5/18 毎日新聞鹿児島版掲載

肩の荷が下りる

2016-05-19 18:00:21 | はがき随筆
 長男が結婚相手を連れて家に帰って来た。お見合いをしてもまとまらず、もう結婚願望はないものと決めていた。
 昨年私に初期のがんがみつかりに入院手術。退院後は体力気力が一向に上がらず、鬱々した日を過ごすこととが多かった。息子の吉報に気分上昇。涙腺が緩みっぱなしで夫もあきれていた。婚姻届の署名を2人でもらいに顔をだしたとき、夫は「姉弟家族を束ねていくように」、私は「4月1日生まれで同級生でも一番下だから、今なのかもね」と語る。気持ばかりのお祝い金はすぐ妻となる人に渡した。息子39歳の新たな旅立ち。
  いちき串木野市 奥吉志代子 2016/5/17 毎日新聞鹿児島版掲載